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ドアを開けた瞬間、むわっとした熱気が、顔にぶつかった。
「……え?」
知亮の声。
ドアの向こうに唐突広がる、牧歌的な風景。これまで見たことのない木や花。遠くに、RPGの世界みたいな建物。
そして、こっち側にも伝わってくる、じわっとまとわりつく暑さ。
「……え??」
振り返ると、知亮が、完全に固まっていた。
「ね?」
「マジで異世界じゃないか!!」
「いや、だからそう言ったじゃん」
「そう言ったからって、本当にあるとは思わないだろ!!」
さっきの信じるっていうセリフはなんだったんだ。
まあ、パニくるのは分かるよ。
「異世界って、マジだったのか。ごめん。杏仁が働き過ぎで頭おかしくなったのかと思ってた」
「ですよねー」
知ってた。
「……すごいな」
顔を上げる。
「これ、テーマパークとかだったりしないよな?」
「そう思いたければ思えばいいけど」
誰が何の目的で、ウチの裏口に作るのさ。
「いやこれは……はははっ」
知亮が笑いだす。
「テンション上がるな。ちょっと歩いていいか?」
「いやダメ」
即答です。
「なんで」
「迷子になるでしょ」
「ならない」
「なるの!」
ほんとに分かってない。
「ていうか」
周囲を見る。
「今、夕方くらいだから」
空の色が、ゆっくりと赤に変わり始めている。
「暗くなる前に帰るよ」
知亮が、まだあちこち見てる。
「ほんとに、帰るよ」
「……」
分かってない顔してる。まるで子供みたいだ。
「じゃあ、ちょっとだけだよ」
「いいのか!」
知亮の顔がぱあっと明るくなる。
そのとき、遠くから、人影が見えた。
「……ん?」
目を細める。あのシルエットは。
「……あ」
やばい。
「……え?」
知亮も気づいたらしい。
「誰か来るな」
いや誰かじゃない。
だんだん近づいてくる。
うん、あのマント。あの金髪。レオルド王子だね。
うん、ヤバイヤバイヤバイ!
あの婚約だの何だののあとに、喋りたくないよ!
「……知亮」
「ん?」
「今すぐ帰るよ」
「え?」
「はやく!!」
腕を掴む。
「ちょっ、まだ——」
「いいから!!」
半ば引きずるようにしてドアを開け、そのまま、押し込む。
バタン。カチ。
——薬局。
静かな、いつもの空間。
「……」
「……」
「……ええええ!?」
知亮が、絶叫した。
「なんだ今の!? 何!? マジで!?!?」
「だから言ったでしょ!」
「いや聞いてない聞いてない!!」
「言ったって!!」
「いや! いや? うん、言ってたな杏仁は……、しかし——」
しばらく、沈黙。
そう、私はホントのことしか言ってない。
知亮が、ふらっと壁にもたれた。
「……やばい」
「なにが」
「……本当に頭が痛くなってきた。杏仁、ロキソプロフェン、くれないか」




