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目の前の男は、さっきまで倒れてたとは思えないくらい、普通に起き上がった。
「あんまりすぐに起き上がらない方がいいよ」
だって急に倒れてたし。脱水症状を甘く見ない方がいい。
「……今のは、何をした」
低い声で、男が言う。
「え? いや、0S-I。経口補水液だけど」
「……は?」
あ、知らないですか。
「水分と糖分、あと電解質補給するやつ。スポーツドリンクみたいなやつ」
「すぽーつどり・んく?」
え、それも通じません?
「……回復魔法ではないのか」
「違う違う」
いや、魔法って何を言うてるの。
男はしばらく黙って、自分の手を見てる。握って、開いて、また握って。
で、顔を上げた。
「ありえん」
「え?」
「回復魔法でも、起き上がるまでに半日はかかるのだ」
「いや、知らんよ」
魔法って、まだ言うんだ。
「それが、この状態だ」
「まあ、脱水は回避できたみたいだね」
「そんな速度で回復するものか」
「いや~、それはお兄さんが若いのもあるけど」
まあ、ほんとは、しばらく横になっててほしい。普通に熱中症って怖いんだよ。
っていうか何、この人。いや、この世界。
男はじっと、私の持ってる空のボトルを見た。
「……その薬、まだあるのか?」
「え? あ、うん」
「売ってくれ」
いやいや。
「これ、売り物っていうか……もう期限切れ寸前だよ?」
「構わん」
即答だった。
「いくらでも払う」
いや、いくらでもって。これ、普通に数百円なんだけど。
「いやいやいや、そんな大したもんじゃ——」
「頼む!」
さっきまで死にかけてた人とは思えない勢いで言い切られた。
……え、なにこれ。
もしかして、この廃棄寸前だったやつ。
——売れたりする?




