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第9話

 アルテは鬼だった。


 流石に体を慣らす為にいきなり魔獣を相手にする事は、必死の説得で諦めてもらえた。


 だが今度は体を勝手に動かされて、体の使い方を徹底的に叩き込まれた。


 自分の体なのに、自分の意思と関係なく動く。しかもその感覚が全部伝わってくる。


 他人に操られながら自分の手足の動きを見ている、というのは想像以上に気持ち悪い体験だった。


 体の感覚を掴んだら、今度は攻撃の避け方を実際に一度教えてもらい、その後は魔獣相手に逃げ回ることになった。

  だが理屈と実践は別の話で、日本に居た頃は襲われても飼い犬がせいぜいだったため、ビビりまくって最初はまともに体当たりを喰らってしまった。


 簡単な避け方が形になると、魔術と解体の基本中の基本だけは丁寧に教えてくれた。

 だが魔術では魔術陣の作り方を教えて、後は幾つかの魔術陣と効果を教えてもらっただけだ。


 無理矢理に数学で例えると、幾つかの公式の使い方と使う場面は教えてくれたが、公式がなぜそうなるかの説明は後回しにされた感じだ。ただひたすらに、公式を書く速度と使い分けと計算の練習だった。


 この事についてはアルテも時間がないから仕方なくこうしたらしく、今度の授業では理屈の説明をするつもりらしい。


 魔術にある程度慣れたら、相手の攻撃を捌く型の反復をしながら魔術を作っては消し、作っては消しの繰り返し。その後は実際に襲ってくる魔獣を捌きつつ魔術を放っての繰り返しだ。


 高性能な体のおかげで殆どの魔獣の攻撃は遅く、こちらの動きは速いので落ち着いて動けば掠りもしなかった。


 魔術を使った魔獣の討伐は魔術一発で済んだ。


 その後は倒した魔獣で解体の練習をした。恐らく20は解体したと思う。


 血抜きに関してはアルテが仕留めた直後に血の魔法で魂ごと抜いていたので、俺がやる必要はなかった。


 なぜ魂ごと抜いたのかは、聞かなかった。


 それを知って、俺がアルテを見る目が変わってしまうかもしれないのが怖かった。


 何より、自分の弱さを、知りたくなかった。


 だからだろうか。


 一度、魔獣との戦闘に限界がきて、魂の裏側に逃げ込んでしまった。


 アルテの問いにも答えないで内に籠っていると、一瞬、暗闇に包まれた。


 あの、最低な目が俺を見ていた。


 恐怖に竦んで動けないでいると、俺を守るように囲っていた銀の炎が消えた。


 その瞬間、恐ろしいほどの呪詛と悪意と怨念が、俺を襲った。


 一瞬だったと、思う。


 何も分からなかった。


 俺が誰なのか、俺を殺す者たちが何なのか、なぜ殺されながら生きているのか。生きていること自体が苦痛になる、あの悍ましい感覚が。


 発狂しそうになった瞬間、銀の炎が最低な目を焼き払い、炎の周りが完全な闇に包まれた。


 そして、俺を抱きしめる、アルテだけが居た。


 その時は本気でアルテが女神様に見えた。感謝と安心と、他にも色々な気持ちが一緒くたになって、一生ついていくと心の底から決意して、訓練に戻った。


 及第点をもらった後、落ち着いた頭で考えて気づいた。怨霊達を寄せ付けない炎を消したのは、恐らくアルテだ。


 アルテが銀色の炎で俺を守ってくれているのだろう。


 あの目が何なのかは相変わらず分からないままだ。


 そして、守られているのは事実だし、感謝もしている。だが途轍もなく納得がいかない。


 俺が狭量なわけではないはずだ。


 怖くてアルテに何も言えないし、これからも頑張るしかないのだけど。


 俺もいつか、アルテに殺されたらあの目の仲間になるのかな。

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