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穢祓師 ―穢れを祓い、絆を紡ぐ学園異能譚― Xblades  作者: 早谷 蒼葉
第六章 新しい風

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第39話 空を飛ぶ鳥のように野を駆ける風のように

39.空を飛ぶ鳥のように野を駆ける風のように


 武士園会長はその顔に、自信に満ちた表情を浮かべている。


「風魔は、その長い歴史の中でも——歴代最強じゃ」


 だからこそ、自分の護衛という立場を解いてまで、雪村くんに推薦できるのだ。Xbladesに最も近い存在。


 九重風魔ここのえふうま——


 静かに佇む姿を見て、鳥肌が立った。


「それじゃあ、始めるわよ。二人とも中央へ」


 はるかさんが取り仕切り、準備が進んでいく。


「これはあくまでも立ち合いよ。命に関わるような技は禁止ね」


 訓練室は無機質な床や壁で囲まれた部屋。その中央に、空飛くんと風魔さんが向かい合った。


猿飼空飛さるかいそらとです! よろしくお願いします!」

「……君は、何のためにここへ?」

「分かりません……なぜか、こうなりました!」

「そうか」


 話し方も、雰囲気も対照的な二人。並んでみると、体格の違いも歴然としている。風魔さんの方が、圧倒的に上背がある。


「空飛、胸を借りる……なんて考えならやめとけよ」

「もちろん、勝つつもりです」

「ならいい」


 勝利宣言を聞いても、風魔さんは表情を変えない。始まりの時を静かに待っているようだ。


「二人とも準備はいい? 雪村、合図して」


 この場の支配者によって——その時は訪れる。


「始めろ」


 合図が出た瞬間、空気が変わる。


 空飛くんは、さっきまでの少年の空気ではない。顔は笑っているが、圧を感じる。今は静かに呼吸を整えていた。


 一方の風魔さんは、微動だにしない。背筋を伸ばし、視線は雪村くんに向いていた。


「……雪村様。本当によろしいので?」


 低く、澄んだ声。空飛くんが少し眉を上げた。


「どういう意味ですか?」

「君相手で、本当に私のテストになるのか、という意味だ」


 その言葉に、空飛くんは一瞬だけ黙った。だがすぐに口元を上げる。


「退屈はさせませんよ」


 その言葉に、雪村くんの目がわずかに細くなる。


「風魔、安心しろ。空飛は——」


 そして、ニヤリと笑う。


「強えぞ」


 瞬間——空飛くんの右正拳突き。


 乾いた音が響き渡る。風魔さんは、攻撃を手のひらで受け止めていた。


「……悪くない」

「でしょ?」


 息を吸い、一拍溜める。そして、正拳突きの連打を放つ。


 だが、連打と同数の乾いた音が響くだけだった。


 風魔さんは、まだ右手しか動かしていない。


「準備運動は終わりか?」

「はい! 風魔さん、ここからが本番です」


 空飛くんの穢力きりょく開放が始まる。僕の胸は高鳴った。彼の穢れの扱いには見惚れてしまう。


 制御された穢れが、空飛くんを覆った。


「恭介、彼は何者じゃ?」

「新入生です。今日、初めて会いました」


 穢れに関して素人だと知ると、武士園会長は言葉を失った。それほどに洗練された穢力だと言える。


 突如、空飛くんが消えた。


 だが、先に動いていたのは——風魔さんだった。


 二人が視界から消えた。


(……え?)


 僕の目には、移動の軌跡すら映らない。

 

 次の瞬間、風魔さんは空飛くんの背後にいた。首筋へ手刀。


 だが——止めた。


 振り向きざまに、受け止める。


「へぇ……凄いですね!」


 そのまま、空飛くんの回し蹴り。

 

 だが風魔さんは、もう同じ場所にいない。床の上に影だけが揺れる。


 そして横から拳を突き上げる。


 空飛くんは肘で受け止め、重い衝突音が響いた。


 風魔さんの動きは無駄がない。音がない。殺気も、感情も流れない。ただ、攻撃としての最短距離。


 一方、空飛くんは——速い。荒々しい、だが崩れない。風のように流動する動き。


「このままでは猿飼くんが不利ですね……」


 僕には互角に見えるが、恭介くんはそう分析した。


「そうじゃのう。才は認めるが、まだまだ使い切れておらんな」


 上には上がいる。完璧に見えた空飛くんでも、まだまだだと言われる世界。


「大祐。あの二人の違いが分かるか?」


 雪村くんに問われ、よく考えてみる。


「……元々の身体能力、とか?」

「それは誰でもそうだろ……差があるのは、穢力の使い方だ」


 使い方。もう一度、二人を観察してみるが……


「駄目だ、速くてよく見えない……」

「大祐くん、僕分かったよ」


 狛人くんが、何かに気づいたようだ。


「いいかい、穢力は自分の能力を上げてくれる。腕に込めれば、腕力が跳ね上がる。なら視力や動体視力を上げたいのなら……」

「——目、だね!」


 これが穢力の使い方ということか。狛人くんに感謝しつつ、何とか目に穢力を込める。


(視える!)


 今までよりもずっと、世界を認識できる。二人が、どう攻め、どう守るのかが視える。


「二人の違いが分かる?」

「……うん、視えたよ、狛人くん。そういうことなんだね」


 空飛くんは常に全身を穢力で均等に覆っている。それに比べて風魔さんは、部位によって穢力の濃さが違う。


「彼は、確かに天才かもしれん。だが、風魔に比べると経験が足りん」


 武士園会長の指摘は鋭い。そして師もいない。僕でも分かるくらい、風魔さんにスピードで後れを取っている。


 しかし——


「お前ら、分かってねえよ」


 雪村くんが、みんなを否定する。


「俺は穢力の制御が出来るだけで、天才とは評価しねえぞ」


 呆れたように話す雪村くんに、武士園会長は答えを求める。


「雪村、お前には何がみえているのじゃ?」

「空飛は常に思考している」


 今までとは違う打撃音に、みんなの意識が二人に戻る。見ると、空飛くんが吹き飛ばされて、片膝をついていた。


「風魔さん、凄いです!」

「君もな。だが、もう終わりだ」

「まだです。僕、分かりましたから!」


 空飛くんの笑みが深くなる。それを契機に穢れが、さらに溢れ出した。


「じじい、分かるか? あいつの成長が」

「なんと……雪村が気に入るわけじゃな」


 溢れた穢れが、空飛くんの両手足に収束された。その部分だけ、異常な濃さになっている。


「こういう使い方があるんですね!」


 楽しくてしょうがないという気持ちが、伝わってくる。何だか僕の胸も高鳴ってきた。


 雪村くんは、微笑を浮かべて告げる。


「空飛の最大の武器は——」


 見て、思考し、すぐに実行、実現させる。


「戦闘IQの高さだ」


 雪村くんだけが見つけていた才能が開花する。


「風魔さん、行きますよ!」

「……面白い」


 再びぶつかり合う二人。


 空を飛ぶ鳥のように、野を駆ける風のように駆け巡る。


 空飛くんは獲物を見つけた鷹、風魔さんは掴みどころのない風のよう。


 もうスピードでは差がつかない。


 どちらも攻撃の応酬——だが決定打に欠ける。


 互いの穢力がぶつかり合い、金属同士で叩き合ったような音が鳴り響く。


「ふむ、驚いたが……このままでは決着がつかんの」

「そうですね、あくまで同じフィールドに立ったに過ぎません」


 僕は息を止めていたことを思い出した。


 だが、更に——


「面白いこと思い付きました!」


 空飛くんが踏み込む。


 正拳——その瞬間、穢力が弾けた。


 風の渦。圧縮された衝撃波が飛ぶ。


 だが、風魔さんは真正面から受けない。


 紙一重で逸らし、指先で空飛の脇腹に触れた。空飛の体が一瞬硬直する。


「その技は——こうやるんだ」


 冷静な声。穢力が指先から迸り、とてつもない風圧となる。


 避けられない空飛くんは、壁まで吹き飛んだ。轟音が響き、僕は血の気が引いた。


「空飛くんっ!」


 思わず彼の名を叫び、駆け寄ろうとした。


「大祐、まだだ」


 手で制され、立ち止まる。


「ぷはぁっ!」


 倒れていた空飛くんは顔をあげ、声を上げた。僕は思わず息を吐いた。


「風魔さん……今のは死にませんか?」

「直撃なら、そうなる」


 空飛くんは笑った。


「ですよね!」

「けど、君は相殺できただろう?」

「ええ、一瞬待ってくれたので」


 あの一瞬で、どれだけの攻防があったのだろう。結果としてダメージは受けているが、空飛くんの目はまだ力を失っていない。


 風魔さんは呼吸も乱れていない。穢力も一定のまま。


(これほどの差があるのか……)


 それでも空飛くんは挑む。


「今、ここで——あなたを超えます!」



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