1-1
とある二月の夜、午後七時。
「今日もつっかれた……ってほど、仕事してないか」
シャッターを下ろして、本日終了。
売上、一万円。はい、知ってた。
でもさあ。調剤薬局でこれは、さすがにどうなの。
親から継いだ薬局。このままじゃ潰れちゃうよ。
在庫チェックして、ため息。
「……あー、やらかした」
経口補水液の0S-I。箱で残ってる。
しかも期限、今月。今、冬だよ。誰が買うの、これ。
「おじいちゃんたちが買うからって、夏に入れすぎたんだよなあ……」
完全に仕入れミス。マジで私、センスないよ。
これ、もう売れない。はい、廃棄コースです。
箱を抱えて、裏口に向かう。
——ドアを開けた瞬間。
「……は?」
路地が消えてる。地面がコンクリートじゃない。土?
とにかく、完全に知らない風景だ。
っていうか、めちゃくちゃ明るい。
昼? え、夜の7時だったよね?
しかもやたら暑い。
「ちょっと待って、今、冬だよね?」
じわっと汗が出る。
いやこれ、普通に夏じゃん。白衣、脱ごうかな。
そのとき。
どさっ、って音が聞こえた。
少し先で、男の人が倒れた。
「え、ちょっと!?」
顔、真っ赤じゃん。汗びっしょり。
——これ、完全に脱水じゃないだろうか。
「ちょうどいいや……って言い方はアレだけど」
私は箱から一本取り出して、キャップを開けた。
「飲める?」
半分意識が飛んでるっぽいけど、無理やり口元に当てる。
首を支えて、少しずつ、飲ませる。
数秒後。
男の喉が、ごくりと動いた。少しずつ飲ませて、ボトルが空になった。
んーー、大丈夫かなぁ。ちょっと薬局の方に連れて行った方がいいっぽい?
——と思ったら。
男が、普通に目を開けた。
私の顔を見て、一言。
「……お前は誰だ?」
いや、こっちのセリフなんだけど。




