表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生姫はお飾り正妃候補。愛されないので自力で幸せ掴みます  作者: 福嶋莉佳
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/51

第17話 裁定

政務室。

アルシオンは、机に広げた書類を眺めていたが、

視線は文字を眺めるだけで何ひとつ頭に入らない。


「……セレナ」


思い返すだけで、指先がわずかに震える。


そのとき――扉が二度、叩かれた。


「殿下。ラシードにございます」


「……入れ」


扉が静かに開き、ラシードが一歩進み出る。

いつもの落ち着きに加え、わずかな探るような気配があった。


「……まず――王妃派の動きが、昨夜から“静かに”活発化しております」


アルシオンの眉が僅かに動く。


「密書の件が……察知されたか?」


「断定はできませんが、王妃派の侍女筋が

 不可解な移動を始めております。

 情報網の再構築を図っている可能性が高いかと」


「……やはり動くか」


アルシオンの声は低く沈む。


ラシードは淡々と続けた。


「しかし後宮内に限れば、動きは封じられています。

 軸になっているのは――姫様です」


アルシオンの胸が、かすかに揺れた。


「……セレナが」


「はい。ナヴァリス殿と姫様の連携は盤石です。

 侍女筋・女官長筋の動線は完全に掌握されつつあります」


ラシードの声音は確信を帯びていた。


「後宮という領域において、王妃派が使える道は、ほぼ閉ざされました」


アルシオンは静かに息を吸い、机の端を握りしめた。


ラシードはさらに続けた。


「姫様へは、後宮の現状だけお伝えしております。

 ……殿下のご意向までは、あえて触れておりません」


アルシオンの喉がわずかに動いた。


「……そうか」


ラシードは一拍置き、殿下の表情を読み取るように目を細めた。


「殿下。

 後は、王妃陛下への対処を、どの段階で行うかが問題です」


静まり返った政務室に、重い現実だけが落ちる。


アルシオンはゆっくり顔を上げた。


「……ラシード。

 もし……この件が片付いたなら……」


ラシードの眉が、静かに動く。

殿下が次に言う言葉を待っていた。


アルシオンは短い迷いを胸奥に押し込み、

ひとつの言葉に変えた。


「……セレナを、正妃に迎えたい」


ラシードは深く瞼を閉じ、丁寧に一礼する。


「承知いたしました。

 ――ただし、それは“王妃陛下の断罪の後”でございますな?」


「……ああ。

 王妃の件を終わらせる。

 そのうえで……迎える」


ラシードの瞳に、わずかな光が宿った。


「では――

 姫様を正妃として迎える準備に入ります。

 殿下のご覚悟が、すでに示されましたので」


アルシオンは強く頷いた。


「頼む、ラシード」


「御意」


ラシードは深く一礼し、静かに部屋を後にした。


扉が閉ざされると、

アルシオンは昨夜セレナが置いていった書類にそっと触れた。


「……必ず守る。

 そして、必ず迎える」





小広間の片付けを終えたあと、セレナはナヴァリスとともに後宮を歩いていた。

紙の上では把握している。だが、流れは自分の目で確かめたかった。


「王妃派の侍女たちに、目立った配置替えはなさそう……。

――昨日の指示が、完全に行き渡っていますね」


「後宮監として見ても、動きは極めて安定しています」


「よかった……」


胸を撫で下ろしたその瞬間、ナヴァリスの目がすっとセレナへ向けられる。


「……姫様」


「え?」


「……ご機嫌ですね」


「っ……!?」


セレナは反射的に足を止めた。


「い、いえっ……後宮が落ち着いているのが嬉しいだけで……!」


「そうですか。“落ち着いているだけ”で、そこまで表情が明るくなるのなら……良いことです」


セレナは耳まで熱くなり、慌てて話題を戻した。


「そ、そんな事より……ナヴァリス様。王妃陛下の件、私がどう動けばいいのか……教えてください」


ナヴァリスは歩みを止め、静かに向き直る。


「姫様が正面から王妃陛下を糾す必要はありません」


「え……?」


「断を下せるのは国王陛下と元老院のみです

姫様がすべきことは、ただひとつ。


――“成果を示したうえで、どの場で事実を提示するかを決めること”です。


姫様が場を選び、事実を並べれば……元老院は必ず動きます」


セレナは静かに息を吸い、問い返した。


「……つまり、元老院が王妃陛下の責を問いやすい空気を作る必要があるのですね」


「その通りです」


そしてナヴァリスの目が、ほんのわずかだけ柔らぐ。


「ご機嫌ついでに、よく通るお声が出るでしょう。……どの場を選ばれるのか、楽しみにしております」


「か、からかわないでください……!」


赤くなるセレナを横目に、ナヴァリスは淡々とした足取りで歩き出す。


……そういえば、前世でもよく友達にからかわれたものだわ。


セレナはそっと息を整える。


廊下の先の光を見据え、セレナは迷いのない足を踏み出した。





王都は静かだった。


家々の前には“祓いの印”を描いた薄板が立てられ、

道の端では清め香が絶えず焚かれている。

人々の顔には緊張こそ残るが、混乱はない。


……本当に、落ち着いてきてる。


サフィアは歩きながら周囲を見渡した。

兵の槍先が夕光を反射し、

通りの向こうから子どもたちの笑い声が聞こえる。


「……静かだな」


隣で歩くカリムが、低く応じた。


「ああ。ここまで戻るとは思わなかった」


町角を曲がると、祓い板の前で人々が立ち話をしていた。

布で口元を覆いながら、穏やかに言葉を交わしている。


「王都内で人手を募ってるってよ」

「聞いた。倉の整理だろ? 手当も悪くないらしい」

「なら、明日行ってみるか」

「包み仕事もあるってさ、楽そうだな」


サフィアは、わずかに眉を寄せる。


自分が戦場に出ていた頃、

この町で何が行われていたのか――

詳しくは、知らない。


「……姫殿下が、ずっと動いてたのは知ってたけど……」


ぽつりと、カリムが言った。


「清務でな。侍女を連れて、あちこち回ってた。

 今のこの静けさは……その積み重ねだろ」


「……そう」


短く答えた声が、思ったより低かった。


足取りが、ほんのわずかに遅れる。


戦うことなら、負けたことはない。

剣を振るう役目なら、今でも誇れる。


――けれど。


サフィアは拳を握りしめる。


「……すごいな、姫殿下は」


カリムが短く笑う。


「お前がそんな言い方するの、珍しいな」


「うるさい」


そう返しながらも、

サフィアの声には、もう棘がなかった。


隊舎へ向かう道の途中、

祓い板が風に揺れる。


それは確かに、

この町が守られている証だった。





政務室へ続く長い回廊は、夕の光を静かに吸い込んでいた。


セレナは歩きながら、胸の前でそっと指を揃えた。


証拠はある。

やれることも分かっている。


けれど――“場”だけは、まだ定まっていない。


今、王宮は静かすぎる。

騒がせれば一気に元老院が動き、

誤れば――主導権を失う。


ルナワで豪族を説得したときみたいに……

さくらを仕込めれば楽だけど。


足が小さく止まる。


……でも、王家の“内”でそんな真似はできないわね。


呼吸を整えて再び歩き出す。


「そういえば、殿下……何の用なのかしら?」


政務室の扉が近づくにつれ、

昨夜の温度がふっとよみがえる。


「……顔に、出ませんように……」


セレナは扉の前で小さく息を吸い、

そして静かに扉を叩いた。


「殿下。お時間のあるときに、と伺って参りました」


扉を開けた瞬間――

殿下の目が、ふっと揺れるのが見えた。


胸がじん、と熱を持つ。


「セレナ」


呼ばれた瞬間、その声がかすかに震えているのが分かった。

ほんの一歩近づくだけで、背中に熱が走る。


「来てくれて、嬉しい」


アルシオンの伸ばした手は、

セレナの腰に回り――

気付けばセレナは、抱き寄せられていた。


「で、殿下?」


驚いて見上げると、アルシオンの呼吸が近い。


「すまない……ただ……」


そっと額が髪に触れる。


「夢じゃないと、確かめたかった」


内心でくすっと笑いながら、セレナは胸元にそっと手を添えた。


「……夢ではありませんよ、殿下」


嬉しいけど……政務室でなんて、ほんとうは駄目でしょうに。


ここは王国の中枢だ。

清務も外交も軍も、この部屋から動く。

誰かに見られれば、殿下ではなく私がまず咎められる。


……でも、今だけ……。


そっと目を伏せ、殿下の胸元に触れる。

外套越しでも分かる、鍛えられた胸板。


さすが……戦場に立つ方……。


触れた指先から熱が昇り、胸がゆっくり満ちていく。


……ふと、前世の記憶がよぎった。


映画好きの彼も、

スキンシップ好きだったわね……。


年上の男は、案外甘えたがりなのかしら。

そんな事を考えていると――


映画……そういえば……。


槍の突撃。

盾を重ねた壁。

洗練された陣形。


そして胸板に触れた温度から、

殿下との乗馬の“不安定さ”。


そこまで連なった瞬間――


「あ……」


小さな声が、思わず漏れた。


数珠のように、すべてが一気に繋がっていく。

殿下の腕の中で、セレナの瞳が静かに揺れた。


「殿下……お願いが、ございます」


セレナはそっと顔を上げた。


「近々……元老院と王妃陛下を交えた会議を開いていただけませんか」


アルシオンがわずかに目を見開く。

腕の中の温度が、ふっと緊張を帯びた。


「……会議を? この状況で?」


「はい。提案したい事があります。そして……」


セレナは迷った末に、そっと言葉を継いだ。


「殿下……ひとつだけ、確認させてください」


「……?」


ほんのわずか、抱く腕が強くなる。


「もし私が――王妃陛下のなさっていることを、

公の場で追い詰めることになったとしても……

殿下は、それを……お望みになりますか?」


沈黙が落ちる。

殿下の呼吸が、かすかに乱れた。


「……お前が、危険に晒されるかもしれない」


その懸念に、セレナは静かに微笑んだ。


「私は、殿下を支えると誓いました。

覚悟は……もう、出来ています」


その一言に、アルシオンは目を閉じた。

それでも――

彼の声は、どこか縋るように、低く落ちた。


「……セレナ。

お前がそうすると決めたのなら……俺は止めない」


そして、抑えきれないものを滲ませるように、低く続いた。


「むしろ……頼りたい。

誰よりも、俺は……お前を信じている」


セレナの胸が、ゆっくりと熱で満たされていく。


「……はい」


そっと殿下の胸元に手を当て、静かに頷いた。


「では……準備をいたします」


甘さの余韻の中に、確かな政治の火が灯る。

――すべては、あの会議へ向かって動き出す。





大広間には、沈黙が張りつめていた。


最上段にはアルシオンとザリーナ。

半円に並ぶ元老院の長老たち。

壁際には記録官──そして、

ラシードとナヴァリスが控えている。


その中央へ、セレナが一歩進む。


「……では、姫殿下。

 本日の“後宮外の提案”を伺おう」


最長老の低い声が落ちた。


セレナは一礼し、

胸奥の熱を静かに鎮める。


顔を上げた瞬間、

凛とした声が大広間へ響いた。


「まず、我がアウレナの現状について申し上げます」


ざわ、と空気が揺れる。


「北境の共有領土を通じて、

 近隣国から“同盟圏”と見做されております」


元老たちが頷く。


「脅威は減りますが──

 同時に“侮られてはならない”状況でもあります」


長老たちがわずかに身を乗り出す。

その横で、アルシオンの喉が小さく動いた。


「そこで、軍事面で新たな提案がございます」


空気が一段階、鋭さを増す。

ラシードは表情を消したまま、指先だけが小さく止まった。


「――“長槍と盾による密集歩兵陣形”

 新しい隊列の導入をご提案いたします」


どよめきが広がる。


「重い盾を並べ、

 長槍で前を突き出して“壁”を作ります。

 地方兵でも習熟しやすく、

 数が少なくとも戦える陣形です」


ラシードが低く息を呑む。


ナヴァリスは腕を組んだまま、瞳孔が開いた。


セレナは続けた。


「そしてもう一点。

 “馬の軍事利用”について提案がございます」


ざわつきが走る。

最古参の軍功者の長老が眉を上げた。


「現在、アウレナでは……

 馬は荷運びと移動手段として扱われ、

 戦に使う発想が根づいておりません」


長老たちが頷く。

アルシオンは息を潜めていた。


「ですが、補助具を使えば状況は一変いたします」


空気の向きが一気に変わる。


「足を支え、姿勢を固定し、

 重装の兵でも落馬を防げます。

 “馬の突撃”も“槍の扱い”も安定します」


驚愕が連鎖し、

ざわめきが波のように広がった。


軍功者の長老が震える声で言う。


「……兵の質が、変わる……」


アルシオンは拳を強く握りしめていた。


ナヴァリスの視線だけが、静かにザリーナへ向く。

ザリーナの扇が、小さく鳴った。


セレナは、一度深く息を吸い──


「密集歩兵と、馬の育成。

 この両輪が揃えば、

 “少数でも侮れぬ国”へ生まれ変わります」


言葉が落ちたあと、大広間はしんと静まり返った。

息を詰めるような――“絶賛に近い沈黙”だった。


最長老が立ち上がった。


「……姫殿下。

 その若さで“国全体”を見通すとは」


「僭越ながら、アウレナの未来のために進言いたしました」


「見事だ。

 この提案、元老院として前向きに協議しよう」


ザリーナの喉が、かすかに鳴った。


――だから、この娘は……。


早々に“飾り”のまま封じるべきだった。


従う妃なら、いくらでもいた。

殿下の機嫌と王家の体面だけを守り、

政治の責も矛先も、すべて王妃が握れる妃なら。


だが、この姫は違う。


国を――動かす。


だからこそ、まずい。


セレナは静かに息を吸い、

ついに本題へ踏み込んだ。


「続いて――王都の検問所にて押さえられた、“後宮名義の献上荷”についてご報告申し上げます」


空気が引き締まる。

ラシードとナヴァリスが同時に視線を上げ、

アルシオンの指先がかすかに震えた。


セレナは懐から一通の羊皮紙を取り出し、

元老たちに見える高さで掲げた。


「こちらの手紙は――

 検問所にて押さえられた、“正規の献上登録を経ていない荷”に入っていました」


元老たちの表情が、一斉に険しくなる。


「内容は──

 “神託は虚偽、今こそ奪い返せ”

 その旨が記されておりました。

 署名は……ザリーナ王妃陛下です」


ザリーナの扇が震えた指に押し負け、折れそうにしなる。

長老たちの息が一斉に止まる。

アルシオンが椅子の肘を強く握りしめた。


セレナは封蝋の印影へ、指先をそっと添えた。


「そして、この文面には――

 王妃陛下の“私印”が押されております」


大広間が一瞬にして凍りついた。


「ば……馬鹿な……っ!

 そんなもの、わらわが押すはず──!」


震える声は空を切り、

セレナは静かに事実だけを置いた。


「印章がたとえ“誰かに使われていた”としても、

 王妃陛下の名で封じられた文が外へ出た時点で──

 それは重大な国事違反となります」


元老たちがざわめく。


「后位の印章管理の全責任は王妃陛下に帰属するが……」

「意図せぬ流出であっても、免責はない」

「まして“神託を偽り、戦を誘発する内容”となれば……」


ナヴァリスが静かに進み出る。


「元老院のご確認を。

 文章の印影は、“王妃陛下の私印”と完全に一致しております」


ラシードが続く。


「印影は登録印と照合済み。

 検問所の押収記録、後宮の出庫簿、文官室の受領簿――三点も一致しております」


ザリーナの顔から血の気が引いた。


「ま……待て……!

 これは何かの間違いだ!

 わらわは……わらわは知らぬ……!」


セレナは初めて、王妃へ視線を向けた。


睨んだのではない。

淡く温度のない、ただ事実を見据える目。


その目を受けた瞬間、

ザリーナの喉がひくりと震え――言葉が途切れた。


「王妃陛下。

 この件については、私が裁を下すものではございません」


元老たちが息を呑む。


「判断を下すのは……

 この国の“元老院”でございます」


最長老が杖を床に打った。


「――事実確認は終わった。

 諸卿、協議に入れ」


低い声が重なり、ざわめきが渦になる。


「神託を揺るがす文言は国家への背信」

「后位の印章管理の失態は宮務不履行」

「このまま宮中を預ければ、再び火種となる」


議場の空気が固まったところで、

最長老が、もう一度杖を鳴らす。


「よろしい。評決に入る」


そして──

元老院は静かに結論を下した。


「王妃ザリーナ──

 その宮務を一時停止し、

 離宮への御退きとする!」


決定の音が大広間へ落ちた。


セレナは静かに頭を垂れ、

揺るぎない背筋のまま嵐の中心に立ち続けていた。





言い渡された瞬間、ザリーナの肩が力なく落ちた。

侍従たちが両脇から支えるように寄り添う。


「……離しなさい……わらわが……!」


王妃は立ち上がらされ、連れて行かれる。

扉が閉ざされると、広間には深い静寂が戻った。


……終わった……。


張りつめていた緊張がほどけ、

セレナは胸の奥でそっと息を吐いた。


き、緊張した〜。


そのとき。


「セレナ!」


椅子を弾く音が響き、

アルシオンが駆け寄った。


「大丈夫か? 顔色が……悪くなっている……」


「だ、大丈夫です殿下……」


アルシオンの手は、セレナをしっかり支えていた。


「本当によくやってくれた……」


耳元に落ちる声が甘く震える。


元老院の長老たちが静かに顔を見合わせた。


そして、最長老が杖を静かに床へついた。


「王太子殿下」


アルシオンがセレナから手を離し、振り返る。


「……何か?」


「議題外ではあるが――ひとつ申し上げたい」


空気が、ぴたりと止まった。


「本日の姫殿下のご働き。

 軍事、後宮、流通、全てにおいて見事。

 加えて……今のご様子を拝見すれば――」


長老はちらりと二人を見る。


「姫殿下は、正妃にふさわしい」


その一言が、大広間の中心へ落ちた。


――え?


ざわり、と数名の長老が頷く。

反対する声はひとつもない。


「国家としても後宮の空白は避けねばならぬ。

 ゆえに――姫殿下を“正妃に推挙”いたしたい」


セレナの呼吸が止まった。


「私が……っ」


アルシオンは一歩前へ出た。


「……元老院の御意、確かに受け取った」


その声には、隠しきれない安堵と喜びが滲んでいた。


「姫殿下を正妃とする件。

 俺も……望むところだ」


「で、殿下……」


アルシオンが柔らかく微笑む。


「セレナ。

 これは俺だけの願いではない。

 国が、お前を求めている」


頬が熱くなる。


最長老が満足げに頷いた。


「では後日、正式手続きを以て推挙の儀といたそう。

 姫殿下――どうかそのまま、王太子殿下の隣へ」


セレナは思わず、隣に立つアルシオンを見る。


アルシオンは、静かに一度だけ頷いた。


セレナは深く息を吸い、静かに頭を下げた。


「……はい。

 微力ながら、お支えいたします」


大広間に、柔らかなざわめきが広がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なぜ王太子が一切表でやらないで、後宮の姫がやったのか…。正妃に認められるため?としても国の会議の様子も簡単に進行してしまい、あれだけ時間をかけて力をつけていた王妃があっけなく動揺して失脚も違和感が。王…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ