第二話 ウィード
「わーっ、ここがミライタワーかぁ。くっ、遊びたかった……!」
「先輩、我慢です」
ルナと直がいるのは、ミライタワーのエントランスあたり。
武器は隠しており、これなら事情を知らぬ警察にも捕まらないだろう。
今は、他校のアタック部員と待ち合わせ中だ。
「お待たせしました、ネリネです」
「水仙、到着しました」
しばらくすると、他校の生徒たちも現れた。
ネリネ、水仙、どちらも二人ずつだ。
『これから任務を開始します。よろしくお願いします』
「お願いします!」
凛のナビで、ミライタワー内に入る。
タワーの中は、外と比べて恐ろしいくらい、静寂の空間だった。
『おさらいね。どこかに人質――お客さんが捕えられていて、警察などは入れないみたい』
『でも、私たちは違います。フローラなら、ウィードに知られずに動くことができる』
ナビ越しでも、杏の自信満々な声を聞くと、アタック部員たちも冷静になる。
薄暗い廊下。
「おそらく、監視カメラはウィードが見ているでしょうね。そうなると、駆け抜けてもバレてしまう。ハッキングできますか」
『監視カメラ、ハックしました。いつでもどうぞ』
直の声に応えるように、杏が告げる。
杏の手際の良いハッキングで、現場は安心できる。
ルナは、後ろを振り返って言った。
「一気に駆け抜けるよ」
次の瞬間、ルナたちは光のように廊下を駆けていた。
その傍ら、ルナはディスプレイを出現させ、マップを眺めた。
(爆弾が仕掛けられている候補の部屋は、三つ。三十二階イベントホール、五十五階レストラン、六十階展望台)
アタック部員たちは、突き当たりにある階段を見上げる。
果てしなく続いているように思える、長い長い階段だ。
『まずは三十二階に行きましょう。人質の解放よりも、爆弾の方を優先させましょ』
『監視カメラの映像は差し替え済みです。曲がり角などはないので、まっすぐ行ってください!』
「了解」
ルナたちは、階段を上がり始めた。
まだまだ先は長い。
『階段は一番リスクが低く、一番確実よ。辛いかもしれないけれど、頑張ってね』
メンバーたちの息が、弾んでいる。
鍛えているとはいえ、何段も階段を駆け上がるのはきついようだ。
『三十二階です。このフロアには、イベントホールがあります』
『ただ、ウィードらしき人がいるわ。仲間を呼ばれないうちに倒せる?』
アタック部員たちは、お互いに目配せをし合う。
全員の目が、やる気に爛々と輝いていた。
「体格にもよります。その人は?」
『中肉中背、そして拳銃を所持しているわ』
その言葉を聞き、ルナはニィッと笑った。
メンバーをぐるりと見回して、イベントホールの方を見た。
「なら、いける」
そう呟くと、杏の少し慌てた声が、通信で聞こえてきた。
『待ってください、どのような作戦ですか?』
「まずは、私と直、そしてあなた。近接で取り抑えて、通信機器を取り上げる。次に後衛は、残った三人。遠距離射撃、できるよね?」
ルナは、テキパキと小声で指示を出していく。
アタック部長だが、決して脳筋というわけではない。
的確な指示とひらめき、状況判断の正確さも評価され、部長に就任しているのだ。
他のメンバーも、自信に満ちた顔で頷いた。
『わかった。それで行きましょう。では、スリー、ツー、ワン、ゴー!』
凛の合図で、ルナたち三人は階段の角を飛び出した。
そして、男が驚く間もなく牽制してしまった。
これが、フローラの実力だ。
―――
『三十二階にも、五十五階にもないとなると……残るは、最上階の展望台ね』
様々なデータから分析した結果、この三フロアが怪しいと睨んでいた。
その、最後の階層だ。
『展望台には……たくさん人がいます。ざっと、七人』
「そんなにっ⁉︎」
今まで出会った敵は、二人。
最後の要を固めに来ているとしか、思えない。
『最初は、攻撃しないわ。爆弾の在り処を聞き出しましょう』
「了解」
階段の影に身を潜める、メンバーたち。
『スリー、ツー、ワン、ゴー!』
合図で、サッと身を現した。
「誰だ!」
ウィードの者たちに、銃を向けられる。
それにも全く臆さずに、アタック部員たちは手を上げた。
「爆弾を仕掛けたのは、あなたたちですか?」
「ああ、そうだ。この世は腐っている。無能な国を、俺たちが変えるんだよ」
この手の人間は、何を言っても変わらない。
どうする。
「お前らこそ、何者だ。学生にしか見えん」
「……」
『フローラのこと、絶対に言っては駄目よ。高校生です、と言って』
彼女たちの所属する組織は、一般人にバレてはいけないものだ。
警察や政府でさえ、末端の人間は知らないだろう。
「ただの、高校生です」
ルナは、平坦にそう告げた。
ウィードのボスのような男が、眉を跳ね上げる。
「ただの高校生が、そんな物騒なもんを持ってんのか?」
直は、グッと唇を噛んだ。
(うるさいな。こっちだって、好きでやってるんじゃないんだよ!)
フローラは、孤児で構成された組織だ。
フローラに入らねば、どこにも行くあてがないような、そんな少年少女が集った組織。
ルナも、直も、凛も、杏も、ゆうきも、小春も。
全員、似たような境遇なのだ。
「答えられない、か。まあいい。邪魔する奴は、消す」
ボスが、銃口を向けようとして……止まった。
「そうだ。お前ら、うちに来ないか?」
「ふざけるなッ」
直が動く。
次の瞬間には、ボスの首元にナイフを当てていた。
「私たちがどんな思いで……っ、どんな思いでやってると思ってる‼︎‼︎」
ビリビリと震える声とオーラに、ウィードの者たちは一瞬怯んだ。
その隙に、ルナたちもウィードに攻撃を仕掛ける。
「いいか。私たちは、ウィード……お前たちのもとになんて下らない」
「……ウィード。ハハッ、言い得て妙だな」
「……私たちの役目は、平和を守ること。お前らのやっているような、人の命をも脅かすようなことは、絶対にしない」
「今突きつけているナイフは、どうなんだ?」
「そういう奴らに鉄槌を下すのが、私たちの仕事なんだよ」
「そりゃご苦労さん」
残りの六人は、ルナたちが締め上げていた。
その圧倒的な強さに、ボスはため息をついた。
「こいつらみたいにされたくなければ、爆弾の場所と解除法を教えろ」
「……あっちだ。解除の仕方は、暗証番号を入力すること。暗証番号は、0529」
ボスが指を指した方向には、直以外のメンバーが向かった。
それを一瞥して、また直は口を開いた。
「やけに素直なんだね」
「まあな。お前みたいな奴がいたからだ」
直は、少し首を傾げる。
その様子を見て、ボスがニッと笑った。
「俺に似てる嬢ちゃんに会えて、おもしろかった。いい思い出になったよ」
「……似てる?」
「ああ、似てるさ。なんのことか、いずれわかるかもな」
「わかりたくもねぇよ」
すると、爆弾の方から、ルナが叫んだ。
「爆弾っ、解除したよーっ! さ、さっさと引き渡して帰ろ!」
「相変わらず、呑気な先輩……」
直は、はぁ、と息をつき、ナイフを離した。
そのまま手際よくボスを拘束すると、イヤホンから杏の声が流れた。
『任務完了。お疲れ様でした』
それを皮切りに、「あぁ〜」とアタック部の面々か伸びていく。
たくさんの大人を相手にして、さすがに疲れたのだろう。
最後に直は、ボスと向き合った。
「じゃあね、ボスさん」
「ああ。またどこかで会えることを、楽しみにしているよ」
直は、フンと鼻を鳴らす。
(あんたみたいなのには、二度と会いたくない)
そんな思いを抱えながら、踵を返した。




