第二十八話
「でも! しかたなかったの! 殺すしかなかったの!」
ぼくは鼻で笑った。
「どうして?」
「パパとママは工場潰れたから大学あきらめろって。だから体売ったのに! そしたら二人とも警察行こうって! だから殺すしかなかった!」
「……勘弁してくれよ」
「パパ活を斡旋してた野球部を密告して組織を手に入れたのに! 美弥子ちゃんが警察に言うって! だから野球部のみんなとショッピングセンターから突き落としたら大騒ぎになって!」
三橋美弥子の件か……。
そう、冷静な殺人鬼なんてどこにもいなかったのだ。
愚かな連中が次々と後手に回った結果がこれなのだ。
「警察から野球部が密告するって聞いたから閉じ込めて火をつけただけなのに! なんでかなたくんはいつも邪魔するの!?」
「……俺が聞きたいよ」
ぼくは……たまたまそこにいただけだ。
「コカインを手に入れたのに、弁護士さんは換金できないって言うし! 私の人生めちゃくちゃだよ!」
「それは違う」
ぼくは断言した。
「人生がめちゃくちゃになったのは……ぼくらだ。推薦はなかったことになって、大学受験は……まあそっちはうまくいったか。配信でさらし者になって就活は失敗。小説家デビューしたけど次仕事来るか……。さらに言うと4月からサイコパス弁護士の下で事務員だ。ねえボス!」
弁護士がほほ笑む。
「安心してくれ……かなたくん。ぼくは君に事務能力を期待してない。死と破壊と殺戮を期待してるんだ」
「……勘弁してくれよ」
「あ、あのね! かなたくん! わたしもがんばるから!」
ま、大学生になれば配信のお金も入ってくるか……。
「がんばろうぜ!」
「私だけ……私だけがいじめられてる……どうして私だけこうなるの?」
ソシオパスはそう思うだろうね。
ぼくらサイコパスは苦難が来ても被害者面はするが逆転の一手を考えるだけだ。
カスだけど社会に優しいのはサイコパスの方だ。
だからぼくは優しく嘘をつく。
だってもう話にならないもの。
この時間はもう無駄なのだ。
「運が悪かったんだよ」
そんなわけがない。
能力に見合わない大きなことを望んだ結果だ。
「そ、そうだよね! 引き寄せの法則とかあるよね!」
良心の呵責を感じてない姿にタケルと真田は愕然としてた。
そりゃねえ。
ぼくらサイコパスは少なくとも後悔してる演技くらいはする。
だけど彼女は違う。
TPOが理解できないのだ。
いまタケルの脳裏では小さな違和感の積み重ねが確信に変わっているのだろう。
ああ、少しだけおかしいと思ってたに違いない。
だいたいぼくと同じ事を考えたのだろう。
弁護士は笑顔のまま近づいてくる。
「じゃ、これに名前書いて」
「これはなんです?」
「弁護の契約、本を出したら民事もね」
「あ、はい」
名前を書いたのは悪魔との契約だと思うが。
ま、ぼくには関係ない。
白石さんは学術的に参考になるような犯人じゃない。
むしろ警察や学校、行政が悪かったのだ。
これから国家賠償もあるだろう。
ボスはそれらで踊り狂うのだろう。
ああ……なんてひでえ世界。
警察が来て白石さんを連れて行った。
「じゃ、ボクも白石さんと行くね。あ、これ。好きなもの食べて」
弁護士は3万円もくれた。
悪魔はスキップしながら去って行く。
ぼくはタケルを見る。
「なに食いたい?」
「肉」
「真田は?」
「ああああああ、甘いものかな?」
「ぼくも甘いもの」
となると焼肉かな。
デザートメニューが多いとこ。
ぼくらは歩いて焼肉に直行。
食べ放題っと……。
一番高いのでも2万行かないじゃん。
「ちゃ、ちゃんと、領収書」
「そうね。懐に入れるとなにされるかわからん。領収書とお釣りは必ず渡さないとね」
「なんだかなあ……」
タケルは元気がなかった。
「なあ、タケル。こんなときに悪いんだけどさ」
「なんだよ兄貴」
「給料出たらさ、一緒に暮らさね? 俺たちさ……もう……あの家にいない方がいいと思うんだ」
「兄貴……」
「ごめんね真田。同棲できなくて」
「ううん。わわわ、わたしそういうかなたくんが好きだから!」
タケルと拳を合わせる。
ぼくはクズに生まれついたサイコパスだ。
でもタケルと真田だけは守りたいと思う。
その後の話をしよう。
学校法人上層部もビニール袋かぶって死亡。
なにもかも隠蔽……いや裁判なしでゴミみたいに殺されただけか。
生き残ったのは白石さんだけだ。
その白石さんも死刑判決が濃厚らしい。
可憐な少女の割引がどこまで通じるか。
世間は同情的……な報道をテレビ局が強引にしてる。
なにか握られてるのかもしれない。
ぼくはと言うと大学の夜間部で学んでる。
昼間は法律事務所勤務だ。ちゃんと弁護士法人のところでね。
何人もいる事務員の一人だ。
ボスは容赦なく書類仕事を振ってくる。
おかげで法学部4年分のカリキュラムは半年で終わった。
自分……理系なんですが……。
真田も同じだ。
ぼくら二人は秘書も兼任して魔王の元で仕事しまくってる。
本当に、冗談ではなく、正社員待遇である。
タケルとぼくは親を捨てた。
「夜間部なんてみっともない!」
と意味不明なことを口走った両親だが、もう捨てることにしたのでどうでもいい。
ぼくらは家を出た。
夜間部のなにが悪い!
そうそうぼくの本だが、それなりに売れた。
タケルと暮らすにはいい金額だ。
とにかくぼくの生活は忙しかった。
そんなある日、真田と一緒にボスに呼び出された。
「あのさー、この村行ってみない? 因習村らしくてさ。夏祭りがあるらしいんだよ。そこで何人も行方不明になってるらしくてさ」
ぼくは最高に嫌な顔をした。
最近は大人しく夜間の街を配信してる真田も嫌な顔してる。
「人が死にませんよね?」
「さあ?」
勘弁してくれよ……。
まさかそのときはまだ……ぼくらが来たせいで村一つ滅ぶなんて思ってなかったのだ。
でも真田とタケルがいればなんとかなるだろう。
きっとね。




