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穢祓師 ―穢れを祓い、絆を紡ぐ学園異能譚― Xblades  作者: 早谷 蒼葉
第六章 新しい風

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第40話 風のささやき

40.風のささやき


 九重風魔ここのえふうま——四百年以上続く家系の歴代最強といわれる男。


 そんな相手に空飛そらとくんは挑む。


「今、ここで——あなたを超えます!」


 穢力きりょくが爆発する。今度は制御しようともしない。


 風が巻き上がり、天井のモニターが揺れる。


 空飛くんの体を中心に、圧縮された空気が渦を巻く。


 全身が風、すべてが刃——


「……凄まじいですね」


 恭介くんの呟きは、初めて聴く声色を含んでいた。


 空飛くんは、技術を捨て、純粋な戦闘本能と力にシフトしている。


「君は、そんな闘い方も出来るのか」

「あなたを超えるためなら!」


 空飛くんが消えた——


 風魔さんの横。


 荒れ狂う台風のような一撃。


 風魔さんが、避けずに受ける。


「ぐっ!……」


 衝撃波が訓練室の壁を震わせた。

 

 初めて風魔さんが押される。


 一歩、二歩、後退している。


 空飛くんが目を見開く。もう笑みは消えていた。


「こ、これほどの男か、猿飼空飛さるかいそらと……」


 武士園会長の独り言が聞こえた。


 だが次の瞬間——


 風魔さんの気配が変わった。周囲の温度が下がり、背中に寒気が走る。


 見えない壁が、上から降ってきたようだ。


「……本当に、凄い人ですね」


 空飛くんの呟きが漏れる。

 

 そして静寂が訪れ、風が止まるほどの重圧がかかる。


 空気が歪み、空間が捻じれ——風魔さんを見失う。


 いつの間にか空飛くんの腕が掴まれ、重心が崩されている。


 地面に叩きつけられる寸前で、空飛くんが身をひねる。


 辛うじて回避し——距離を取った。


 空飛くんの息は荒いが、風魔さんは呼吸一つ乱れていない。


「……君は危険だ」


「……あなたが怖いです」


 無表情に見えた風魔さんの顔に、初めて感情が映された。


「だが、私に敗北などない!」


「けど、僕は乗り越える!」


 二人の穢力が激情に乗り迸る。


「見せてやる。これが私の風だ」


 風魔さんは一本の脇差を取り出した。そして無造作に振る。


 脇差から放たれた風が床を割った。


「上手く、避けてくれよ」


 冷血な視線、声に震えた。


 脇差を何度か振るう。いくつもの斬撃が風となり、空飛くんに迫る。


 更に、それぞれが途中で裂け、幾重にも枝分かれしている。


(逃げ場が……ない!)


 空飛くんは——跳んだ。


 それは最適な選択。


 裂ける風が、紙一重で足元を抜けた。


 だが、上空。そこに——風魔さんがいた。


「くそっ!」


 空飛くんの呟きを聞き、風魔さんの口元が笑みで歪む。


 そして——上から逆手で脇差を振り抜いた。


 縦の斬撃は、空間ごと割れた。


「やばっ!」


 空飛くんは両腕に穢力を集中して、防御に回す。


 風との衝突。


 体が叩き落される。


 轟音——床が陥没し、粉塵が舞い上がる。


 そして——静寂。


「……終わりだ」


 風魔さんの声から冷たさが消えた。


 決着の時。


 だが——


「まだです」


 粉塵の中から声がした。立ち上がる影。


 空飛くんは血を流している。しかし、目は死んでいない。


「風魔さんの風は……鋭い。でも」


 穢力が揺らぐが、暴れない。


 凝縮、極限まで圧縮。


 鋭く切断する風と、荒れ狂う風——同族の闘い。


「——速さでは負けません!」


 空飛くんが——完全に消えた。


 そして、風魔さんの背後、真横、上から同時に迫る。


「これはっ!」


(分身……?)


 いや、違う。速度による残像。


 僕の思考が追いつかない領域。


 一瞬の攻防。


 上からの膝落としは避けた。


 横からの肘は、風魔さんの脇差を弾いた。


 背後からの正拳が、風魔さんの胸元を捉える。


 直撃は避けたが、スーツが裂け、暴風に巻き込まれ吹き飛ばされる。


「っ!——」


 今度は風魔さんが粉塵に巻かれる番だった。


 張り詰めた空気が、軽くなった気がする。


「……届いた」


 空飛くんは呟いた。さすがに息が上がっている。


 風魔さんの穢力が、完全に静まる。今度こそ決着なのか。


 嵐が過ぎ、無の時間。


——圧も消えた。


(……何も、感じない?)


 その違和感に、背筋が凍る。


 空気が消えた。


 音も、圧も、存在も。


——次の瞬間。


 空飛くんの喉元に、脇差が添えられていた。


 いつの間に……どうやって——


 空飛くん同様、僕も全く認識できなかった。


「実戦なら……ここで終わりだ」


 静かな声。


「やられた……」


 ほんの一瞬の判断の遅れ。それが致命傷だった。


 その場にいる誰もが動けなかった。


 沈黙が訪れる。


「そこまでだ」


 雪村くんの声が落ち、それを合図に脇差が引かれた。


 空飛くんはその場に膝をついた。


 だが——笑っている。


「はぁ……ははは」

「何が可笑しい」

「だって……凄い闘い方するから」


 空飛くんは顔を上げる。


「最後に消えましたね」

「忍びだからな」


 風魔さんは表情を変えずに言った。


「あんな完璧に消されたら……視えないですよ」


 凪いだ時が流れる……


 そして、空飛くんは立ち上がる。


 傷付き、ふらつきながらも。


「私は君の才能が羨ましいよ」

「僕はあなたが誰よりも怖かったです」


 空飛くんは雪村くんを振り向く。


「僕にはまだ届かない。でも——」

「そうだな」

「追い越します。風魔さんにも——あなたにも!」


 その目に迷いはなかった。


 風魔さんは脇差を納める。


「雪村様、私のテストは不合格ですね?」

「あぁ、不合格だ……俺には共に歩む者が必要だからな」


 風魔さんが不合格……何故。


「風魔、お前は俺のために命をかけるか?」

「もちろんです」

「なら、俺たちのことを一番近くで支えろ。ただし、死ぬことは許さねえぞ」


 短い時間、二人は視線を交わし合う。


「仰せのままに」


 風魔さんは空飛くんに向き直った。


「雪村様にお仕えすることだけが私の望み。だが、君に託すよ——空飛」

「えっ!」


 そして、二人に背を向けて歩き出す。堂々とした姿だった。


「風魔、お主の願いは叶わんかったか……」

「残念です。ですが……良いものを見れました」

「あやつこそ、本物の天才、か」


 風魔さんはその問いに答えなかった。少し寂しそうな笑顔を浮かべるだけ。


「悔いはありません。新しい使命を与えてもらえましたから」

「そうじゃな……さて、我々の戦場に戻るか」

「はい」


 風魔さんは最強の名を残して、一陣の風のように去っていった。


「うち、あの人に勝てる気しないんだけど……」

「百合、あなたは雪村さんに選ばれたんだから、自信を持ちなさい」

「桜……好き」


 終わってみれば、風魔さんはほぼ無傷だった。それほどの実力を見せられ、百合さんが不安になるのは理解できる。彼から託されたものは重い。


 そして、託された者は——


 雪村くんは、座り込んでいる空飛くんの前に立つ。


「空飛、負けたな」

「はい、届きませんでした」

「……いい顔だ」


 空飛くんの表情は明るい。すっきりとした笑顔だ。


「先輩とは違い、風魔さんの姿は掴めました。届きませんでしたが……」

「お前は、まだ伸びる」


 その言葉を聞き、更に笑顔が深くなった。無邪気な少年そのものだ。


「俺は、俺と共に歩ける刃がほしい」


 そして、雪村くんは少年を見つめる。


「……俺と共に来るか?」

「はい、行きます!」


 迷いのない答え。


「なら、抜いてやる」


 雪村くんの右腕に炎が灯る。


「お前の刃を見せてみろ」


 そして炎を纏った右腕が、空飛くんの胸を貫いた。


「……ぐっ!」


 空飛くんは苦しそうな表情を浮かべた。


「……見つけたぞ」


 雪村くんは、腕を引き抜いた。


 風が舞い、光が集まる。


 そして、刃が生まれた。その手に握られていたのは——


 忍者の武器、苦無くない


「それが、お前の刃か……ぴったりだな」

「風魔さんから託されましたから」


 冷たく輝くその刃は、最強の忍びを想わせる。空飛くんは魂で、その想いを受け取っていた。


「空飛、お前の力は俺のためにある」

「はい」

「お前は俺のために生き、俺はお前のためにある。そして——」


 雪村くんは手を差し伸べた。


「自分のためだけに命を燃やせ」


 誰かに仕えるだけではなく、共に歩む。自分の命を投げ出さない覚悟を求められている。


「刃の名は?」


 空飛くんは迷いなく、その名を告げる。


「天国——あまくに、です」

「いい名だ」


 雪村くんが笑う。


「僕は今日……主を得ました」

「そうか」

「けど、いつか——」


 空飛くんは立ち上がり、宣言する。


「あなたを……主様を——超えてみせます!」

「あぁ、待ってるぜ」


 風は主を得て、喜び舞い上がる。僕は風のささやきが聞こえたような気がした。


「また、新たな仲間が増えましたね」

「そうだね、恭介くん」


 五人目のXblades。これで半分揃った。


「近いうちに、また新たな出会いがある……そんな予感がします」


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