表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/39

真相の痛み(1/3)

銀海星へ辿り着いたあと、白石紀惠は前方の光景を目にした、その最初の一瞬、息をすることさえ忘れた。


それは、彼女が想像していた異星の荒野ではなかった。

単に壮麗な文明母星、というものでもなかった。


そこにあったのは、ほとんど完全としか言いようのない銀色の都市だった。


塔は潮のように立ち並び、回廊と橋梁は縦横に走り、あらゆる建築物が、ひとつの冷たい金属塊からそのまま生え出したかのように見える。線は精確すぎて、ほとんど残酷だった。遠くには無数の淡銀色の光柱が垂直に立ち上がっている。灯台のようにも、祭柱のようにも見えた。さらにそのはるか上空には、巨大な環状構造体が静かに浮かんでいる。まるでこの星の頭上に刻まれた、沈黙の傷跡のようだった。


都市全体が、恐ろしいほど静かだった。


無人なのではない。

確かに人は動いている。稼働し、発光し、機能している。なのに、余分な音がひとつもない。誰もが自分の立つべき場所を知り、進むべき方向を知っているようで、立ち止まることにすら無駄がない。


ここは、あまりにも秩序立ちすぎていた。

故郷とは思えないほどに。


むしろ、あらゆるものを分類し、命名し、回収し尽くした後で、ようやく一部だけを保存することを許された、巨大で冷静な屠殺場のようだった。


背後に立つゾル=リンが、ごく薄い笑みを滲ませた声で言った。


「銀海星へようこそ」


白石明は振り返らなかった。


目の前、あの人間味の欠片もない静かな銀光の奥で、ある高塔の外壁に、液体のような光が幾層にも流れているのが見えたからだ。その光は彼の胸の紋様と共鳴し、まともに見ていられないほどに眩しく脈打っていた。


天城琉璃はさらに遠方を見ていた。透明なカプセル群が銀白の長い回廊で連結されている。まるで、静かな記憶の保管庫が幾つも並んでいるようだった。


白石紀惠はまだ何ひとつ理解していなかった。

それでも、本能だけが告げていた。


ここは、真実を語るだけの場所ではない。

ここは、人も喰う。


銀色の風が高所を吹き抜け、音もなく都市全体を撫でていった。


そのとき遠くで、人影のようなものがこちらへ歩いてくるのが見えた。

その者の周囲では、あらゆる光がわずかに歪んでいた。


明と琉璃は思わず胸を震わせ、同時に問いかけた。


「……あれは」


ゾルは平然と答えた。


「ご心配なく。光橋の先にいるのは、我々の指導者です。あなた方を、少し遠くから見てみるつもりだっただけですよ」


果たして二人がもう一度そちらを見たときには、もうその人影は消えていた。


本当に、ただ「一目見た」だけだったかのように。


だが、その一目だけで、二人の背には冷や汗がびっしょりと浮いていた。


白石紀惠とゾル=リンだけは、何の影響も受けていないように見える。


ゾルは続けた。


「時間は貴重です。では、始めましょう」


そう言って彼は白石紀惠へ視線を向けた。


「白石紀惠女士は、どこからお聞きになりたいですか?」


「E-0が、いったい何なのか知りたい」


紀惠が口を開くと、周囲はかえっていっそう静まり返った。


外では、銀色の回廊の果てにある光が、ゆっくりと流れている。まるで無言の呼吸だ。遠くに並ぶ透明なカプセルは、墓標のように冷たかった。


ゾルは彼女を見つめ、わずかに頷いた。


「いいでしょう」


答えは軽かった。まるで本当に、ただ一つの問いに答えに来ただけであるかのように。


「ただし、白石紀惠女士。真実というものは、たいてい一つの答えではありません」


彼は微笑んだ。


「それは連なった幾つもの答えです――あなたが耐えられるとは限らない答えの、ね」


明が半歩前へ出た。声が冷える。


「勿体ぶるな。言え」


ここは長いあいだ悪夢の中心にあった場所だ。明は一秒たりともいたくなかった。


だがゾルは彼を見ず、淡々と言った。


「E-0は、一つの名前ではありません。

また、特定の誰か一人を指すものでもない。

それは計画の中で、『門を開ける者』に与えられた総称です」


白石紀惠の指先が、ぎゅっと強張った。


ゾルは気づかぬふうで、変わらぬ調子を保った。


「この計画は、あなたの世代に至るまで、すでに数十年続いていました。人類上層部が選別した親、人口管理システム、医療工程、そして十分に静かな隠蔽環境――それらを通じて、我々はどのような個体が『ゲート』となる可能性を持つかを判定していたのです」


琉璃は彼を見つめる目を、さらに冷たくした。


「じゃあ、あの出生も、死亡も、選別も……」


「ええ」


ゾルは間髪入れずに応じた。


「完全な偶然ではありません。主に管理と隠蔽を容易にするためです」


そこでわずかに間を置き、最後の一言だけを、意図して紀惠に向ける。


「あなたの伴侶の死も含めて」


紀惠の顔から、さっと血の気が引いた。


「……何ですって?」


ようやくゾルは彼女へ向き直った。


「あなたはずっと、伴侶はたまたま『ランダム死』に選ばれただけだと思っていたのでしょう?」


紀惠の唇が震えた。

だが、声は出ない。


「残念ですが」とゾルは言った。

「あなた方にとってはランダムでも、システムにとっては、ただの合理的な情動刺激にすぎません」


明が激しく顔を上げた。

琉璃の瞳孔も、はっと収縮する。


三人の反応を見つめるゾルの表情には、なぜかほとんど穏やかとすら言える忍耐があった。


「我々は確認する必要がありました。母体が極端な情動変動の中でも胎児を守りきれるかどうかを。悲嘆、恐怖、錯乱、生存本能――それは『閾値』に最も近い状態です」


「母体が耐えられなければ、あるいは胎児が耐えられなければ、そのサンプル群は不適格。

両方が耐えきったなら、ようやく次の段階へ進む資格が得られる」


白石紀惠の呼吸が、一気に乱れた。


「それじゃあ……」


「彼は……運が悪かったから死んだんじゃ……」


「あなたが観察対象となる個体を身籠っていたからです」


ゾルは静かに言った。


白石紀惠は、真正面から平手打ちを食らったように、体をぐらりと揺らした。


十六年間抱えてきた痛みは、運命だと思っていた。

だが違った。


それは、運命ですらなかった。

ただ工程の一部だったのだ。


明は反射的に彼女を支えようと手を伸ばした。だが逆に、手首を強く掴まれる。その力は異様なほど強かった。何かを掴んでいなければ、自分自身がそのまま崩れ落ちてしまう――そんなふうだった。


それでもゾルは止まらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ