真相の痛み(1/3)
銀海星へ辿り着いたあと、白石紀惠は前方の光景を目にした、その最初の一瞬、息をすることさえ忘れた。
それは、彼女が想像していた異星の荒野ではなかった。
単に壮麗な文明母星、というものでもなかった。
そこにあったのは、ほとんど完全としか言いようのない銀色の都市だった。
塔は潮のように立ち並び、回廊と橋梁は縦横に走り、あらゆる建築物が、ひとつの冷たい金属塊からそのまま生え出したかのように見える。線は精確すぎて、ほとんど残酷だった。遠くには無数の淡銀色の光柱が垂直に立ち上がっている。灯台のようにも、祭柱のようにも見えた。さらにそのはるか上空には、巨大な環状構造体が静かに浮かんでいる。まるでこの星の頭上に刻まれた、沈黙の傷跡のようだった。
都市全体が、恐ろしいほど静かだった。
無人なのではない。
確かに人は動いている。稼働し、発光し、機能している。なのに、余分な音がひとつもない。誰もが自分の立つべき場所を知り、進むべき方向を知っているようで、立ち止まることにすら無駄がない。
ここは、あまりにも秩序立ちすぎていた。
故郷とは思えないほどに。
むしろ、あらゆるものを分類し、命名し、回収し尽くした後で、ようやく一部だけを保存することを許された、巨大で冷静な屠殺場のようだった。
背後に立つゾル=リンが、ごく薄い笑みを滲ませた声で言った。
「銀海星へようこそ」
白石明は振り返らなかった。
目の前、あの人間味の欠片もない静かな銀光の奥で、ある高塔の外壁に、液体のような光が幾層にも流れているのが見えたからだ。その光は彼の胸の紋様と共鳴し、まともに見ていられないほどに眩しく脈打っていた。
天城琉璃はさらに遠方を見ていた。透明なカプセル群が銀白の長い回廊で連結されている。まるで、静かな記憶の保管庫が幾つも並んでいるようだった。
白石紀惠はまだ何ひとつ理解していなかった。
それでも、本能だけが告げていた。
ここは、真実を語るだけの場所ではない。
ここは、人も喰う。
銀色の風が高所を吹き抜け、音もなく都市全体を撫でていった。
そのとき遠くで、人影のようなものがこちらへ歩いてくるのが見えた。
その者の周囲では、あらゆる光がわずかに歪んでいた。
明と琉璃は思わず胸を震わせ、同時に問いかけた。
「……あれは」
ゾルは平然と答えた。
「ご心配なく。光橋の先にいるのは、我々の指導者です。あなた方を、少し遠くから見てみるつもりだっただけですよ」
果たして二人がもう一度そちらを見たときには、もうその人影は消えていた。
本当に、ただ「一目見た」だけだったかのように。
だが、その一目だけで、二人の背には冷や汗がびっしょりと浮いていた。
白石紀惠とゾル=リンだけは、何の影響も受けていないように見える。
ゾルは続けた。
「時間は貴重です。では、始めましょう」
そう言って彼は白石紀惠へ視線を向けた。
「白石紀惠女士は、どこからお聞きになりたいですか?」
「E-0が、いったい何なのか知りたい」
紀惠が口を開くと、周囲はかえっていっそう静まり返った。
外では、銀色の回廊の果てにある光が、ゆっくりと流れている。まるで無言の呼吸だ。遠くに並ぶ透明なカプセルは、墓標のように冷たかった。
ゾルは彼女を見つめ、わずかに頷いた。
「いいでしょう」
答えは軽かった。まるで本当に、ただ一つの問いに答えに来ただけであるかのように。
「ただし、白石紀惠女士。真実というものは、たいてい一つの答えではありません」
彼は微笑んだ。
「それは連なった幾つもの答えです――あなたが耐えられるとは限らない答えの、ね」
明が半歩前へ出た。声が冷える。
「勿体ぶるな。言え」
ここは長いあいだ悪夢の中心にあった場所だ。明は一秒たりともいたくなかった。
だがゾルは彼を見ず、淡々と言った。
「E-0は、一つの名前ではありません。
また、特定の誰か一人を指すものでもない。
それは計画の中で、『門を開ける者』に与えられた総称です」
白石紀惠の指先が、ぎゅっと強張った。
ゾルは気づかぬふうで、変わらぬ調子を保った。
「この計画は、あなたの世代に至るまで、すでに数十年続いていました。人類上層部が選別した親、人口管理システム、医療工程、そして十分に静かな隠蔽環境――それらを通じて、我々はどのような個体が『門』となる可能性を持つかを判定していたのです」
琉璃は彼を見つめる目を、さらに冷たくした。
「じゃあ、あの出生も、死亡も、選別も……」
「ええ」
ゾルは間髪入れずに応じた。
「完全な偶然ではありません。主に管理と隠蔽を容易にするためです」
そこでわずかに間を置き、最後の一言だけを、意図して紀惠に向ける。
「あなたの伴侶の死も含めて」
紀惠の顔から、さっと血の気が引いた。
「……何ですって?」
ようやくゾルは彼女へ向き直った。
「あなたはずっと、伴侶はたまたま『ランダム死』に選ばれただけだと思っていたのでしょう?」
紀惠の唇が震えた。
だが、声は出ない。
「残念ですが」とゾルは言った。
「あなた方にとってはランダムでも、システムにとっては、ただの合理的な情動刺激にすぎません」
明が激しく顔を上げた。
琉璃の瞳孔も、はっと収縮する。
三人の反応を見つめるゾルの表情には、なぜかほとんど穏やかとすら言える忍耐があった。
「我々は確認する必要がありました。母体が極端な情動変動の中でも胎児を守りきれるかどうかを。悲嘆、恐怖、錯乱、生存本能――それは『閾値』に最も近い状態です」
「母体が耐えられなければ、あるいは胎児が耐えられなければ、そのサンプル群は不適格。
両方が耐えきったなら、ようやく次の段階へ進む資格が得られる」
白石紀惠の呼吸が、一気に乱れた。
「それじゃあ……」
「彼は……運が悪かったから死んだんじゃ……」
「あなたが観察対象となる個体を身籠っていたからです」
ゾルは静かに言った。
白石紀惠は、真正面から平手打ちを食らったように、体をぐらりと揺らした。
十六年間抱えてきた痛みは、運命だと思っていた。
だが違った。
それは、運命ですらなかった。
ただ工程の一部だったのだ。
明は反射的に彼女を支えようと手を伸ばした。だが逆に、手首を強く掴まれる。その力は異様なほど強かった。何かを掴んでいなければ、自分自身がそのまま崩れ落ちてしまう――そんなふうだった。
それでもゾルは止まらない。




