第139話 戦国最強の娘と関東最強の男
もう理解が追い付かない。
この状況。この展開。
黄飛鴻にスパルタクス、板額御前。
拳法、剣闘、弓の名手ときて、最後は戦国時代前期の金砕棒の使い手にして猛将。
三浦義意。
その名は戦国時代が好きな人でも、一瞬首をかしげる名前だろう。
なぜならこの人物はかの織田信長が活躍した時代――から半世紀ほど遡った時代の人物だからだ。
しかも活躍したのはほんの一瞬。しかも負け戦というのだから全国に名前が響き渡ったわけでもない。
それでもこの男の武勇は計り知れない。
時代と場所が違えば、その武勇は小松の父、本多忠勝に勝るとも劣らぬ人物になっただろう。
身長は2メートルを超え、数センチもの鉄の鎧を着こんで自在に動き、自身の身長をはるかに超える金属製の金砕棒(一般に思い浮かべる鬼が持ってるとげとげのついた棒)を振り回し、数百人を1人で討ち取ったとされる、まさに地獄の悪鬼のような存在だ。
しかもそれがわずか20歳ごろの活躍というのだから、その超人ぶりは輪をかけてずば抜けている。
そんな超人だがさっきも言った通り時代と場所、そして相手が悪かった。
時代は関東騒乱の時代。そして場所は三浦半島周辺とそこまで大きな勢力ではないこと。
そして相手。
かの伊勢宗瑞、つまりのちの北条早雲。
彼がノリに乗ってた時期。というより死期を悟って三浦半島を支配していた三浦氏を絶対滅ぼすと心に決めていたのだから、そりゃ生半可な相手で勝てるわけがないというもの。
そんな北条早雲を手こずらせ、真っ向勝負ではなく三浦半島の先端まで追い詰められ、封じ込められた末の鬱憤を晴らすかの如く暴れまわった挙句の自刃。わずか20歳の男にしてはとんでもない人生だっただろう。
その破壊と殺戮の化身が、今ここにいる。
三浦義意は、伝説に聞く金砕棒らしきものを手にして立っている。長さは2メートル以上もあるが、彼の身長と同じくらいなのでそこまで大きくないように見えてしまう不思議。
ただその自然さが逆に恐ろしい。
今、小松のスキルによって、あの皇帝区画を塞いだ岩石の塊が部屋を直撃したというのに、彼は何もなかったかのように、すました顔でこちらを見てくる。
位置的に直撃だったはずだ。
なのに彼は傷1つ負っていない。というか岩石が彼を避けるように左右に別れているのがなんとも不自然。
まるで彼を避けたように、あるいは突き出た岩石を叩き潰して左右に分けたとか……? いや、まさかな、な。
「おい、いつまでつったってんだよ。てかあれか? お前ら、マジか? なんだよ、女ばっかじゃねぇか! くっそ、あのジジイ。俺を担ぎやがったな」
「女で悪いのか?」
三浦の独白に小松が食ってかかる。
「そりゃそうだろ。女だろ? 女が俺に勝てるわけねぇ」
さも当然に言い放つ三浦。
それに小松、ラス、そしてマシューがぴくりと反応した。
「それ、どういう意味だ?」
「聞き捨てならないかなー」
「……潰す」
相手のことを知ってか知らずか、というか知るわけもないからか、強気の反応をする3人。
「お、おい! 3人ともちょっと落ち着けって!」
「イリスちゃん。あんな女の子を馬鹿にするやつに、好き勝手させてらんないの」
ラス。お前はいつからそんな喧嘩っぱやく……。
「あの男は我が父と、今の義父殿の名誉を傷つけました。万死に値する」
ああ、本多忠勝に関羽か。そりゃ分からないでもないけどさ……。
「……とりあえず潰す」
マシュー! とりあえずってなに!?
「イリス」
この中で比較冷静な千代女が僕に判断を促してくる。
はぁ。分かってるよ、千代女。
「小松、ここは任せていいか?」
「任された」
そう言って小松が前に出る。ここで小松を足止めに出す。彼女にとっても苦難の道だろう。けど全体で勝ちを得るためには仕方ないと分かってくれた。それだけでも安堵が出る。
ラス、アイリーン、マシューにスキル持ちとやらせるわけにはいかない。そして残るは僕と千代女と小松だとするなら、小松が一番だ。千代女でも問題はなさそうだけど、最後に残った相手を考えると、ここで小松のカードを切っておきたかった。
そう、黄飛鴻に対抗できるとしたら僕、または千代女しかいない。
そして三浦を相手にできるのが千代女と小松だとするなら、千代女は後に置いて小松にここは任せるべきだ、という判断だ。
だが三浦は不満そうに顔をしかめ、
「あー? 女1人だ? んなつまんねーことやってんなよ。おら、全員でかかって来いよ? つか、こんなかにあれいるわけ? あの呂布とか項羽とかをボコったっての。はっ。女にやられるなんてざまぁねぇな。所詮伝説は伝説ってわけだな
本来なら聞き流すだけだった。
けど後半のを聞いて、反応せざるをえなかった。それほど、彼らとの死闘は安いものじゃないと。そこだけは胸を張って言えることだから。
それを汚したこの男には、容赦もなにも感じる必要もない。
そう、自分から分からせてやりたい。
そう、思ってしまった身体が動き出そうとして、それでももう小松に任せてしまった以上、なにより僕は先に進まなければいけないとなった以上は、手に力を入れ、歯噛みしながらもここは譲らないといけない。
「……小松」
「ああ、承知したよ」
そう、力を込めて頷く小松。
彼女もこれまでさんざん、あの男たちとの闘いを経験してきた。そして義父を通じて呂布とのことも。
だからきっとわかるはずだ。今の言葉。そこに許されざるものがあるということに。
「うん。“女ごときにボコられたっていう不名誉”を彼に与えてやって」
「分かってる」
小松は背負った薙刀を手で大きく回転させる。
そして薙刀を腰だめに構えると、大きく見得を切って三浦と対峙する。
「徳川家臣、本多平八郎が娘、稲。世間知らずのガキに、戦いの厳しさを教えてあ、げ、る」




