第8話
闇に包まれたのは一瞬で、闇が晴れたと思ったら俺の目の前には壁が広がっていた。
いや、壁じゃない、門だ。
すぐにはわからない程の巨大な門が、夜の空へ向かって聳え立っている。
月明かりに照らされて白く輝くその壁には漆黒の文様が浮かび上がる。
そして、違和感に目を凝らした瞬間、壁ごと覆うように薄緑色の光の膜が揺れていた。
俺が驚いていると、アルテはここについて軽く話し出した。
「見えましたか?
その膜は一層目の結界です。
ここは魔族領との境にある都市になります。
戦争になった時、人間だけではなくドワーフとエルフにとってもここが重要な場所になります。
ですので、この都市の防備は他の都市と一線を画します」
「少しだけ、さっきみたいに空から見せてもらっても良い?」
「いいえ、ダメです。
今からこの辺りの魔獣を狩るつもりです。その時に魔術の練習と戦い方に獲物の解体方法を教えるので、時間が足りません。
ですが、貴方の出来次第で時間が出来れば見せてあげますよ」
少しだけ残念だけど、しょうがないね。
なにより、この体はアルテの物だし。
「わかった、なら頑張って出来るようになるよ。そしたら、お願いね」
「ええ、約束します。
ふふ、それじゃあ、いってみようか!」
「え、アルテさん?キャラ違くないですか?」
豹変したアルテはやる気と稚気に目を光らせた笑顔だろうに、とてつもなく嫌な予感と寒気を覚えさせた。
俺は何かとんでもない間違いを犯したのでは?
「それでは先ず、この体を君に渡しますね。中に戻るので、表に出てきて下さい。妥協せず、厳しくいきましょう」
「表に出るってどうすれば良いの?できれば、優しくしてもらえると嬉しいですよ?」
「この体は自分のものだと強く考え、貴方の体を思い浮かべてください」
アルテに言われた通り、俺の体を思い浮かべると、突然体に重さを感じた。
そうか、俺は今まで重さが無かったんだ。
「上手くできましたね。久しぶりの実体ですし、新しい体ですからまずは体の動かし方を確かめてください」
「わかった。お?声がおかしい?」
変だ、俺の声はこんなに低くなかったはず。いや、体もおかしいぞ?
「アルテ、俺の体おかしいんだけど!どうなってんの?体が大きいんだけど!いや、新しい体って何?」
俺が、自分の体の違和感に激しく動揺していると、アルテの落ち着いた声が宥めてくる。
「シン、落ち着いて。大丈夫だから。それは君の体だよ」
「そんなこと言っても。うわ、我が体ながら気持ち悪い位に力が漲ってる」
アルテにツッコミつつも自分の体を動かしているとあり得ない位に動きが速いし、周りへの影響が大きく驚く。
何なら、バランスを崩して転びそうにすらなってしまう。
「落ち着いてください。今の余計な力は、身体を造った魔力の残照です。余分な魔力は振り払えば大丈夫です。そして、大きさの違いはこれから直ぐになれます。貴方が作ったのですから」
「いや、俺が作ったって何!え、もしかして考えただけで造れたの?何その無法!しかも、想像した通りの体じゃないなんて欠陥が大きすぎる!」
「戦う為に造ったのですから、屈強なのは当然です。
それがこの世界の戦闘職の標準的な体でもあります。
細かいことは後にして魔力を払い、体の感覚を掴んで見てください」
とりあえず、話ながら確認をしてたら、体の回りに靄みたいなのが纏わり着いてる事がわかったので、靄を全て振り払うように腕を振るってみる。
すると、目の前にあった大木が半ばまで砕け、音をたてて此方に倒れてきた。
慌てて逃げようとしたら足が絡まり、倒れてしまい、直ぐに頭を抱えて丸まった。
体に重い衝撃が走る。が、それだけだった。恐る恐る回りを見ると、俺の隣に大木が転がるだけだった。
確かに当たった筈なのに。
「痛くない?」
「この程度なら傷一つ着かないですよ。
それにしても、見事に転んでしまいましたね。
咄嗟の動きでも体制が崩れないように、しっかりと体に慣れましょう。
体の頑丈さを理解して貰えましたので、次は魔獣相手に体の動かし方を練習しましょう」
俺はまさか、チュートリアルでアルテに殺されるのでは?
アルテのスパルタ過ぎる提案に、無言で戦慄した。




