真相の痛み(2/3)
「次は遺伝子修正です。
定期検診、投薬、生命維持処置の中で、適切な銀海人の遺伝子を埋め込む。
最終的に生きて誕生し、その後の成長過程で徐々に覚醒し、信号を発するようになって、はじめて観察対象リストに入ります」
それから彼は、感情のない声音で言った。
「大半は死にました。
少数は生き残っても、十分ではなかった。
さらに少数は黒衣人組織に吸収されるか、予備個体として残された。
そして十六年前、ようやく本当に見込みのあるE-0が、再び数体現れたのです」
白石紀惠は、ゆっくり顔を上げた。
その目には、すでに赤い血が滲んでいた。
「……私が産んだ子も、その一人だったの?」
「ええ」とゾルは答えた。
「しかも、非常に優秀でした」
その一言で、明ですら一瞬、身体を固くした。
ゾルは続ける。
「誕生時から、同類を明らかに上回る反応を示していました。我々は一時、ここ数十年で最も本当に門を開ける可能性の高い個体だと考えていました」
「“その個体”だと?」
明の声がきしむ。
「赤ん坊をそんなふうに呼ぶのか」
この問いに対してだけは、ゾルもようやく彼へ視線を向けた。
「あの時点で、我々にとってあれは、一人の人間の乳児より遥かに重要だったからです」
明の目が沈む。
だが、もう言葉は続かなかった。
この先に来る話が、自分の聞きたいものではないと、彼はすでに悟っていた。
果たして、ゾルの視線は再び白石紀惠へ戻る。
「ですが残念ながら、人類上層部は我々を信用していなかった」
「彼らはその個体に対する我々の重視を見抜き、途中でひどく興味深いことをしたのです」
紀惠の声は、喉の奥からやっと絞り出された。
「……何をしたの?」
「すり替えです」
銀白の光が、ゾルの横顔をゆっくり滑っていった。
声音は依然として軽い。
「彼らはそのE-0を連れ去り、別のE-0をあなたのもとへ送り込みました。
一つには、我々が何を計画しているのか知りたかった。
もう一つには、手元にもう一枚の保険を持ちたかった」
彼はわずかに間を置き、淡々と付け加える。
「もちろん、我々は知っていました。
ただ、人類上層部を安心させるため、知らないふりをするしかなかった。余計な衝突を避けるためです」
その時から、人類上層部と銀海文明の関係は、少しずつ離れていったのだ。
明の胸が、どすんと沈んだ。
琉璃もまた、何かを悟ったように、指先をかすかに震わせる。
そして次の一言は、息をつく余地すら与えなかった。
「あなたのもとへ送られたその個体――それが、白石明です」
周囲が、凍るように静まり返った。
遠くの銀柱内部を流れていた光さえ、一瞬、止まったように見えた。
白石紀惠は、すぐには声を出さなかった。
ただ、ゆっくりと、本当にゆっくりと、明のほうへ顔を向ける。
まるで初めて彼を見るように。
明の唇が動く。
だが、声にはならない。
十六年の名。十六年の日々。十六年の「母さん」。
そのすべてが、いきなり真ん中から断ち切られたようだった。
彼は確かに生きてきた。
確かに愛されてもきた。
だが、彼は彼女が産んだその子ではなかった。
それは、サンプルと呼ばれるよりも、はるかに残酷な言葉だった。
だがゾルは、それでも足りないと言わんばかりに続ける。
「では、実際に連れ去られたほうはどうなったのか――
あなた方人類は、何ひとつ研究成果を出せませんでした」
「もうやめて……」
白石紀惠の声は低かった。
この先に来る真実があまりに恐ろしく、聞きたくも知りたくもない。まして向き合うことなど、とてもできない。そんな声音だった。
だがゾルは聞こえないかのように話し続ける。
「彼らは自分たちの能力を過信し、同時に、あの乳児の身体が当時どこまで耐えられるかも見誤った。
連れ去られた個体は、期待されたような成果をすぐには示さなかった。むしろ自然に衰弱を始め――」
「やめろって言ってるでしょう!」
白石紀惠が、唐突に顔を上げた。目は真っ赤だった。声は初めて、制御を失う寸前の鋭さを帯びる。
けれどゾルは、ただ静かに彼女を見るだけだった。
そして最後の刃を、寸分違わず差し込んだ。
「その個体は、死にました」
白石紀惠は、その瞬間、全身から支えを失ったようだった。
泣き崩れはしない。
すぐに倒れもしない。
ただ、目の奥が一気に空になる。
今日まで彼女を生かしてきた何かが、この瞬間、完全に抜き取られたかのように。
「……死んだって、どういうこと?」
問いはひどく遅かった。
もう人の言葉が理解できない人間のように。
ゾルは答える。
「三日と持ちませんでした。
回復不能と判断され、
隠蔽され、処理され、記録から抹消されたのです」
「処理……」
白石紀惠は、その三文字を繰り返した。
胸が引き裂かれるように痛む。
その声は、まるで自分のものではないほど軽かった。
次の瞬間、彼女はふっと笑った。
そこに笑みは欠片もなかった。
むしろ、わずかな狂気すら滲んでいた。




