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3-2

「そのやり方が、本当に正しいと、どうして言えるんです?」

 なんか、ツルッとした白紫の宇宙支配者みたいな敬語で話すけど嫌な感じの声だった。

 振り返ると、年配の男が立っている。

 白に近い淡い色のローブ。

 ——ああ、これが。

「治癒師さん?」

「いかにも」

 男はゆっくりと室内を見渡した。

「……冷却循環機を、長時間稼働させていますね」

「させてるけど?」

「愚かですねぇ」

 即答だった。

「人の身体は、本来、自然の中で調和を保つようにできています。風、湿度、気の流れ——それらを無理に捻じ曲げれば、いずれ歪みが生じます」

「いやいやいや」

 思わず口を挟む。

「今まさに歪んでるでしょ、この暑さで」

「それもまた、自然です」

「いや死ぬわ」

 切り捨てると、一瞬、空気が止まった。

「……人は、多少の過酷な環境にも耐えられるようにできているのです」

「“多少”じゃないから言ってんの」

 一歩、前に出る。

「昨日、全員ほぼ脱水状態だった。あと一歩で倒れる状態だったよ?」

「だからこそ、水を飲ませるのです」

 治癒師は、まるで当然のことのように言った。

「水を摂れば、体内の巡りは回復する。余計な手を加える必要はありません」

「いや、それだけじゃ足りないって」

 思わずため息が出る。

「汗かいてるでしょ? 水だけ飲んだら、逆にバランス崩れるの。塩分も必要なの」

「……塩分、ですか?」

「そう。体の中のバランス保つためのやつ」

「あなたは、体の中に塩がめぐっている? 面白いことをおっしゃる」

 そうですか、そうですか。電解質という概念は無いのね、了解ですよ。

「長年、人はこの地で生きてきました。治癒師たちもまた、人々を救ってきたのです」

「うん、それは分かるよ」

 少しだけトーンを落とす。

「でもさ。“今まで大丈夫だった”と、“今も大丈夫”は違うから」

 治癒師の眉が動く。

「この暑さ、普通じゃないでしょ」

「……」

「環境が変わったなら、やり方も変えなきゃダメなの」

 言い切る。

 しばらく、沈黙が落ちた。

 その空気を破ったのは、住民の声だった。

「で、ですが……治癒師様の仰る通り、水を飲めば……」

「そうです、我らはずっとそうしてきました」

「冷却循環機を長く使うなど、身体に障りがあるのでは……」

 ……あっ、そーですか。

 具合、良くなったのに、そんな感じですか。

 私は小さく息を吐いた。

「ねえ」

 レオルドを見る。

「やっぱり治癒師さんたちが正しいと思う?」

 レオルドは答えない。でも、分かってる。

 長年信じてきたものと、昨日来たばかりのよく分からない女。

 どっちを信じるかなんて――

「……殿下」

 治癒師が静かに頭を下げる。

「どうか、軽率な判断はなさらぬよう。この者の言葉は、あまりにも理から外れております」

「いや理だよ! むしろめっちゃ理!!」

 思わずツッコむ。

 でも、誰も笑わない。

 完全にアウェイの空気。

 ……まあ、そりゃそうか。

「——いいよ、信じなくても」

 肩をすくめる。

 視線をレオルドに戻す。

「でもさ、結果は出てる」

 部屋をぐるっと指す。

「昨日より、全員マシでしょ?」

「……」

 レオルドは、何も言わない。

 ただ、私をじっと見つめていた。

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