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「イ・セ・カ・イ……?」
知亮が、スマホの画面と私の顔を見比べる。
数秒、沈黙。
「……は?」
だよね。
「いや、待て」
知亮が、眉間を押さえた。
「ちょっと情報を整理させてくれ」
「どうぞ」
「お前は今、“異世界に行ってた”って言ったな」
「言った」
「それは比喩とかじゃなくて?」
「頭が痛いって言ってる相手につまんない冗談を言う趣味はないね」
「……」
沈黙。
「……寝不足だな。うん。とりあえず、お前は寝ろ」
「言われなくても寝る」
「もう変なこと考えるな。イセカイじゃなくて、イセエビなら、俺が今度食わしてやる」
つまらないことを。昔からギャクのセンスは壊滅的なヤツだ。
「だから、ほんとに行ってたんだって」
「はいはい」
軽く流される。まあ、そりゃそうか。
「……別に信じなくていいよ」
肩をすくめる。
「私も眠いし。そっちも薬飲んだら、さっさと帰って寝な」
「……」
知亮が、動かない。
「なに」
「……いや」
小さく、首を振った。
「信じる」
「は? え、なに、急にどうしたの」
「信じることにした。だから、俺も連れてってくれ」
「いやいやいやいや!!」
私は全力で否定する。
おーい、何を言ってるんだー!
「普通、 “信じないで帰る”とこじゃない!?」
「だから、さっき信じるって言った」
「言ったけど!!」
なんなのこいつ。
知亮は、一歩も引かない。
「危ないのか?」
「……まあ、そうでも? やたら暑かったり、王子とか、なんちゃら師とかはいたりするけど」
「ならなおさらだ」
「は?」
「医者はいた方がいいだろ」
「別に。いてもいなくても……」
「いや。とにかく、行く」
なんかもう、めちゃくちゃだ。
「……はあ」
私は大きくため息をついた。
もういいや。
どうせ見せた方が早い。
「後悔しても、私は知らないよ」
「しない」
「帰れなくなっても知らないよ」
「それは困る」
「そうなの!?」
「でも行く」
なんなのこいつ。
「一回だけだからね。あと、絶対、勝手なことしないで」
「分かってる」
「……じゃあ」
私は、くるりと背を向けた。
階段を降りる。
知亮の足音が、すぐ後ろについてくる。
「……ここ」
薬局の裏口の前に立つ。
「このドア」
「……普通のドアにしか見えないな」
「だよね」
ノブに手をかけ、振り返る。
「でも、開けたら、異世界」
「……」
知亮の喉が、ごくりと鳴った。
「……いくよ」
私はドアノブを、回した。




