第二十七話
ぼくらサイコパスは実は人殺しや暴力を避ける。
リスクが高すぎるからだ。
詐欺やギャンブルはまあ、よくやって捕まる。
これはまあ、しかたない。
我々は刺激に飢えている。
だけど我々はちゃんとリスクを考えている。
ぼくらは罪悪感がないだけで、やりすぎれば社会が罰してくることは理解してる。
ぼくらは他人を理解できない孤独な生き物でしかない。
個人の強さに限界があることはわかってる。
掟を破れば狩人が群れで殺しに来る。
だからぼくらは殺し合いを望まない。
だけどソシオパスは違う。
彼らは基本的に先を考えてない。
殺したければ殺す。
奪いたければ奪う。
彼らは未来への想像力が決定的に欠けてる。
人を殺してみたかったという理由で人を殺すのはソシオパスだというのに、化け物扱いされるのはぼくらサイコパスなのだ。
そして、白石さんもまた想像力が欠けているのだ。
「ご両親をなぜ殺したのか? それはどうでもいいです。どうせぼく程度の凡人には理解なんてできません。でもそれ以降は予想できます。人が生きていくには金が必要です。だから当初、あなたは体を売っていたのでしょう。ま、それもどうでもいいです。ぼくには関係ありません」
「じゃあなにが言いたいの?」
「簡単ですよ。野球部の持ってたコカイン。野球部がどうやって手に入れたのか? そりゃチャイルドポルノを原資としてもっと稼ごうとしたんでしょうね。それともこの国を牛耳る闇の勢力の手下になるためか。ま、どうでもいいです。で、あなたはその辺の子どもをさらってくる役でもやってたのかな? それとも家出少女の撮影に関与してたとか。もしかすると用済みになった少女を始末してたのか……」
「おい兄貴!」
タケルがぼくの胸倉をつかんだ。
ああ、だからお前をここに連れて来たくなかったんだ。
「かなたくんの言ってることは本当だよ」
白石さんがほほ笑んだ。
「嘘だろ……」
「別にたいした話じゃない。ぼくだって金がなくなったら野球部のお零れをもらってたかもしれない」
金を稼ぐのは難しい。
アルバイトでどうにかならなければ、ぼくだって体くらいは売る。
まあ、ぼくの場合は彼らを脅迫して搾取する方を選んだと思うけどね。
まあそれは人生のプレイスタイルの違いでしかない。
そして白石さんの選んだ選択肢は、ぼくが論理的に不可能と判断したコースだ。
「白石さん、君はコカインを丸ごと手に入れようと思って野球部を皆殺しにする計画を立てた……って言いたいんだけど、実際は奪おうとして後手後手に回った結果だよね」
その結果がキルカウント5桁だ。
セイラム魔女狩り事件でのアビゲイルもびっくりな結果だ。
「最初はチャイルドポルノのしのぎをバラせばコカイン丸ごと手に入れて大学進学ハッピー生活って考えたんだろうけど、社会的影響が大きすぎて大学進学すら危うくなった。白石さん……こう言っちゃなんだけど、君、一般受験で志望大学合格する学力ないでしょ」
「……」
白石さんは黙ってる。
そりゃレベルを落とせばいくらでも合格可能だ。
だけど私学に行くには金がかかる。
かと言って夜間部を目指すのはプライドが許さなかったのだろう。
そう、ぼくらサイコパスとソシオパスの違い。
それはプライドを捨てられるか否かだ。
というかぼくの場合、そもそも夜間部だろうが問題ない。
最低ラインは無職を避けたいって程度だ。
これが現実ってやつだ。
というか自分の置かれてる状況と能力的に最高の戦果を出したと思う。
「だからコカインを手に入れなきゃなくなった。殺してでもね」
「そうだよ。だって私、大学行って有名な企業に勤めて幸せな結婚するの」
小学生の夢かよ。
ぼくはその言葉に少し不機嫌になった。
「じゃあ、タケルは?」
「結婚前にお別れするつもりだったよ。だって遊びだもん」
ああ、かわいそうなタケル。
こんな女にだまされるなんて。
いやタケルも遊びだったかもしれない。
ぼくより女になれてるはずだ。
タケルを見る。
表情が絶望に染まっていた。
……疑ってごめん。
「なんでもいいや。君は邪魔者を次々と始末していった。警察が無能ムーブ繰り返してたのは、警察に情報流して操ってたのか。それとも君の共犯だったのか」
「共犯だよ。みんな死んだけどね」
「はは。最高だ。まだこの国に絶望しないですんだ」
「ちょっとヤらせただけで自分の女扱いして。ホント男ってバカだよね」
「ぼくからすれば君も男も同じレベルだよ」
「そうだね。かなたくん。私たちわかり合えると思うの。コカインも全部あるよ。弁護士さんが守ってくれれば一生遊んで暮らせるよ。タケルくんと結婚したっていい」
「きみはバカだね」
ぼくがそうつぶやくと真田が立ち上がって手を振りかぶった。
そのまま白石さんの頬を叩く。
「な、なにすんのよ!」
「かなたくんはあなたと違う! かなたくんはタケルくんと私を守ろうとしただけ! 犯罪だってあなたが人を殺さなきゃしなかった」
「真田。ぼくはべつに聖人君子じゃない。ただ合理的に生きてるだけだ。白石さん、君の生き方は……コスパが悪い。勝率が低すぎるんだ」
「な、なにを!」
そこで弁護士さんが割って入った。
「君はコカインをどうさばこうと思ったんだい?」
「それは警察に」
「は、ははは。無理だよ。この日本で数百キロのコカインを個人がさばけるわけがない。そりゃ5桁のキルカウントに含まれてた連中が生きてれば……いや無理だな。ここは日本なんだ。君の近くに麻薬中毒者はいたかい? いないだろ? つまりそもそも需要がないんだよ」
「……そんな」
「そういうこと。チャイルドポルノだったら……ボス、過去の判例でも億は稼いでないでしょ?」
「すぐにコピーされるからね」
「要するにこれが現実ってこと」
まだ胡散臭い仮想通貨作った方がマシだ。
それだってすぐに規制された。
この日本じゃハリウッドみたいなクライムアクションは成立しないのだ。
そう許されないから5桁死んだんだよ。
我らの社会にあってはならないのだ。
やりすぎたら殺される。
「配信は?」
白石さんが聞いた。
「してない。武士の情けってヤツだ」
「じゃあ、みんなを殺せば許されるよね?」
「無理だ。ぼくらを殺して逃げても今度は君が殺されるだけだ。もう君は自首するしかない」
「うちの事務所が弁護するよ。ああ、本を書かないかい? 儲かるよ」
「と、寿命のある悪魔が言ってるけどどうする?」
ぼくは白石さんに現実を突きつけた。




