深夜の訪問者(3/3)
ゾルの話は、おそらく本当なのだろう。
だが、本当のことの外側に、どれほどの危険が隠れているのかまではわからない。
迷いの中で、最初に口を開いたのは紀惠だった。
「行きます」
明が勢いよく振り向く。
「母さん!」
紀惠は銀の門を見つめた。
目の底には確かに恐れがある。
だが、さっきよりもずっと揺らいでいなかった。
「真実を知りたいの」
彼女はゾルをまっすぐ見た。
声は静かだったが、思いのほか強かった。
「私のためじゃない。この子のために」
そして明へ視線を向ける。
その一瞥は、もう壁越しの微笑みではなかった。
十六年間ずっと痛みを飲み込んできた忍耐でもない。
それは、一人の母親の目だった。
前にあるのが深淵かもしれないと知りながら、それでも一歩前へ出て、自分の子を風雨から庇おうとする目だった。
「あなたが――今になってもなお、自分に何があったのか知らないままでいるなんて、私は許せない」
明は何か言おうとした。
だが紀惠は先に手を上げ、そっと彼の頬に触れた。
「この十六年、ずっと怖かった」
彼女は低く言う。
「また連れて行かれるんじゃないかって。目を離した瞬間、あなたがいなくなるんじゃないかって。……でも、もう怖がってばかりもいたくないの」
少し間を置き、彼女の目に、ごくかすかな、ほとんど見えないほどの笑みが差した。
「十六年前に守りきれなかったのなら、せめて今度こそ、真実を持ち帰らなくちゃ」
そして、言葉を継ぐ。
「たとえ最初のお前が何だったとしても。あの人たちがどんな番号をつけて、どう定義したとしても。お前は私の息子よ。そんなこと、誰が決めるかじゃない。私が決めるの」
その瞬間、明の目がついに赤くなる。
真実のせいではない。
恐怖のせいでもない。
こんなときでさえ、母が先に自分を掴んでくれたからだ。
見捨てられる空白の中へ落ちる前に、力ずくで引き戻してくれたからだ。
「俺も行く」
明はかすれた声で言った。
ゾルは、その答えを最初から知っていたかのように、微塵も表情を変えない。
「よいです」
「よくない」
不意に別の声が響いた。
天城琉璃だった。
彼女はここまでずっと黙って聞いていたが、そのとき初めて一歩前へ出て、明の隣に立った。
ゾルが彼女を見る。
琉璃の表情は淡い。
だが、いつにも増して、すでに鞘を払った刀のようだった。
「彼が行くなら、私も行く」
ゾルはわずかに眉を上げる。
「君はわかっているはずです。銀海星人の名は、そう簡単に与えられるものではない。生まれた時からそれを持っていた君は、それだけで十分に幸運だ」
「わかってる」
「それでも来ると?」
「行く」
返答はあまりに即答だった。
一瞬の躊躇すらない。
「この二人だけで入らせるつもりはない」
琉璃はそう言った。
ゾルは二秒ほど沈黙し、それからふっと笑った。
「実にいい」
彼は静かに言う。
「私はもともと、君たちが並んでそこに立つ姿を見てみたかった」
紀惠は、隣にいる二人の子どもを見た。
止めようと思ったが、すぐには言葉が見つからなかった。
一人は、自分が育てた子。
もう一人は、今夜になって初めて本当にこの家へ入ってきたような子。
なのに、なぜだろう。こちらにも妙な痛ましさを覚えてしまう。
この子もまた、ずっと誰かに押されるようにして生きてきたのではないか。
この子にもまた、心から帰れる場所など一度もなかったのではないか。
ゾルが手を上げる。
門の向こうの銀光が、さらに安定した。
「では、どうぞ」
誰もすぐには動かなかった。
明は振り返り、もう一度だけこの部屋を見た。
あの机。あの灯り。あの古い写真。
枯れかけながら、それでもまだ踏ん張っている鉢植え。
そして空気の中に残る、かすかな、人間の日常の匂い。
ここは小さすぎる。
あまりにも小さくて、何ひとつ収まりきらない。
それでも、ここには確かに、自分が“白石明”として生きた十六年が詰まっていた。
彼はようやく理解した。
帰るということは、どこか正しい場所へ戻ることじゃない。
本気で自分の名を呼んでくれた人のいる場所へ戻ることなのだ、と。
喉がひとつ上下する。
彼は紀惠を支え、低く言った。
「母さん、俺から離れないで」
紀惠はうなずいた。
琉璃は反対側へ回る。
ゾルは一歩退き、優雅に手を差し出した。
まるで客人を、丹念に用意した晩餐会へでも招き入れるかのように。
四人はついに、その門へ向かって歩き出した。




