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第128話 混迷の中に

「ねぇ、イリリ」


 周囲の喧騒が止まない中、タヒラ姉さんが話しかけてきた。


「なに?」


「これ、今どういう状況?」


「まぁ手詰まりというか、手詰まりすぎてもうなにやっていいのかって感じ」


「ふーん」


 姉さんが意味深に頬を吊り上げる。

 あ、なんか嫌な予感。


「じゃあ、ちょっと潜入してやっちゃわない?」


「なにが!?」


 唐突過ぎて意味が解らなかった。

 その“やっちゃう”というのは、何をやるのか。まさか“殺”の字を当てないよな!?


「てかそもそも潜入ってなに!?」


「え? そりゃ、イリリの部屋に夜這いするよりは簡単でしょ」


「全然意味わかんないんだけど」


「あ、お姉さま! それはずるいです、私もやります!」


「ラスはちょっと黙ってて!?」


 なんだろう。最近、僕の周囲のIQがどんどん下がってる気がする……。


 えぇと落ち着け。とりあえず思考を回せ。思考放棄は敗北への回廊だ。

 つまり? 我が姉はこう言いたいわけだ。


 帝都に侵入しちゃわない? 

 それで中のお偉いさんやっちゃわない?


 ……とりあえずやるは、あんま考えたくないから開いておこう。


 バカなの?


 我が姉は。


 いや、でもこれがベストなのか?


 いやいや。無理だろ。どう考えても。

 ここにいるのは野戦とか戦闘に向いてる人ばかり。潜入とかそういうのに向いてるのはいない。


「む、おい。イリス。潜入とは聞き捨てならんな」


 と、ボコられてたスキピオが耳ざとく聞きつけてきた。


「あー、いや。それは」


「ならんぞ。あちらは敵の巣窟だ。いかにお前らが強くてもどうにもならん。門を開けるにしても、さすがに相手も対策はしているはずだ。むざむざ捕まる可能性を考慮するならそんなことは推奨できん」


 御説ごもっとも。

 けど、さっきまでキスするとかなんとか騒いでた人間が、どうしてこうも真面目になれるかよ。


「ゼドラの太守、いや、今は皇帝名乗ってるやつもいるから、そいつを叩けりゃ早ぇんだけどな。さすがに無茶だろ」


 土方さんも同意してきた。


 いや、別に僕がやるとは言ってないんだけど。


 てかみんなして暗殺とかボコるとか物騒じゃない? 和平交渉とかそういう平和路線もありだろうに。


 けどまぁここで手をこまねいていて、僕に時間がないもの事実。


 それで早くケリがつくならいいけど、そもそもどうやって潜入するつもりだか。


 それを姉さんに伝えると、


「ふっふっふ。なにもあたしゃそこまで馬鹿でも無策でもないわ」


 あ、ちょっとは自覚あったんだ。


「でもそんなことを可能にするのは……そう、あたし――じゃなく、千代っちよ!」


「千代っち? ああ、千代女か。今、外に出てもらってるからいないぞ」


 武田の歩き巫女でもある千代女なら、潜入とかはお手の物だろうけど。いや、そもそもあの巨大な帝都に入り込むのとはまた勝手が違うだろうに。


 なのにタヒラ姉さんは、むしろこっちが変なことを言ってるように猜疑の目を向け、


「え、何言ってるのイリリ」


「なにが?」


「千代っちならそこにいるじゃん」


「いや、いないぞ」


「そこよ」


「どこ」


「イリリの後ろ」


「は!?」


 振り向いた。


 千代女がいた。


「うぉっ!!? びっくりした!!」


 なんで気づかなかった。気配を消してたのか?

 てかこの赤と白の巫女服でなんで誰も気づかなかったのか。


「私の出番」


 無表情にブイサインをしてくる千代女。いや、なんで。


「私の出番って……ってその前に、なんでここに!?」


「イリスが怪我した。飛んできた」


「だからって気配消すなよ!」


「大丈夫。寝てるときに寝室にも侵入したから」


「侵入するな!」


 え? 侵入してきた? それって部屋に? 僕が知らない間に? なにもされてないよな!?


「でも気づかれた」


「は? 誰に?」


「あたしよ!」


 姉さんかよ。さすが野生の勘というか。そうかそうか。じゃあ千代女が寝室に来ても無事だったわけか……寝室に、千代女、姉さん……。


「待て姉さん。なに人の寝室に潜り込んできやがった?」


「違うのよ! イリリが心配で、これはもう夜這よばっちゃおうってことで!」


「ってことでじゃない!」


 え、僕貞操の危機だった!? てか女同士!


「むむむ、さすがです。お姉さまは実行力と行動力は見習わなくては!」


「ラス見習うな!」


「ふっふっふ、ラスちゃん。戦いは常に流動的なのよ!」


「もう姉さんは黙っててくれないかな!!」


 また場がぐだぐだしてきた。本当にどうなるの、これ。


「違うのよ、イリリ。千代っちにも用があったのよ!」


「この期に及んでしらじらしい。千代女、姉さんの嘘に付き合わなくていいぞ」


「頼まれた」


「え? 本当?」


「ほら! 本当に用があったの! 頼み事したの!」


「頼み事って……どうせ僕の使用品を盗めとか、下着取ってこいとかそんな内容だろ。……してないよな?」


「はっ、その方法があったか」


「おい、クソ姉」


「ち、違うってー。今回は至極まとも! 大事な大事な用件!」


 今回はってなんだ、今回はって。


「…………千代女?」


「ん」


「何頼まれた?」


「人を連れて来てって」


「人?」


「ん。というわけで連れて来た」


 いや、連れて来たって誰だよ。


 そう思っていると、まるで測ったかのようなタイミングで幕が開いた。

 そこにいたのは2人の人物。少年と、その横にかしずくようにする僕らと同年代の少女。

 この中で一番年下にも関わらず、きちんとした礼服に身を包みおごそかに入って来た少年は明らかに誰よりも威厳を備えていた。

 武の威厳ではない。まつりごとの方向の威厳だ。

 それでいてこんな殺伐とした場にはふさわしくない神聖な空気を保つ人物。


 それは――


「へ、陛下!」


 土方さんが驚きに声をあげる。


 そこにはアカシャ帝国の幼帝にして亡命帝でもあるユーキョ・アカーシャ、その人がいた。


 そして彼はどこか覚悟を決めた顔でこう言った。


「話は聞いたぞ。吾輩が帝都に行こう」


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