第一話 アマリリス
「くぁー、よく寝たー」
大きなあくびを噛み殺しながら伸びをするのは、ポニーテールの少女――月島ルナ。
彼女のいる部屋には、他にも数人がベッドにいた。
「おはようございます、先輩」
「おはよ、直」
蛇川直は、その名の通り蛇のような瞳を擦り、ベッドから起き上がる。
昨日、爆弾の解除をしたうちの二人だ。
「おはよう〜」
「おはようございます」
残りのルームメイト二人も、目を覚ました。
一見、ただの平穏な寮の一室。
だが、その裏には、一言では語れぬ事情があった。
―――
「ねえ、直ちゃん。昨日のハサミ、使い心地はどうだった?」
「そうですね。軽く、導線に刃が入りやすかったので、とてもよかったです」
「まじー?」
朝の食堂。
ボタンを全開にしたブレザーのポケットに手を突っ込み、直と話しているのは、遊佐ゆうきだ。
「爆弾解除用のハサミは、改良はなしでいいか……いや、まだわからん。直ちゃん、改良の余地があったら教えてー! あっ、ご飯来た。じゃあねー!」
ゆうきは、ブツブツと独り言を呟いた挙句、頼んでいた料理が出来上がったので、受け取りに行ってしまった。
残された直は、頰を引きつらせている。
そのとき。
『国立アマリリス女学院に伝達! ミライタワーに爆破テロ予告! 至急、テロリストの確保を!』
食堂、いや、校舎内全体に、放送が入った。
談笑していた少女たちも、顔が険しくなる。
「今から食べるとこだったのに」
ゆうきは乱暴にトレイを置き、ツカツカと足を動かした。
―――
「集まってくれてありがとう。今回のテロの状況を、簡単に説明するわね」
教室の黒板にチョークを走らせるのは、成瀬凛。
この学校、国立アマリリス女学院の生徒会長だ。
「東京のミライタワーに爆弾が仕掛けられ、それを明日の午後二時に爆破するとの予告が、犯人からあったそうよ」
「資料を送りました。各自、見てください」
そう呼びかける眼鏡の少女の名は、水島杏という。
杏の呼びかけで、それぞれが宙に手をかざすと、ディスプレイが出現する。
操作をすると、各自同じ資料が表示された。
その様子を見て、凛が再び口を開く。
「最近、爆弾の事件が多いでしょう? きっと、またあいつらのせいね」
その言葉で、皆に緊張が走る。
「――ウィード」
ウィード。意味は、雑草。
ルナの呟きに、凛がコクリと頷く。
「正式名称はわからないけれど、私たち――フローラは、そう呼んでいる」
フローラとは、ローマ神話に登場する、花、春、豊穣を司る女神のことだ。
だが、少女たちの言うフローラとは――。
国家特殊部隊「フローラ」。
彼女たち、国立アマリリス女学院の生徒は、皆フローラに所属している。
国の裏組織、といったところだ。
アマリリス女学院も、実は学校ではない。
孤児である彼女らを育成し、今回のような事件の裏で活躍することを目的とした施設だ。
「学校」と呼ばれているのは、カモフラージュのためである。
「ウィードが関わったとされる事件は、昨日の爆弾も含めてこれで五件目よ。いい加減、懲りてくれないかしらね」
昨日の事件でも、その前も、彼らは逃亡していた。
ルナ率いるアタック部員たちが現場を探したが、見つからなかったのだ。
「そろそろ、捕まえたい」
ルナは、机の下で拳を握りしめた。
日本の平和を脅かす存在を排し、平和を守る。
それが、フローラの役目なのだ。
「爆弾はどんなものなの?」
「資料に記述があります。テロリストの予告から、起爆装置はなく、タイマー式のものだと思われます。見た者がいないため、まだどのようなものかはわかりません」
ゆうきの問いに、杏が的確に答えていく。
アマリリスのナビ部は、有能なのだ。
「今回のメンバーは、ナビ部は私、杏、アタック部はルナ、直が指名されてる。ガジェット部は、必要な用具を用意して」
「了解」
指名されているメンバーたちは、皆アマリリスでエース級の生徒たちだ。
ゆうきたちガジェット部が席を立ち、パタパタと駆けていく。
それを見届けたあと、凛はまた指示を出し始めた。
「今回の任務は、とても重要よ。だから、国立ネリネ女学院、国立水仙学園がサポートで任務にあたる。その二校からも、優秀なアタック部員が送られて来るそうよ」
ネリネも水仙も、東京近辺にある支部だ。
東京の中心部はアマリリスが担当することが多いが、いつもサポートメンバーを送ってくれていて、助けられている。
「準備できました!」
段ボールを抱えてやってきたのは、ガジェット部の犬山小春。
ふわふわとした髪が印象的だ。
後ろから、ゆうきたちも続く。
ルナと直は、置かれた段ボールに駆け寄った。
二人は道具などを装着し、それぞれ武器を手に取った。
ルナはライフル、直はナイフだ。
「今日は、現地と爆弾の様子を確認。今から行けるかしら」
「もちろん!」
「了解です」
二人は力強く頷き、現地へ赴いた。
ウィードとの事件に、決着をつけるために。




