4-1
王様の言葉が、頭の中でぐるぐる回っている。
婚約。
王子と私が?
「いやいやいやいや……」
どうしたんですか皆さん。
おかしいよ。
だって私、ただの貧乏薬局の薬剤師なんだけど。
しかも売れ残りの経口補水液を飲ませただけなんだけど。
それでなんで、婚約?
もしかして、私が霊薬をザクザク作れる人だと思ってる?
で、レオルドと結婚したら、霊薬サブスク放題、みたいな感じになるからいいじゃん!的な?
だとしたら、そのために犠牲になるレオルド、可哀そうすぎるじゃん。
うーーーむ。
でも、こっちとしても異世界に在庫をさばきたいっていう下心はあるからなぁ。
「……とりあえず帰るわ」
「そうなのか? では送る」
王宮を出て馬車を降りて、気づいたら、いつもの裏口の前に立っていた。
——帰ってきた。
カチ、とドアを閉める。
見慣れた床。見慣れた薬剤棚。
ほんの少しだけ、ほっとする。
「……はあ」
一気に力が抜けた。
疲れた。なんかもう、いろいろと。
異世界とか、王子とか、婚約とか。
ここ数日で、情報量が多すぎるんだよ。
「……とりあえず」
今日はもう、無理。
寝る。絶対寝る。
そう決めて、シャッターの横を抜けて外に出た。
私の家は、薬局の二階。外階段を上がっていくだけ。
深夜の空気が、ひんやりしている。
——やっぱり、こっちは普通だ。
そう思った、そのとき。
「……遅かったな」
「……ん?」
街灯の下に、人影が立っていた。
「え、知亮?」
「……おう」
石谷知亮。3個上の幼なじみで、医者だ。
やたらと背が高いせいで、こっちの首が痛くなる。
近所のクリニックの跡取り息子だけど、今は大学病院で修行中の身。
「で、どしたの? とっくの前に閉店してるんですけど。ていうか今、AM3時なんですけど」
「いや、その……」
言葉を濁す。珍しい。
「……頭痛くて。ロキソプロフェン欲しくて」
「は?」
思わず素で返す。
「……それで、ずっと待ってたの?」
「……」
目を逸らすな。
「はあ!? 明日も仕事でしょ!? 寝不足で患者さん診るつもり?」
「……かな?」
「かな、じゃない!!」
「杏仁こそ、何してたんだよ、こんな時間まで」
「え、いや……残業?」
異世界行って、王子様と婚約しそうになりました、なんて言えるはずない。
「杏仁の薬局、そんなに流行ってるっけ?」
「ううっ」
痛いとこ突かれる。ええ、ええ、閑古鳥が鳴きまくってますよーだ。
「なあ、最近、ずっと帰り遅くないか?」
「……そう?」
「ずっと薬局の明かりついてる」
「え、なんでそんなこと知ってるの?」
「なあ、何があった? 困りごとか?」
「だ、大丈夫だよ。ほんと」
説明しても信じてもらえる訳ないし、もう疲れてるし。
私は二階の家に戻ろうとした。
「……杏仁」
呼び止められる。
振り返る前に、ぐっと、手首を掴まれた。
え???
ロキソプロフェン、そんなに欲しかったの?




