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第十話 探偵

「さて、私の考察は当たっているかな?」


 探偵の西藤は、小さく小首を傾げてみせた。


 ルナと直は、サッと瞳を交錯させる。


 フローラのことは、話さない。

 一つ目の考察が合っているので、「合っている」とだけ言えば良いだろう。


 ルナは、ふっと微笑んで、答えた。


「すごいです、探偵さん。私たちも、総理から依頼を受けていて――」


「へえ? 学生の君たちが、総理から依頼を?」


「あっ、それは……」


 どうしよう、というような視線が、直に注がれる。


 その二人の空気感に和んだのか、西藤はお腹を抱えて笑い出した。


「あははは! 君たち、本当に仲がいいんだね」


「なっ、仲良し……って、なぜ急に⁉︎」


 西藤は、徐々に笑いをやめていった。

 そして、ルナたちに向き直って、あっけらかんと言った。


「いやいや、ちょっと揶揄っただけだよー。ってかその制服、このあたりでは見かけないね。何か、事情はありそうだ」


 西藤の目が、真実を品定めするように二人を舐める。

 全てを見透かすような、透明な目をしている。


「アマリリス」


 西藤は、不意にそう呟いた。


「以前も、アマリリスの校章の制服を見たことがある。それも、ミライタワー爆破事件の時だ」


「!」


 二人は、バッと視線を合わせた。

 あの時、西藤はあの現場にいたのか。

 できる限り人目を避けて行ったつもりだったし、そもそも人は少なかった。

 なのに、見つかっていたのか。


 西藤は、目を細くさせた。


「私は、よく重大な事件の現場に赴いてるの。何か、勉強にもなるんじゃないかってね。警察とかは面倒だから、君たちみたいにコソコソと。……そうだ、あの時も君たち二人がいた」


 ルナは、頭をフル回転させていた。


 どうする、どうする、どうする。


 こんな時、凛ならどうするの?

 ゆうきなら? 朔なら? 隣にいる、直なら?


 みんななら、フローラの秘密をどうやって守る?



「ねぇ。君たちは、何者なの?」



(私は、何者か。そんなの、十何年も考えてるよ)


 簡単に答えが出る問いではない。

 模範回答がある問いでもない。


 フローラという鳥籠で育った彼女たちにとって、その問いは非常に難しいものだった。


 フローラに所属する、アマリリス女学院の生徒。

 そうかもしれない。

 だが、それ以前に、彼女らは一人の少女なのだ。


「……すみません。少し、言いづらい事情があるんです。私たちは、とある組織に所属する者です。ここまでしか言えません」


 ルナは、少しすまなそうに頭を下げた。


 西藤は、それを見て慌てたように言う。


「いやいや、頭上げてよ! そっかー、若いのに大変だねぇ。ちなみに私の西藤探偵事務所は、全然有名でも何でもないからさ。総理が知り合いから依頼をしてきたってだけ」


 そうなんだ、と二人は少し拍子抜けした。


 真剣かと思えば、お茶目なところもある。

 掴みどころのない彼女に、ルナたちはたくさん振り回されてしまった。


「そうだ、私と君たち、一緒に猫を探さない?」


「どうします、先輩」


「いいんじゃない? 悪い人じゃなさそうだし」


「決まりね。歩きながら話そっか」


 それからルナと直は、監視カメラで見たところ、猫がいたという場所に西藤を案内し、猫探しを再開した。


 あちこち探し回ってはいるが、全然見当たらない。


「ああもう、凛に連絡するね! 手伝ってもらった方が早いでしょ!」


 ルナの忍耐力は、もたなかったようだ。

 ルナが、凛にチャットを送る。

 すると、「杏が監視カメラを見て対応する」との連絡が来た。


「杏先輩なら、安心ですね。情報を待ちましょう」


「はーっ、監視カメラまで覗けるなんて、すごいね、その組織!」


 そこからなんとなく、組織についての話になった。


「『先輩』って言ってるけどさ、学校みたいなところなの? 制服もあるし」


「そうですっ。ちゃんと校舎もあるんですよ!」


「へぇ。どこらへんに?」


「言っ、言いませんからね!」


 東京のどこかの森らへんとは、絶対に言えない。

 まあ、アマリリスの生徒さえ正確に把握していないほど、木々に紛れているのだが。


「学校のお友達は、どんな感じ?」


「えーと、しっかり者の凛、変人なゆうきとか!」


「先輩、しゃべりすぎ」


「えー、いいじゃん! あと、最近他校に友達ができました!」


「ほーん?」


 ルナは、西藤とは話しやすいようだ。

 たくさんの話題が出てきてしまう。


 ルナは、少し頰を紅潮させた。


「初めての、男の子の友達なんです。朔っていう、とても強い子」


「へぇ〜?」


 途端に、西藤の目がニヤニヤと、直の目が鋭くなった。


 「話を切り上げてください」と地獄のような声を発している直とは対照的に、西藤は何でも聞きたがる。


「初めての、男友達なんだ? 今まではいなかったの?」


「はい。まず、男の人と会うことがありませんから」


「えっ! それ、だいぶヤバくない?」


 西藤が、少し首を傾げた。


「だって、生きていれば必ず男子とは出会うでしょ?」


「……女子校ですし。私たちの組織は、異性と会うことを禁じられているんです」


「……はい?」


 西藤が、フリーズしたようになる。

 きっと、頭の中ではたくさんの考えが、浮かんでは消えているのだろう。


「それは、異常だ。それだけで、本来起きたはずの出会いが失われていく。それは、駄目だと思うよ」


 組織の方針に口出しする権利はないけどね、と西藤は付け足す。


(探偵とはいえ、この西藤という人は一般人だ。そんな人から見ても、この組織は異常なのか)


 直は、ふっと空を見上げた。


(こんな風に街に立って、空を見上げることも。フローラは、許してくれない)


「あっ、杏から! えーっと、コンビニの前で優雅に日向ぼっこしてる……らしいよ!」


「了解です。行きましょうか」


 直の考え事は、ルナの声に遮られた。


 それよりも今は、猫を探さないといけないから。

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