05. 旅の始まり
リリアと買い出しに出かけてから、3日が過ぎた。
王都からの指令を待つ間、僕たちはフォルティアで過ごしていた。
初めのうちは身体のあちこちが痛んだけれど、それも少しずつ和らいでいった。
朝はガルと兵舎の裏で身体を動かし、昼には装備や旅の荷物を確かめる。
セレネは負傷した兵士たちの様子を見に行き、リリアもその手伝いに出かけていた。
食事の時間になると、自然と4人で集まるようになった。
ガルの話にリリアが呆れ、セレネが笑う。その隣で、僕も少しずつ口を挟めるようになっていた。
そして、その日の朝。
「アステル、また足が止まってるぞ」
ガルの声に、慌てて剣を構え直したときだった。
こちらへ駆けてくる兵士の姿が見えた。
「勇者様! 王都から指令が届きました。将軍がお呼びです」
その知らせとともに、束の間の穏やかな日々は終わりを告げた。
僕はガルと顔を見合わせた。
「いよいよだな」
ガルはそう言って、訓練用の木槍を置き、自分の槍を手に取った。
僕も木刀を置いて、兵士の後についていった。
将軍の部屋へ入ると、セレネとリリアもすでに来ていた。
机の上には地図が広げられ、その脇に封の切られた書状が置かれている。
「来てくれましたか。王都から、皆様への指令が届いています」
グレゴール将軍は地図の一点を指した。
そこはフォルティアから西へ進んだ先。人類圏の最前線に連なる都市群の中央に、その街はあった。
「次は、この街——グランヴェルに向かっていただきたい。」
グランヴェル——人類の最前線を支え、歴戦の戦士たちが集まる街。
その名は、僕も聞いたことがあった。
「到着したら、現地の指揮官を訪ねてください。その後の任務については、そこで説明を受けていただくことになります」
僕は頷き、将軍の言葉に耳を傾けた。
「道中、いくつかの町や村を通ります。近頃は街道沿いでも魔物の被害が出ているようです。救援を求められた場合は、状況に応じて力を貸していただきたい」
「到着の期限は?」
リリアが尋ねる。
「急行せよとの命令はありません。とはいえ、長く足止めされるようなら、近くの駐屯地に連絡をお願いします」
将軍は街道沿いの街を順に示し、補給できる場所や守備隊の詰め所を教えてくれた。
僕は説明を聞きながら、その道のりを目で辿った。
「……フォルティアは、もう大丈夫なんですか?」
顔を上げると、将軍は頷いた。
「勇者様たちのおかげで、敵は退き、守備の立て直しも進んでいます。ここは我々に任せてください」
「わかりました」
答えてから、もう一度地図を見る。
グランヴェルへ至る道には、初めて聞く名の町や村がいくつもあった。
「出発はお昼過ぎを予定しています。準備はよろしいですか?」
「はい。必要なものは、だいたい揃っています」
リリアの言葉に、僕も頷いた。
「足りないものがありましたらすぐにお知らせください。昼食を済ませ、準備が整ったら城門の前へお願いします。」
そうして僕たちは旅の支度に取り掛かった。
セレネは兵舎へ治療の引き継ぎに向かい、僕とガルは食料や道具を分けて荷に詰めた。
そしてフォルティアでの最後の昼食を済ませた後、僕たちは城門の前に集まっていた。
背負った荷物は、部屋で持ち上げたときよりも重く感じた。
肩紐を直していると、見送りに来たグレゴール将軍が歩み寄ってきた。
「改めて、救援に感謝します。道中、お気をつけて」
「こちらこそ、お世話になりました」
僕が頭を下げると、将軍は僕たち4人を見渡した。
「無理はなさらないように、困った時はお互いに相談するのが大事です」
「はい」
最後に握手を交わし、城門の外に出た。
目の前には太陽の光に照らされた道が伸びていた。
数日前、この街にきた時には剣を握りしめていた。
今日は荷物の肩紐を握っている。
「アステル、行こうぜ」
少し先で、ガルが振り返った。
その隣をリリアが歩き、セレネが僕を待っていた。
「……うん」
僕は肩紐から手を離し、3人のもとへ歩きだした。
街道をしばらく歩いたところで、ガルに声をかけられた。
「アステル、少し飛ばしすぎじゃないか?」
後ろから声をかけられて、足を止めた。
振り返ると、ガルが肩に担いだ槍を持ち直していた。
「そうかな」
「まだ城門が見えてるのに、もうそんなに息を上げてどうするんだよ」
言われて初めて、自分の呼吸が速くなっていることに気づいた。
「早く着いた方がいいかと思って」
「急がなくていいって、将軍も言ってたでしょ」
リリアが追いつき、僕の隣に並ぶ。
「まずは次の村まで。途中で休憩も取るからね」
「そうですね。着く前に疲れ切ってしまっては大変ですから」
セレネにもそう言われ、僕は肩紐を握り直した。
「……分かった。もう少しゆっくり歩くよ」
ガルが笑って、僕の肩を軽く叩いた。
「そうそう。先は長いんだからさ」
この先か……。
また魔王軍と戦うこともあるだろう。
そう考えると、やっぱり怖い。
それでも、この3人とならやっていける気がした。
勇者になったばかりの頃は、何をすればいいのかも分からず、不安でいっぱいだった。
今は、知らない街へ行くことも、道中で3人と過ごす時間も、少し楽しみに思えている。
この旅の先には、何が待っているんだろう。
僕は3人に歩調を合わせ、前を向いた。
僕たちの旅は、まだ始まったばかりだ。




