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第5話

 「それでは家に戻り、今後の準備をします。私が表に出るので、抵抗しないで下さいね」


 「え、どういうこと……?」


 俺がアルテの言葉に困惑した、その刹那――すべてが変わった。


 気がつけば、俺は底のない暗闇の中で、1人で浮いていた。


 指一本、髪の毛一筋すら自分の意志では動かせない。


 なのに、視界だけはなぜかはっきりと開いている。


 この、恐ろしいほどに不自由な感覚を、俺はよく知っている。


 また、1人に―――。


 『無事に表に出れましたね。それでは、私の視界を繋げるのでこの世界を楽しんでください』


 アルテの視界が共有された瞬間――


はるか上空から、銀と蒼の月が果てしない森を照らしていた。木々の隙間から黄色や青色、白色の光が漏れ、広大な森の先には、月の光を反射する水面が果てなく広がっている。


『―――きれいだ』


 アルテは何も言わずに、ただその場で景色を見せてくれる。


 やがて、森の中にひと際目立つ人工の建物が見えた。


 アルテはその建物に向かい、ゆっくりと移動していく。


 『アルテ、あの建物は城だよね?周りは廃墟?』


 『そうですね。ですが、あの場所には私の眷属達が住んでいますし、お城は私が使っています。


 手に入れた時の状態では使う気にならなかったので、廃墟ともども弄り回しました。


 見た目はこれでも随分綺麗になっていますよ』


 『そうですか。もしかしてアルテ、さんは王様や貴族みたいな立場ですか?』


 高貴な人だと見せつけられると気後れしてしまうのは、仕方ない筈だ。


 近付いたことで詳細が分かるようになってきた。


 確かに樹に飲まれていたり、苔が生えてたりして入るが、それは自然と共存しているようだ。


 どこも壊れておらず、樹に飲まれて見えた家もそういう造りのようだ。


 お城はさらに迫力がある。町は自然との共存が意識されているが、城は技術の粋を集めたかの如く堅牢かつ、機能美に満ちているし、庭園の花園は光で照らされ、とても綺麗だ。


 『そうですね。でも気にしなくて良いですよ。今は同じ体に居るのですから。

 ですが、貴方が表に出ている状態で私を呼び捨てにしたら、みんなで殺そうとしてくるかも知れないですが』


 『気を付けます』


 最後の一言で、思わず怖気づいてしまった。


 アルテの苦笑いが見えた気がした。


 俺が慣れ慣れし過ぎたか?


 だけど今まで若干の喜びはあっても拒絶の感情が全くないし、公式の時だけ気をつければいいか。


 『ここが執務室ですよ。


 側近のエルトラに旅に必要な装備を準備するように伝えてあるので、来るまではここでゆっくりしていましょう』


 アルテはバルコニーから直接執務室に入り、椅子に座りながら教えてくれるが、いつの間にエルトラさんに伝えていたのか分からなかった。


 『離れた人と話す魔法でもあるの?あ、それとこんな夜更けに起こして大丈夫なの?』


 『ありますよ。今回は彼が眷属なので魔法とは別ですが。それと、彼はソウルイーターなので眠ることは無いですから大丈夫ですよ』


 んん?側近がソウルイーター?


 そういえば魔法だろうと考えていたけど、なんで幼くなってんだ?


 そもそも、なんで魂の根幹にもう一つの魂があるの?


 アレ~?


 「お帰りなさいませ、アルテ様。どうぞ、お召し上がりください」


気づけば隣に、灰色の髪と眼をした褐色肌の女性が立っていた。


 いつの間に?


 「ただいま、セラス。ありがとう、頂きますね」


 この人凄い美人!


 あれ、そういえばエルトラじゃないの?


 俺の混乱をよそに、アルテとセラスは、ほのぼのと紅茶を楽しみつつゆっくり過ごしていた。


 ただ、紅茶を注ぐ一瞬。アルテの瞳と重なった時、セラスが全てを見透かす様に冷たい瞳で俺を見た気がした。




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