挿話99 三浦義意(ゼドラ皇帝親衛隊四天王)
子供のころから体は大きかった。
親父にも将来を嘱望され、兵の皆にも頼もしい目で見られていた。
現に伊勢のジジイとの戦いでは負けはなかった。最終的に城を奪われはしたものの、実際の戦闘で負けてない。
そう。どれだけ負けようが、俺は負けてなかった。正々堂々と戦えば負けるはずがないのだ。
現にこの世界においても同じだった。俺に勝てるやつはいない。
いや、数人はいたか。スパルタクスとかいうやつと、黄飛鴻とかいうジジイ。
そして白起。あの男は恐ろしい。殴り殺せるとは思うが、その前に何かをされるかという思いがする。
そして呂布、項羽。奴らとは手を合わせてみたかったと思う。
ったく。この世界に来てまた暴れられると思ったのに、俺の順位がどんどん下がって来ているように思えて嫌になる。
だからこそ、こんなところでどうということのない女1人を相手している場合じゃない。
「さっさと散れ」
金砕棒を振りかぶると、そのまま床から突き出た岩に、横なぎに叩きつけた。
軽い破壊音がして、破砕された岩が時雨のように飛ぶ。狙いは当然、1人俺に対する女に対して。
並みの男ならこれでつぶれる。むしろ何が起きたか分からないままに顔面を潰されてお陀仏だ。
だが、
「ふっ!」
飛来した岩石を、女が叩き落す。
あんな細い腕で、薙刀ごときでよくやる。
「少しはできるようだな」
金砕棒を一振りして前に出る。少しはできる。いいな。やはり戦は血沸き肉躍る闘争本能こそ本義。力と力がぶつかり合う戦いが俺の血を熱くさせる。
あの伊勢のジジイとかじゃない。太田道灌とかいう過去の遺物でもない。呂布や項羽に象徴される力こそ全ての世界。
それが俺たちの生きた時代だ。
それをこの貧弱そうな女が体現しているのかと思うと興味も沸く。
対する女も、無造作に前に出てきた。
度胸もいい。
互いの距離が縮まってくる。
7メートル、6、5、4――
止まった。
そこがギリギリの位置。こちらの攻撃が届く一歩外。対して相手はまだ1メートルは足りない。圧倒的俺に有利な位置。それを見切って相手も足を止めた。
それを知ってか、じろりと女が睨みつけてくる。下から睨みつける。生意気な女だ。
互いに得物の先は床に落としたまま。ここから振り上げて叩き落すには1つ余計な動作が必要。いや、それは必要ないのかもしれない。金砕棒は下からかちあげて天井に叩きつけられるし、薙刀は刃を返せば下から真っ二つだ。
つまりもうあと一歩で全てが決まる。そしてそれは俺に有利。たとえ薙刀が先に来ても、それを俺の金砕棒ははじき返す。
「どうした? その距離じゃあ届かないだろう?」
「あと一歩踏み込めば、先にそっちが届くでしょ」
「生意気にも間合いを読みやがって。なら俺から一方的にぶちのめす。それでいいな?」
「おあいにく様。この距離は私の距離よ」
「世迷いごと――」
馬鹿が。そんなことはありえない。
だから高をくくって鼻で笑おうとした瞬間だ。
女が薙刀の突先で地面を軽くたたく。
するとそこから絨毯が盛り上がり、さらに突き破り何かが飛び出してきた。その狙いは俺の顔面。その速度、質量。何かはまだ分からないが、間違いなく脅威。
「うぉお!?」
咄嗟に金砕棒を大きく振り上げ、飛び出して来るそれを叩き割った。割った!? 割れた!? なんだ。
いや、それ以前に距離だ。ここは距離を開けろと俺の勘が言っている。
だから後ろに2歩、3歩と飛んで下がる。
だが女は冷めた目でこちらを睨み、
「泰山伐鵬撃」
コンコン、と再び突先で床を叩く。すると今度は2つの盛り上がりが絨毯を突き破り飛び出してきた。理解した。
あの女の異能とかいうやつ。この世界にて、そういう特別な力を持っている奴が何人かいるのは知っていた。その内容がそれぞれ違うことも。
この女。どうやら地面から何かを飛ばす力を持っているらしい。いや、あの砕いた感触。そして飛散する物体。つまり――
「しゃらくさい!」
金砕棒を横に大きく叩きつけた。破壊音がして迫る2つの岩石は砕け散った。
そう。岩石だ。土石とも言うのかもしれない。とにかくそういった岩の塊を操っているらしいが、
「岩は岩。俺に砕けねぇもんじゃねぇな!」
「ちっ。馬鹿力が」
「あぁん? それは誉め言葉か!? つかこの異能、さっきの挨拶はてめぇか!」
「うるさい奴。さっさと倒れなさい」
「誰がやるかよ!」
そう。こんな人外の戦いでも俺は勝つ。
あの伊勢のクソジジイだろうが、今なら俺1人で勝てる。それほどの力を得たんだ。こんなところで負けるわけがない。
そう。だからこれからだ。
これから楽しむんだ。
俺のこの戦い。
その生き方。生き様。そのものが。




