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第127話 ぐだぐだ軍議の場で

「さて、では現状について整理してみよう」


 スキピオが帝都周辺の大きな地図をテーブルに広げ、各代表を集めてそう話を始めた。


 現状の整理とは言うけど、ここにいるだいたいの人は実際に見てきていることだから分かっていることばかりだ。

 ここ数日を、話しには聞いているけど詳細は分かってない僕や姉さんに説明するための時間だった。


 心苦しいとは思わない。僕もしっかり把握しておくべきことだからだ。

 それを皆も分かっている、いや、それ以上に何度でも正確な状況把握は戦いの命運を左右する。それを知ってるからこそ、何度でも説明を聞くのに批判はない。


「敵は帝都に籠っている。その数、およそ2万強。それがゼドラ軍の最後の軍事力だ」


 兵力を表す駒を帝都の位置に4つ並べる。1つ5千の計算だ。


「対するこちらは3万と5千ほど」


 その周囲に5千の駒を7つに分けて並べた。

 といっても帝都をぐるりと包囲するほどではない。下半分に1万ずつ3つに別れて並んでいるようなものだ。それもやや西寄りに集まって。


「とはいえ帝都を囲むほど兵力があるわけじゃない。だから部隊を3つに分けつつも、互いに掩護できる距離を保つ。西に寄っているのは、ゼドラ本国からの増援に備えるためだ。北が手薄なのは、イリスたちが民衆の信用を勝ち取ってくれたからな。それにその先は河だ。脱出できるはずもないから囲まんでいい」


 なるほど。一番重要なのはゼドラ軍が帝都から脱出しようとすること。それと西からの援軍。それを阻むための偏った配置ということだ。理にかなってる。


「でも帝都に攻めるにも兵力が足りねぇんだろ?」


「そうだ、ヒジカタ。強行するには敵の防備が硬すぎる。まったく、自分らで壊して自分らで修復するなんざ、よぅやる」


 半年ほど前。ゼドラ軍により破壊された帝都の城門は、今や再びその当時と同じように復元されている。そのことを言っているんだろう。


「つまり膠着だな」


 高杉さんがお手上げと言わんばかりに肩をすくめてみせる。


「でもでもー高杉様ー。このまま包囲すりゃ勝ち確じゃない? 増援が来ても、ボコればいいだけでしょ。うちには高杉様がいるんだから1万だろうが2万だろうが、10万だろうがボコれるでしょ!」


 いや、菊の高杉信仰はどこまで過大なんだ。


「そこだ、キクのお嬢ちゃん。実はこっちが有利ってのはとんでもないってことだ」


 とスキピオが大仰に言ってのけると、なんとこちらを見て、


「さて、敵に有利でこちらに不利な点があるか分かるか、イリス?」


 不意に振られて一瞬驚いたけど、それについては考えるまでもない。一番最初にヤバいな、と感じたことをそのまま言う。


「兵糧の問題、かな」


「さすがイリス。お主とは気が合うな」


 気が合う合わないの問題ないのか、と思うけど……。少し考えればわかることだし。


「相手は帝都という数万の人間を長い年月食わせていくだけの貯蓄がある。対してこちらは基本野営。隠し拠点があるといっても、そこを何度も往復するわけにはいかない。包囲を緩めれば、それこそ帝都の補給が再開される。だから我々はここを離れられない。それぞれ本国から補給が来ているだろうが、遠国からの補給は途切れがちで信頼を置けるかというと微妙だ。かといってここらは元は皇帝の土地。そこで略奪などもってのほか」


 そう、寄るべき土地。補給路の長さ。土地の特殊性。

 それらどれをとってもこちらにとってマイナスに働く。


「ゆえにわれらにはそれほど時間はない。だが強襲すればあの門だ。手痛い反撃を受ける可能性だってある」


 難しい問題だ。

 こちらが耐え抜くとして持久策を取るか。

 あるいは犠牲を覚悟して強硬策を取るか。


 いや、もう少し考えろ。

 そもそもの話だ。持久策を取るしても、僕には時間がない。あと1カ月を切った寿命。せめてゼドラ国だけでも。破壊による再生から生まれる新しい希望。それを見るまでは死んでも死にきれない。


 かといって、僕の都合で兵たちの命を軽んじて良いわけはない。

 ならどうするか。


 ……1つ、ある。


 けどそれを成すには、数多くの奇跡に近い難所を乗り越えないといけないわけで。


 その最初にして大きな関門。

 それを成すキーとなる人物は、幸いにしてすぐ近くにいる。


 千代女。

 今も、各地での諜報を取りまとめしている彼女がいれば成る。


 そう。帝都への侵入という策。


 けどその後は分からない。

 帝都は今や敵の巣窟だ。そこに単身乗り込んでどうするか。それはまだ分からない。それが一番の難所なんだけど……。


「――リス」


 ふと意識が知覚した。


「イリス!」


 ハッとする。自分の名前を呼ぶ声だ。

 視界が色を取り戻す。そしてはっきりとした意識に映ったのは、金髪のオッサン。その唇が近く――


「なにすんだ!」


「ぐほぁ!! な、殴ったなイリス!」


「そりゃ殴るわ! な、な、なにしようとした、スキピオ!!」


「いやー、なんかイリスが呆けているから。とりあえずキスでもしとけと」


「この年中発情色ボケオヤジ!!」


「てめぇ、なに抜け駆けしてんだ!」


 と、土方さんを筆頭に複数がよってたかってスキピオをどつく。場は煩雑というか、もうぐだぐだだった。

 いや、土方さん。抜け駆けってなにさ。


 はぁ。こんなんでいいのかな。一応、クライマックス間近の緊迫したシーンなはずなんだけど。

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