第九話 考察
「ねえ、フローラってこんなことまでする組織だったっけ」
総理大臣の飼い猫が失踪した。
なぜか、その猫をアマリリスが探している。
「さあ。総理の我儘でしょ。権力を飼い猫のために使うなんて、馬鹿な権力者ですね」
「あっ、駄目だよ、誰が聞いてるかわかんないところで!」
直の辛辣な言葉を、ルナは否定しない。
それが少し滑稽で、直は笑みを漏らした。
今回任務にあたるのは、ルナと直だけ。
ナビ部もついていない。
それだけ、小さな馬鹿馬鹿しい事件なのだ。
「全く、私たちはお国の便利屋じゃないんですけどね。暇でもないんですけどね。いい加減にしてほしいです」
「まあまあ、まずは目撃されたとこに行こ!」
ルナはホログラム画面を呼び出し、そこに猫の画像を表示させた。
その猫の名前は、ハナというらしい。
かわいらしい三毛猫の、女の子だそうだ。
ふわふわと体型を隠す毛が、チャーミングポイントだ。
ここは、東京の街中。
くるりと景色を見てみると、高層ビルに囲まれていた。
「こんなの、久しぶりだよ。この任務のおかげで、学校の外に出れちゃった。総理大臣さんには、感謝だね!」
「全く先輩は……。ナビ部が監視カメラを覗いたら、ここ周辺にそれらしき猫がいたそうです。あまり移動していないとは思いますが……」
二人が目を凝らすが、人が多すぎて、猫なんて見えない。
どうしたものか。
「お嬢ちゃんたち! ちょっといいかな?」
「うわっ!」
ルナが、直の服を少し掴む。
誰に対しても仲良くなれるルナだが、初対面で急に話しかけられるのには慣れていない。
二人を覗き込んでいるのは、ラフな格好の女性だ。
ミディアムショートの髪の上には、つば付きのベレー帽が乗っかっている。
手にはメモ帳。
何かの取材だろうか、と直は身構えた。
「私、探偵の西藤ココという者なんだけど。少し聞きたいことがあるの」
「すみません、こっちも時間がないんです。他をあたってくれませんか」
「えー、つれないなぁ」
西藤と名乗った探偵は、まるで幼子のように唇をとんがらせる。
その様子を見ていたルナが、「まあまあ」と割って入った。
「私は全然大丈夫ですよ! なんかの捜査ですか? ぜひ協力させてください!」
ルナの目は、キラキラと輝いていた。
探偵という未知の生き物に出会って、任務よりも好奇心が勝ってしまっている。
西藤は、「本当?」とルナに負けないくらい輝く目で、話し始めた。
「じゃ、少し時間取らせてもらうね。君たちは、この猫を見たかな?」
そう言って指した画面に映るのは――ふわふわの、三毛猫。
ルナは、「あーっ!」と叫んだ。
「その猫、私たちも探しているんです! ハナちゃん、ですよね?」
「バッ、馬鹿、先輩……!」
「――知ってるの?」
その瞬間、西藤の目が鋭く光る。
その眼光に射殺されたように、ルナは固まり、直はため息をついた。
「この猫は、総理大臣の猫だけど。なんで、学生の君たちが探しているの?」
「そ、それは、そのう……」
いつもだったら、凛が言い訳を考えてくれるところだ。
けれど、凛はいない。
ルナの目は、泳ぎまくっていた。
「私は、総理に直接依頼をもらった。じゃあ、あなたたちは?」
一つ、西藤の指が立った。
「一つ目の可能性。あなたたちも、何らかの形で依頼を受けていた。そして――」
二つ、指が立つ。
「二つ目の可能性。あなたたちが、ハナちゃんを誘拐した犯人である」
「はっ、犯人⁉︎」
「先輩、声が大きい」
西藤が、一歩前へ進む。
ルナたちとの距離が、近くなった。
「さて、私の考察は当たっているかな?」
小さく小首を傾げる西藤に、ルナは「悪魔……」と呟いた。




