第2話
――死にたいですか?
彼女の問いは、俺の中にジワリと染み込んでくる。
1人でここに放置されていた時、このまま身動き一つとれず、誰とも話せず、痛みすらなく、ただ、この景色を見続ける。
そこに考えがいかない様に、必死で軽く考え、騒いで、逃げていたけど、確かに、その考えは過ぎっていた。
だけど、ああ。
彼女のせいで、こんな僅かな接点でも、死ぬことがとても怖くなってしまった。
彼女の圧倒的な存在感と、現実離れした美しさと、訳が分からないこの気持ちが、生きたいと。
「嫌です!死にたくないです!助けてください!」
確かに死んだことは認めたし諦めたさ。
それに何もできないし、ここでただ周りを眺めて暮らすだけとか、永遠どころか一か月も持たずに消えたいと思う気がする。
でも、考えている。感じている。ここに居る。それだけは確かだ。それなのに消されるなんて、絶対にごめんだ。
彼女の瞳が少しだけ見開かれる。
その澄み切った瞳に、今までなかった生気を宿して。
「そうですか」
魂だけの存在になっているからか、はたまた別の理由からなのか分からないけど、この女性の気持ちは出会った時からずっと、言葉通り魂を震わせるほど伝わってくる。
悔しさも悲しみも怒りも優しさも、そして安堵と喜びがあることも。
彼女は殺したくないと思っている。それどころか俺を助けたいと本気で思っている。
だから、なぜこんなことを言うのか分からない。
彼女は少し目を伏せた後、俺を見つめてくる。
「それでは一つだけ言います。私に吸収されれば、貴方は動けるようになります。ただし、私が消えれば貴方も消える。それでも、生きたいですか?」
「―――生きたいです。それと、俺のわがままを聞いてくれてありがとうございます」
「大丈夫ですよ。大して負担になりません。
それよりも貴方のほうが覚悟をした方がいいです。これから私は人間と大きく争う可能性があります。
人間が死ぬようなときは見せないように気をつけますが、それでも見てしまう機会はありますし、私が消される可能性もあります。
あなたが思うほど長くこの世界に居られないかもしれません」
彼女の瞳はどうすると問いかけてきているが、俺の答えは変わらない。
「それなら構わないです。俺を吸収してください。俺の名前は****です。よろしくお願いします」
「分かりました。それから、この世界では安易に本名は言わないほうが良いですよ。
相手に縛られてしまう時がありますから。
これから名乗るときはシンと名乗ると良いです。礼儀なので私も名乗りますね。
私の名前は―――、それと***。それから私のことはアルテと呼んでください。これからよろしくお願いしますね」
アルテは初めて俺に笑顔を浮かべる。
ああ、なんて―――。
アルテがその白魚のような傷一つない美しい手を、俺に伸ばしてくる。
そして、死んでから初めての冷気と安心感に包まれて、意識が暗転した。




