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挿話109 本多小松(トンカイ軍将軍)

 2メートル以上もある、三面六臂さんめんろっぴの化け物が迫る。


 三浦何某(なにがし)とかいう巨体が、今やそんな化け物に化けてしまっている。

 異能スキルだ。

 自分の土を操る力。長尾景春の敗けるほど強くなる力。誾千代殿の雷の力。義父上(関羽)の力はまだ分からない。

 どれも何か力が強くなるとか、何かを操るとかそういうものだと思っていた。ここまで直接的に見た目が変わることなんて想像もしていなかった。

 それは認識の甘さ。戦いへの油断といってもいい。


「はっはー! どうだ、この俺様の素晴らしい力は!」


 3つの口が3つの声で吼える。

 果てしなく耳障り。粗暴で雑で品がなく、子供すぎる態度。信幸様の爪の垢を飲ませてあげたい。嘘。こんな男に信幸様のを飲ませるなんてもったいなさすぎる。てか私が飲みたい! 信幸様のものは私のもの。信幸様の全ては私のもの。信幸様は私で、私は信幸様。はっ。ってことは別に信幸様の爪の垢をじゃなくても、私の爪の垢はすなわち信幸様の爪の垢ということ!? なら自分のを飲めば……。


「こ、こいつ……なんで笑ってやがる……」


 はっ。いけない。

 思わず思考が大筒に乗って飛んで行ってしまっていた。


 うん。けどそれは真理な気がする。

 つまり信幸様は私と共にある。なら、こんな化け物に負けるはずがない。


 そう思うと体の硬さが消えた。化け物に対する恐怖もない。

 静かに薙刀を構える。そうやって対峙してみれば、相手の弱点もある程度丸わかりだ。


 まず体。2メートル以上の巨体に、6本もの腕があるのだから、とりあえず薙刀を振れば当たるようなもの。

 しかも顔が3つ。つまり当たる確率も3倍。てかあれってどうやって見えるのかしら。謎だわ。


「ふへへ、じゃあ……行くぜ!」


 三浦が鬼のような顔を浮かべ、こちらにその大きな足を踏み出して来る。意外に速い。

 ならまずは相手の左側。金砕棒かなさいぼうを持っていない方から攻める。そこから薙刀を繰り出せば、相手は素手。防御もできずに出血を強いることができる。


 けど――


「しゃらくせぇ!」


 三浦が激昂して吼える。

 いや、三浦の3つある左側の顔だけだ。こちらに振り向くことなく、肩越しに叫ぶのはどこか滑稽な見世物のように見える。

 けど何故そう叫んだか。それを証明する動作が次に来た。


 三浦は右手の一番上に持った金砕棒を、ひょいっと棒を扱うがごとく投げると、それを左手の一番上がキャッチ。その動きのまま、こちらに叩きつけてくる。


「っ!!」


 大きく一歩、飛びずさって回避。床が破壊され、その破片が比類するのを薙刀で叩き落す。

 なんて馬鹿力。それでも床にめり込んだ金砕棒。それが次の攻撃に移るには時間がかかる。ならそこへ踏み込んで――


「よぉらぁ!!」


 一気に金砕棒が引き抜かれ、下から上に振り上げた。

 腕一本では苦労するだろうその動作を、三浦は残った2本の腕を使うことで最速を可能にしていた。両手、いや3本の腕なら確かにこの金砕棒を自在に操れるだろう。


 だがそれは自分にとってはありがたくない事実。

 普通なら相手の横に立てば、正面を向かれない限り視界の半分を塞ぎ、片手での動作を強いることができる。だがこの化け物と化した三浦は、頭がこちらを向いているので死角はない。さらに3本の腕が自在に動くため、両腕以上の動きを可能としている。

 しかも体が横を向いているということは、攻撃できる面積が狭いということ。身体の大きさからこっちが有利と思った点が次々潰されていく。なんとも奇怪だ。


「おらおら、ちょこまか逃げるんじゃねぇぜ!」


 三浦が左足を横――私から見ればこちらに一歩踏み出して、2本の腕を繰り出す。それは私を捕縛するためのもので、普通なら薙刀で叩き斬ることが可能なものだ。

 でもそれは罠だ。

 私が三浦の2本の腕を斬ろうとすれば、即座に振りあげられた残り1本の腕が持つ金砕棒に叩き潰される。

 だから無防備な素手にもかかわらず、こちらから攻撃はできない。当然、捕まっても金砕棒が振ってくるので、なんとかその魔の手から逃げるしかない。


 まったく。なんてこと。最初は楽勝に思えたのが、ここまで脅威になるなんて。


「ちっ、うろちょろと!」


 舌打ちと共に、金砕棒を持たない2本の腕が動く。それは床に転がっていた岩の破片。私が三浦に対し叩きつけた土石の破片だ。


「おらよっ!」


 それを、まるで小石を投げるかのように無造作にこちらに放る。

 私の背丈ほどもある岩とも言える破片。それが飛んでくる。直撃すればタダじゃすまない。


「うっ!!」


 咄嗟に横っ飛び。すぐ横を岩が壁にぶつかって破砕した。


「まだまだぁ!」


 三浦のもう一本の腕から、さっきより少し小さいものの、自分の上半身を押しつぶすには十分な質量をもった岩が飛ぶ。


「っ!」


 重心が崩れて避けられない。


 咄嗟に異能スキルを使った。


 自分の目の前に岩の壁が出現して、飛来した岩とぶつかって破片を散らばせた。

 降り注ぐ破片を受け、ほほが出血したのを知る。


「がははっ! 馬鹿が、そうやって俺の弾を増やすだけで、命を縮めてるってことに気づかねぇのか!」


 得意そうに笑う三浦に、言いかえしてやりたいけど事実だけにどうしようもない。

 というか一歩も動かずに私を確実に殺しに来る。投擲は当たらずとも、私の動きを確実に削ぎにきている。動きが止まれば、あとは金砕棒で仕留めればいいということだろう。

 なんて怪力。本物の化け物か。


 どうする。

 こんな敵に。私、勝てるの……?

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