4-2
ぐっと掴まれた手首が、痛い。
「……なに」
「大丈夫か?」
「……何が?」
「顔色、あんまり良くない」
そりゃあ、色々あったもん。顔色も変になるって。
と、言える訳もなく。
「いや、普通だけど」
「普通じゃない」
即答だった。
「寝てないだろ」
まあ、図星。だってこっちが夜の時、異世界、昼なんだもん。
「あと、ちょっとふらついてる」
「いや、気のせい気のせい。私、いつもふらふら歩いてるし」
「気のせいじゃない」
なんなのこいつ、こわ。
ていうか。
「ロキソプロフェン、要るんでしょ」
「あ、いや……」
一瞬、詰まる。ほらね。
「……別に」
「いや、ほっといちゃダメでしょ!!」
思わず声が大きくなる。
「頭痛いんでしょ!? あ、違う頭痛薬にしとくってこと? アセトアミノフェン?」
「……」
知亮が、少しだけ困ったように笑った。
「いや、ロキソプロフェンでいい」
意味がわからん。
「いいから、上がって」
鍵を取り出す。
「薬局のじゃなくて、我が家の常備のやつ渡すから。それ飲んで帰って寝なさい」
「……おう」
素直なのはよろしい。
外階段を上がり、ドアを開ける。
「どうぞ」
「お邪魔します」
靴を脱ぐ音。
父さんと母さんがいなくなって以来、一緒にこの家に誰かと入ってくるっていうシチュエーション、久しぶりかも。
「適当に座ってて」
棚から薬箱を引っ張り出す。
「さすがにあったはず……」
「なあ」
背後から声がする。
「なに? お茶欲しいならポットの横にティーバッグがあるよ」
喉が渇いてるなら勝手に淹れてくれ。
「違う。杏仁。ほんとに、何もないのか」
「……」
手が止まる。
「最近の杏仁、ちょっと変だ」
「変って何」
「無理してるときの顔してる」
「……してない」
「してる。杏仁はしんどい時、昔から二重の目が三重になる」
こわっ。なんでそれを知ってるの。
こっそりため息を吐く。
——言えるわけない。
異世界行って、熱中症の人に0S―Iあげて、王子様と婚約しそうになっただけなんて。
「……大丈夫だって」
振り返らないまま言う。
「ちょっと忙しいだけ」
「あのさびれた薬局が?」
「……」
だから失礼だって言うの、それ。
「ほんと何してるんだよ、こんな時間まで」
またさっきの質問。
しつこい。こいつ、こういうとこ、粘着質なんだよなぁ。
はー。もうこれ、答えないとダメなやつか。
「異世界に、行ってた」
「ん? どこに行ってた?」
だよねー。普通に聞き取れないよねー。
「イセカイに、イッテタ」
「イセエビカイニ?」
あーーー、鬱陶しい!!
私はスマホを取り出して、メモ帳にその言葉を入力した。
画面を見せる。
「異・世・界!」
「イ・セ・カ・イ……?」
知亮の目が点になった。




