≪33≫
いつものように細々とした依頼を探してギルドを訪れたカリは、空気が妙に緊張していることに気が付いた。
(何だ・・・?)
「あの…何かあったんですか?」
ギルドの受付に座っていた職員に話しかけてみると、職員も何やら深刻そうな表情だ。
「高位魔族が出たそうです」
いかにもこの世の終わりのような言い方だった。
「それは・・・大変だ」
「はい、大変です。どのような災厄が降りかかるのか想像すらできません」
「へ、へぇ・・・」
カリは顔を引きつらせた。
高位魔族はそれほどまでに人間たちに恐れられているのだ。
「魔族の気のせいか、魔獣たちも活発化しているらしく昨夜から騒ぎになっているんです」
「・・・何か被害が?」
「在りすぎて依頼が山のように」
確かに数日前に来た時と違い、依頼板には多数の依頼が掲載されている。
「普通の人でも対応できるような魔物が凶暴化して田畑を荒らし、町を破壊しているんです」
「もしかして先日のモンスターの大量発生も…」
「はい、その可能性は高いというのがギルドの見解です。現在は高レベルの冒険者の方々に魔物退治の積極的参加と魔族退治のメンバーの募集をかけているところです」
「はぁそうですか・・・俺みたいな低レベルは邪魔にならないように大人しくしとくしかないですね」
あははとカリは乾いた笑いを漏らしながら、トラブルに巻き込まれないうちにとギルドを後にした。
そして元凶である魔族から遠ざかるように隣国へと足を向けた。
「おおっ!お待ちしておりましたよっ!」
「は?」
隣国の国境の町。その門を潜ろうとしてカリは見知らぬオヤジに声を掛けられた。
「おっと。そうでしたなっ…私としたことがっ!貴方様がお忍びであることは重々承知しております。ささっ!どうぞこちらにお早くっ!」
「・・・・・いや」
恐らく人間違いをしていると思われるが矢継ぎ早のオヤジの言葉はカリに割り込むことを許さない。
あれよあれよという間に門を潜って、大きな屋敷に引っ張っていかれた。
屋敷の中も外同様、重厚感漂う造りで腰がひける。
「貴方様のお越しを今か今かとお待ち申しておりましたっ!早速ですが…」
「ちょっと待った!」
このままなし崩しに依頼に入ろうとした男に何とかカリはストップをかけた。
「勘違いしています」
「は?」
「俺は貴方が『お待ちしていた』という相手では無い、です」
「何故そのようなことを仰るのです!何か私どもが失礼なことを…っ」
更に勘違いの上乗せをしようとする相手にカリは己の冒険者カードを見せた。
「…レベル、1・・3・・・13!?」
「おわかりいただけましたか?人違いです」
「素晴らしい!!」
「は?」
罵られるか悲嘆に暮れられるものと思っていたカリは予想外の反応に固まった。
「このように低レベルでありながらギルドの推薦を受けられるとは…」
「いえ、ですから・・・人違いです!」
このままでは訳のわからないまま、目の前の人物の依頼をなし崩し的に受けることになりそうな空気にカリは普段の怠惰な様が嘘のように辛抱強く人違いであることを主張した。
「な、なんと・・・では、貴方はカーリー様では無いと?」
「俺の名は『カリ』です」
よく似た名前が居るらしい。片方は凄腕冒険者で片方は駆け出しもいいところの弱小魔導師。
これで誤解は解けただろうということでカリは立ち上がって扉へ向かう。
がしぃぃぃっっ!!!!
「・・・何ですか?」
なぜか出口に向かうカリのフードの裾をわし掴む正体不明の勘違いオヤジ。
ちなみにその人物が何者なのかカリは未だに知らなかったし、知りたいとも思っていなかった。
「もう貴方でも構いませんっ!!」
(いや構おうぜ・・・)
「わが国の姫をお助け下さいっ!!」
「無理です」
そんなヤバそうな依頼を受ける気は毛頭無い。