幕間 直
建物から出た瞬間、直は盛大なため息をついた。
『お疲れ様でした。帰りも気をつけてくださいね』
「了解。杏先輩も、お疲れ様です」
ここ最近、直はウィードの残党を名乗る者たちの始末に追われていた。
その度、考えるのだ。
(私とウィードのボスの、共通点)
あの日あの男から言われた、「俺と似ている」「いずれわかる」という言葉が、忘れられないのだ。
直はなんとなく、虚空に問うてみる。
「そんなに似てるかねぇ」
そんなことをしても、ただ沈黙しか返ってこないのだが。
『直さん? どうされました?』
「先輩……」
そういえば、通信を繋げたままだったか。
直は、その顔に苦笑をたたえた。
「いや、独り言です。そうだ、杏先輩。私とウィードのボスは、似ているのでしょうか」
『直さんと、ウィードのボス、ですか……』
考え込むような沈黙が降る。
きっと、杏は頭の中のデータを分析しているのだろう。
やがて、静かな声が直の耳を包み込んだ。
『容姿はもちろん似ていませんが、私にはわかる気がするのです。直さんと、彼の共通点。だって、目が似ているんですもの』
「……目?」
ガラスに映る自分の瞳を見て、直は首を傾げる。
ウィードのボスは、こんな瞳をしていたのだったか。
『形は同じとは言えませんが……。何かを貫くような、そんな目をしています。ウィードのボスは国を、あなたはフローラを。……違いますか?』
直は、言葉に詰まった。
その指摘が、的確だったから。
素直に認めてしまってはいけないと、自分の中の何かが言っていたから。
「フローラを、貫く? それは、どういう」
直は自分でも、白々しいにも程があると思う。
それでも、時間を稼ぎたかった。
本心がバレるまでの時間を。
『直さんは、フローラが嫌いなのでしょう? 見ていたらわかりますよ。最近も、ずっと怒っているように見えましたから』
そう、直は怒っていた。
いつまで経っても、本部からの返事がないから。
「いつ、制限に関しての答えを聞けるんでしょうね。もしかして、もう忘れてしまったのか」
直の震える声に寄り添うように、柔らかい杏の声が発せられる。
『大丈夫、待つしかないんです。信じましょう。それでもOKが出なかったら、直さんが潰してください』
「つ、潰すって……フローラを?」
『ふふっ、冗談です。でも、直さんならできそう』
「はあ、冗談を言うような人でしたっけ、先輩」
くすくすという笑い声を聞いて、直は感じた。
この人は、慣れない冗談を言ってまで、自分を元気づけようとしてくれたのだと。
(ルナ先輩の願いは、必ず叶える。そのためなら、組織でもなんでも潰そう)
冗談だけど、と呟いた直の足取りは、不思議と軽かった。




