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第七話 バディ

「とある中学校で、立てこもり事件が起こったみたい」


 冷静な声音で、凛はそう告げた。


 学校。


 偽物とはいえ、ここアマリリス女学院も学校だ。

 そんな学校に所属する彼女たちにとって、自分たちと同じ年代の人がいる場所で起こった事件。

 少女たちの瞳には、いつも以上に強い光が宿っていた。


「人質は、生徒や先生たちよ。必ず解決しましょう」


「了解!」


 覚悟が感じられる返事に、凛は満足そうに微笑んだ。


 今回の任務にあたるのは、アマリリスのエリートたちを含めた多くの生徒だ。

 部長の凛やルナ、そして杏や直はもちろん、目立った活躍のない生徒も揃い踏み。

 それだけ、大きな事件なのだ。


 中学生や教師の命が、かかっているのだから。


「では、ナビ部は私と部室に行きましょう。ガジェット部は、アタック部の準備を手伝って!」


「了解!」


 凛たちは、駆け足で教室を出ていった。

 ゆうきたちガジェット部も、部室へと忙しなく向かう。


「人質……許せない」


 ルナは、髪を高い位置で結び直した。

 その姿からは、燃えるような気迫が感じられた。


 ―――


 ルナたちは、中学校にたどり着いた。


 時刻は、すでに六時を回っている。

 月明かりに照らされた校舎は、ここに犯人が立てこもっているとはわからないくらい静かだ。


 アタック部が、静かに校舎へと近づいていく。



 そのときだった。



「そこにいるのは誰だ!」


「⁉︎」


 全員が振り返る。


 直は、ナイフの柄に少しだけ触れた。


 振り返った先にいたのは、アタック部を見つめる、短髪の一人の男性。

 着ている服の色は、青。


『まさか――』


『警察よ』


 杏の息を呑む音が、アタック部全員の鼓膜に響いた。


 異常事態だ。


 警察の中でも末端の者は、フローラの存在を知らない。

 そんな者から見たら、彼女らは制服で武器を持った怪しい集団だ。


「あ、えと、高校生です……」


「手に持っている物は何だ?」


 ガチャン、と音を立てて、ルナは愛用のライフルを落とす。

 他のメンバーも、手に持っている武器は全て地に置いた。


 直はナイフを落としたあと、きょろきょろと周りを見る。


(あれ、パトカーか?)


 学校から少し離れた草の陰に、一台のパトカーが停まっていた。

 あそこで、学校を張り込んでいたのだろうか。


 非常にまずいことになってしまった。


『ルナ、今から言うことを、言ってみてちょうだい――』


「えっと、怪しい者ではございません」


「銃を持っている高校生なんて、怪しい者以外の何者でもないだろう」


 通信から聞こえる言葉を言ってみるが、返ってきた言葉は正論で、疑いがこもっていた。


 ルナの額に、一筋の液体が滲む。

 普段の任務でも、冷や汗を一つも流さない、あのルナが。


『どうしますか? 警察の方ですし、フローラのことを明かしては……』


『……いいえ、簡単にそんなことはできないわ』


 こんな言い合いをしている最中にも、一秒、また一秒と、時間は過ぎていく。


 直は、密かにため息をついた。


(早く人質を助けないといけないのに、なんで……)


 爪が食い込むことも気にせず、直は拳を握った。


 何か、やれることはないのか。


 その場にいる誰もが、頭をフル回転させていたことだろう。



 そんな空気を、場違いな明るい声が切り裂いた。



「おー、何やってんの?」


 細身の女性だ。

 青い警察の制服が、よく似合っている。


「赤坂さん!」


「おー、三原ちゃん。女の子たちいじめて、どしたの?」


「いじめて……! 違いますよ! この子たち、銃刀法違反です!」


 三原ちゃんと呼ばれた男性警察官が、ルナたちを指差して訴える。

 赤坂と呼ばれた女性警察官は、「ふーん」とアタック部の面々を見回した。

 その視線を浴びた者は、値踏みされているような感覚になる。


「こんな立派な武器、ただの女の子が用意できるの? 何か後ろ盾が……って、その校章!」


 急に、赤坂の声のトーンが上がった。


 真正面からその声を聞いていたルナの、肩が跳ねる。


「アマリリスだよね! 私、昔アマリリスの校章の女の人に、助けられたことがあって。警察を目指したのも、彼女みたいになりたいからなんだ」


「は、はあ……」


 ルナの笑顔が、引きつっている。


 こんなときなのに、直は心の内で「ゆうき先輩と気が合いそう」と思ってしまった。


「警察になってから知ったんだけど、君たちはお国の特殊部隊みたいなものなんだよね? お勤め、ご苦労様。さ、早く子どもたちを助けに行ってやりな」


 ふわりと微笑む、赤坂。

 後ろにいる三原は、何が何だかよくわかっていないようだったが。


「……ありがとうございます!」


 ルナが、ピシッと敬礼をした。

 それに倣って、他のアタック部の面々も敬礼をした。


 敬礼を返す赤坂と三原に見送られ、アタック部は今度こそ校舎へと向かった。


 ―――


「ありがとうございます……!」


「いえいえ。学校、頑張ってね」


 ルナたちの健闘で、立てこもり犯を倒し、人質の安全を確保することができた。


 アタック部は、部活で残っていたという中学生や先生に手を振り、小さく灯りの滲む外へと出た。


「フローラさん! どうだった?」


「赤坂さんに、三原さん……。学校は、もう安全です」


「そうかあ、よかった……」


 ルナが告げると、二人は安堵した様子で息を吐いた。

 それでも、すぐに警察官の表情に戻る。


「ありがとう、お疲れ様。あとは、私たちに任せて。それと、これ名刺。何かあったら、連絡ちょうだいね」


「えっ、あ……」


「じゃあ、またどこかで。さようなら」


 言葉を挟む余裕もないまま、名刺を待っていた手をひらひらさせながら、赤坂は去っていく。

 三原も、敬礼をして去った。


「頼れる大人の人の背中って、かっこいいですね」


「そうだね。これ、受け取っちゃったけど。よかったの?」


 ルナの手の中にある名刺には、物々しいフォントで「赤坂理沙」とある。

 フォントと本人が乖離しすぎていて、ルナは少し笑ってしまう。


『警察の方だし、問題ないでしょう。さあ、みんな。ちゃんと帰ってきてね!』


「了解!」


 肩の力をふっと抜いた少女たちは、夜の街を駆けていった。



 直は考える。


(幼い赤坂さんを、アマリリスが救っていた。それだけ、フローラの歴史は長いんだ)


 また、ルナはこう考えた。


(あの二人は、男女を分けずに育てられた人たち。あの二人を見ていたら、異性とバディを組むことが、障害になっているとは思えないよ)



 それぞれの想いが、夜の空気に溶けていった。

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