挿話98 立花誾千代(キタカ国将軍)
敵の姿が消えた。
来る。とどめを刺しに。
けど見えない。いつ来るかもわからない。死が。どこからいつ。それがとても怖い。恐ろしい。その場にへたりこんで、命乞いをしたくもないる。
けどもう迷わない。
戦う。それが立花を継ぐ者としての戦い方。そして、友を守るための決意。
だから雷切を使う。
父上は雷を斬った。
対して自分は雷を落とす。
皮肉だと思った。
けど、父上が力を貸してくれている。いつでも父上は自分と共にある。そう思うと怖さも和らぐ。
それでも頭痛と両腕の痛みは引かない。
頭痛は異能の使い過ぎ。両腕はスパルタクスに斬られた跡。どちらにせよ長続きはしない。一気に決める。
そのために雷を集中して落とす。外から内へ。さらに自分の周囲1メートルのところにも。
敵が潜む空間を削り取る。それが最後の勝負。
「はぁぁぁぁぁ!!」
力を集中させる。雷の落下が密度を増す。
比例して頭に痛みが走る。ずきずきから、ガリガリ、そしてガンガンへ。頭を掻きむしって、骸骨を取り出したい。それほどに痛くて、不快でならなかった。
それでもこれが勝つための方策。乾坤一擲、艱難辛苦の一撃。
「ああああああ!!」
叫ぶ。腹に力を入れて。
来る。来る。来る!
どこから来るか見えない、絶対の死を体から吐き出すように声を力にして意識を保つ。
敵の姿は分からない。
けど分かるものはある。
来る。来る。来い。来い。来い来い来い――
「っ!!」
瞬間。何かを感じた。体がひっぱられるような。けど動かない。幻想か、あるいは錯覚か。それでもいい。何か引っ張られる感覚。それは先ほどの2回の攻撃を受けた時にも感じたもの。
それが相手の攻撃の予兆なら。そしてその方向が示す先に、敵がいるのなら。
「これで……」
引っ張られる方向。前。右。左。後ろ。いや、
「終わりっ!!」
顔を上げる。そこに銀があった。スパルタクス。その剣が鈍く光る。
だがその先。
スパルタクスの向こう。光があった。
来る。それが分かるから、歯を噛んで体に力を入れる。それで何が変わるか分からない。けど覚悟は決まる。自らを焼く、その覚悟が。
次の瞬間、全身を貫く衝撃が来た。
体がぶれて、全てを焼き焦がすような衝撃と熱さに、悲鳴を上げたくなる。
それでも耐えた。旦那なら、そうするだろうと思ったから。あの人にできて、私にできないわけない。そう思って歯が砕けるくらいに噛んで耐える。
「ぐっ、が!!」
上から悲鳴が聞こえた。
私に覆いかぶさるようにしていたから、直撃を受けたために被害はあっちの方が上だ。
勢いを無くしたスパルタクスの体は宙で失速し、そのまま私の左横にバタンと、受け身もなく倒れた。
その体は熱く焼けただれたようになっていて、びくびくと、細かく痙攣する体が、どこか作り物のように見えてならない。
「まさか……自ら、焼くとは……」
スパルタクスがうめき、目だけで睨みつけてくる。良かった。まだ生きてた。
自分を殺そうとした人間に対する感情ではないけど、なんとなくそう思ってしまっていた。
そう。私は自分に雷を落とした。
スパルタクスは私が雷を落とさない領域を掴んで、そこに潜んだ。さっきは目のまえだった。それを私は、限界ギリギリまで領域を狭めた。
私が立っている領域ほどにしか存在を許されない。
ならば相手はどうするか。私と同じ領域にいるか、あるいは頭上は、空中は存在できる。だから跳躍してくる。そう思った。
あとはそのタイミング。引っ張るような感覚があったから、それはある程度対策できた。とはいえギリギリだった。あとコンマ数秒遅れていたら脳天をかち割られただろうし、遅ければ雷が相手に当たらない。
だからそれのギリギリの、限界のところを見極めて、自分に雷を落とした。
相手が私の頭上にいて、そこに雷が落ちてくるわけだから、必然的にスパルタクスの体が盾代わりになったのは僥倖だったけど。まぁそれを言う必要はないでしょう。
「これでも、雷神の娘……。雷には、撃たれ慣れてる、わ」
「化け物め」
男はそうつぶやくと、睨みつけてくる視線が落ちた。起き上がる気配はない。
ふぅ。
ため息をつく。
なんとかなった。なんとか終わった。
大団円とばかりに満足する結果じゃなかったけど、これが自分の精一杯だとすれば、この結果は満足して受け入れるべきだろう。
それにしてもこの男は最後に勘違いしてる。
父上じゃないんだし、雷に打たれたら死ぬわよ。
私が受けたのは、父上の雷。怒声。さんざん叱られたからなぁ。
てか、その前にさ。
「化け物なんて失礼でしょ。こちとら可愛い女の子なんだから」




