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穢祓師 〜Xblades〜  作者: 早谷 蒼葉


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第5話 帰り道

05.帰り道


 チャイムが鳴った瞬間、教室の空気が一気にゆるんだ。夕方の光が窓から差し込み、机の影が長く伸びる。


 転校初日の放課後。休み時間の度にみんなに囲まれて、心身共に疲れているが心地の良い疲労感に浸っていた。しかし雪村くんに言われた言葉のせいで、胸の奥がまだそわそわしている。


 荷物をまとめていると、後ろから軽い声がした。


「おい、大祐。今日ヒマか?」


 振り返ると、雪村くんが椅子の背にもたれながらこちらを見ていた。朝以来、特に声を掛けられることがなかったので、少し驚いた。



 相変わらず軽そうな笑顔なのに、どこかこちらの反応を観察しているような曲者ぶりが隠れている。


「え、ああ……別に予定はないけど」

「じゃ、一緒に行こうぜ。恭介と桜も一緒だ」


 なぜ僕の予定を当然のように聞いているのかは分からない。けれど雪村くんの声は、断るという選択肢を自然と消してしまうような力があった。


(……この人、やっぱり不思議だ)


 そんなことを思っていると、霧ヶ峰さんが立ち上がり、こちらへ歩いてきた。


「真田くん、私たちこれから街に寄って帰るんだけど……もしよかったら、一緒にどう?」


 相変わらずの優しい微笑み。けれどその奥には、もう少し複雑な気持ちが揺れているように感じた。


「あ、ありがとう。じゃあ、お邪魔じゃなければ……」


 霧ヶ峰さんと面と向かうと緊張してしまう。これが一目惚れというやつなのかもしれない。


「お邪魔なんて。むしろ歓迎だよ」


 嬉しそうな反応を示す霧ヶ峰さんに、胸の緊張が少し溶けた。


 その後ろで恭介くんが軽く頷く。


「人数が多いほうが賑やかでいいですよ。雪村が真田くんに興味を持ってるみたいですし」

「まぁ、……それは否定しねぇよ」


 雪村くんが頭をかきながら笑う。そのやりとりは、仲の良い友人同士にしか見えなくて微笑ましかった。


 大和学園の校門を出ると、夕日が校舎を赤く染めていた。まだ風が少し冷たくて、春と冬の境目のような空気。


 僕たちは自然と四人で並んで歩いていた。雪村くんはあいかわらず下校中の女子に声をかけまくっている。そのマメさは僕には真似できない。


「大祐、お前なんか部活してたのか?」


 声をかける相手が周りにいなくなったタイミングで、雪村くんが突然言う。


「え、うん。……バスケをしてたよ」

「マジ?なんか……似合わねえな」

「似合うとか、似合わないとかあるの……?」


 思わず聞き返すと、雪村くんは楽しそうに笑った。


 一方で霧ヶ峰さんの視線がそっと雪村くんへ向けられる。


「雪村さん、人の印象を勝手に決めつけるのはよくないよ?」

「お、なんだ桜。やけに大祐には優しいじゃん」

「……それはもちろん。真田くんは誰かさんと違って女の子に誠実そうだし」


 言葉は穏やかで微笑んでいるのに——


 空気がわずかに、ひんやりした。


(……まただ、気のせいじゃない……)


 少し前を歩く霧ヶ峰さんの周囲だけ、薄い霧のように空気の密度が変わる。気のせいかと思ったけれど、指先に当たる風が確かに冷たい。


 檜山くんが小声で言う。


「雪村、あまりからかうと寒くなりますよ」


 普通に発した言葉だが、みんなも感じているようだ。そしてそれを受け入れていることも驚きだ。


「からかってねえよ。俺は全女子に対して誠実に対応しているだけだ」


 雪村くんは困った顔をして、後頭部をかきながら言った。


「そういうところですよ……」


 霧ヶ峰さん本人は気づいていないのか——気にしていないだけなのか。穏やかな笑顔のまま僕に向き直る。


「ごめんね、真田くん。雪村さんって、ちょっと意地悪なところがあるでしょう?」

「え、えっと……まあ、少し……?」

「だよね。昔からそうなの」


 その一言に、雪村くんがややむずがゆそうに眉を動かす。昔と言われたときの2人の空気がどこか親密で、僕には入り込めない世界のように見えた。


(……この二人、ただの同級生じゃない)


 そう考えると少し胸が苦しくなった。なんだこれは。


 しばらく4人共、無言で歩く。それにしてもこの集団の中にいると身体の調子も良く感じるから不思議だ。見たくないものを見なくて済む。


 雪村くんが、ふとこちらを振り返った。


「大祐」

「な、なに?」

「お前、面白ぇな。歩いてるだけでいろんな反応するじゃん」

「え、僕何か変だった?」

「いや、悪い意味じゃねぇよ。むしろ安心した」

「……安心?」


 ドキッとしたが何を言われているのか分からない。でも、雪村くんはそれ以上何も言わなかった。


 人通りが増える道路に差しかかると、路地裏から若者の大声が聞こえてきた。


「だから言ってんだろ!?俺はお前が必要なんだよ!!」

「やめて……もう別れたいって言ったよね……」


 通行人がちらりと視線を向け、足早に避けていく。


 路地から少し入った場所で、1人の女子高生が泣きながら腕を掴まれていた。相手は二十歳前後の男。粘着質な気配が離れていても分かる。


 その瞬間——雪村くんから漂う雰囲気が変わった。


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