第129話 帝都潜入
日が暮れた。
僕たちは帝都の北門の傍にいた。
……なんで?
一緒にいるのは望月千代女、ラス、アイリーン、マシュー、立花誾千代、本多小松、新島八重。
そして皇帝ユーキョ・アカーシャ。
……ますますなんで?
そしてこのメンツで帝都に侵入します。
……なおさらなんで?
という感じなんだけど、言いだした本人がそう望んだのだからしょうがない。
『ゼドラ太守ゴーヨ。なぜ我が帝国に反旗を翻したのか。問いたださなければ、我が帝国に未来はない』
そう、この世界で一番偉い、それでいて若干10歳の皇帝がそれを望んだのだから気持ちは反対でも押しとどめることはできなかった。
現に潜入まではできる、という千代女の言葉も後押しになった。
当然、皇帝を1人で行かせるわけにはいかないので、護衛メンバーが選ばれる。
まずは潜入必要不可欠な千代女。
そして皇帝の現最側近であるラスとアイリーン。次いでマシュー。
ラスの同行には僕が猛反発したが、
『イリスちゃんも行くんでしょう? なら私も行く。死んでも行く』
という気迫のこもった言葉に押し切られた形になった。
これで6人。
潜入としては打倒な人数だが、いかんせん武力面で大きな不安が残る。
帝都内に敵兵は約2万。見つかれば10人足らずなんて鎧袖一触だが、広い帝都だ。一気に2万人に囲まれることはないだろう。それに真夜中の潜入だから現時点で起きている可能性も低い。
だからそれは天が落ちるのを憂えるのと同じで意味はない。
どちらかといえば、無事に帝都に潜入し、さらに王宮まで入り込んだ後。
ゼドラ太守のもとにたどり着くまでに護衛がいると見て良い。そうなった時にこのメンツだと不安だった。
そう、その護衛にイレギュラーがいる可能性は高い。
しかも軍を率いるタイプだったら白起が軍属にするだろうから、いるのは間違いなくタイマンの達人。格闘家とか剣豪とかその類、あのゴサ国で戦った河上彦斎みたいなタイプだ。
そうなった時に肝になるのはスキル。それを持たないラスたちでは荷が重い。
かといって何人いるか分からないイレギュラーを相手に連戦できるほど僕に残された時間はない。
というわけで各国から人員を募ったら、ほぼ全員が手を挙げた。
その理由を聞くと、
『ここにいてはつまらん。暴れられるならどこでもいい』
とは越後の軍神様。
……この人、こんな好戦的なのかよ。めちゃ失礼なルビ振っちゃったけど、最近、そうとしか思えない言動なんだよな……。
それにはほぼ全員が同意した。
ほぼ、というのは2人、残留を申し出たからだ。
『私には野蛮な殴り合いなど不要だ。私はこっちに残る』
『僕も同じだ。野蛮な斬り合いなど不要。こうして酒を飲んで都都逸でも唄っているのが性に合う。さて、ちょっと色町にでも……菊、痛い、痛い!! 分かった! 行かないから!』
とはスキピオと高杉さんの意見。まぁそりゃそうだよな武闘派じゃないし。てか高杉さん、あんたはそれでいいのか?
というわけで随行員は揉めに揉めた。
スキピオと高杉さん以外は行きたいと言っているが、そんなに人数は増やせない。
潜入というのだから10人20人と連れていくわけにもいかない。あと2,3人というのが現実なラインだろう。
そして結局は1つの基準で決めた。
各国の軍には1人の代表を残すこと。当然と言えば当然。
囲んでいるとはいえ、敵がいつ打って出るかは分からないのだ。だからそれぞれに警戒は必要だった。
これによって帝国軍の土方さん、ツァン軍の高杉さん、エティン軍のスキピオ、トンカイ軍の関羽、キタカ軍の上杉謙信は残留。謙信さんはめちゃくちゃふくれっ面してたけど……目が怖かった。
そして当然この人も。
『なんでぇ! あたし発案なのにぃ!』
そんなわけでイース軍のタヒラ姉さんも残留。
本来は僕が残ってもいいんだけど、潜入って言葉から一番遠いんだよな、姉さん。適材適所。
結果、選ばれたのはこの3人。
『ふっふ。ついに来たわね、私の時代が。イリスと旦那にいいとこ見せてあげるんだから』
ツンデレビリビリ娘、立花誾千代。
『父上(本多忠勝)の武を、義父上(徳川家康)様の徳を、そしてここの義父上(関羽)殿の義を、天下に知らしめましょう!』
なぜか関羽の養女となった、血筋最強、武も最強、本多小松。
『救ってくれた恩は返そう。そして散った河井殿らの無念を晴らすべく……白起を討つ』
幕末のジャンヌ・ダルクから一転、復讐に燃える“ならぬものはならぬ”銃使い新島八重。
本当は土方さんが欲しかったんだけどなぁ。あの人、タイマン強いだろうし。けど仕方ない。
これでも見ようによっては最強メンバー。
タイマンから広範囲戦までやってのける誾千代の雷。
自身超絶バフであの巴御前とも渡り合った本多小松の地。
遠距離に奇襲と用途無限、殺傷力最強の新島八重の銃。
そして変幻自在、幻惑困惑一対多の夢幻忍術、望月千代女の影。
これなら四天王とか出てきてもなんとかなりそうだ。
5人揃って四天王だったら困るけど。
そんなわけで潜入メンバーが決まり、各自準備のために1日置いて翌日の夜。ちょうど新月ということもあり、潜入決行の日となった。
そして僕らは2人1組(9人なので余るが、皇帝にはアイリーンとマシューが付いた)で分散しながら帝都に近づき、北門付近で合流した。
そこから入ろうというのは、やはり一番警備が薄いところだから。
南はこちらの軍が展開しているから警備は厚い。東西でもいいけど、東はこちらの援軍、西は敵の援軍が来る可能性も高く、それなりに警備の眼はある。
だが北はほぼないという。
というのも、北には何もないからだ。一応、港があるからそこから僕らがしたように船で乗りつけてくる可能性はあるが、それなら港に警備の眼を置けばいい。兵力の分散にはなるが、戦闘要員になりづらい数名を送るだけで事足りるので、北門に割く人員はそれほどなくていい。
だから北門は手薄と、千代女が当たりをつけていたのだ。
かといって見張りがゼロということはない。
だからそれを排除するのがまず最初の案件。
帝都は門の上に見張り台として突き出したテラス部分がある。帝都の攻防戦で、呂布に追われた僕が今は亡きジャンヌや琴さんに助けられた場所だ。
それは各門にあって、そこからなら門を破らなくても城内に入れる。
とはいえそこまで10メートル近い高さがあって、しかも登ろうとしても突き出した部分が“返し(反り立って登れないようにする)”になってそれも困難。
だから普通は攻城兵器を持ち出さなければ意味はない理屈。
普通なら。
全員が足音を忍ばせて城門の近くで合流。
テラス部分は火が焚かれて明るくなっている。見張りはいるようだが2,3人というところか。
ここから全力で走って、仮にテラスに登っても気づかれるのは間違いない。
だからそれを解決するまでここからは動けない。そしてそんなことは普通できない。
普通なら。
「小松殿」
「了解した」
千代女と小松が動いた。2人して城門を迂回するようにカーブを描いて走る。
突き出したテラス部分といっても、そこだけが出ていれば外から狙い撃ちされる。城門より突き出しているだけで、さらにその横を城壁がさらに突き出して左右を防御している。
つまり左右の接近には、テラスから身を乗り出さなければ見れない。
その死角を千代女は突いた。
死角となる城壁に到達すると、そのままテラスのほぼ真下に移動する。そこで2つの影が重なった。小松が膝立ちになって、千代女の足を支えたのだ。
そして渾身の力を込めて、小松が両手を頭上にあげる。
それによって加速を得た千代女は、宙を舞い、テラス部分に吸い込まれた。
その刹那、僕には見えた。
千代女の体が複数に増えるのを。
影分身のスキル。
それによって一気に見張りを制圧。当然、千代女のことだから一瞬のうちに音もなく命を奪ったのだろう。少し不憫に思うけど、ここで戦闘を終わらせなければもっと多くの人が血を流すことになる。
そんな戯言で自分自身を騙さないとやっていけない。
ともあれこれで帝都潜入の段取りがついた。
あとは……どこまでいくかだ。
切野蓮の残り寿命26日。




