第109話 強襲戦
「敵襲!!」
言葉と共に走り出した。
その方向。東じゃない。北だ。
迂闊すぎた。敵は東から西に向かって来ているからといって、どうしてここにも愚直に東から来るだろう。
いや、そこらの凡将ならそうしただろう。だが相手は白起だ。そうそうセオリーは通じないと考えるべきだった。
「迎撃する、続け!」
近くにいた兵たちを呼び集めて北へ向かう。
相手が白起にせよ、呂布にせよ。この中で互角に戦えるのは僕しかいない。だからたとえどんなに不利でも僕が前に出るしかない。
一点、楽観を言えば敵の行軍スピード。
これまで陥としてきた街の速度的に、かなりの強行軍をしてきたに違いない。それを数万の軍勢で2,3日続けるのは不可能に近い。人間の足ならなおさらだ。
だからまず先行で来るのは騎兵。それも少数精鋭。
白起が軍全体の指揮をするというなら、その精鋭にいるはずがない。
いるとすれば1人。
陣の外に出た。そして見た。わずか数百メートルに近づいてきている敵の群れ。それは騎馬の部隊で、先頭に立つのは真紅の体毛を持つ巨馬。赤兎馬。つまり――
「イリスか!」
「呂布!!」
やっぱりそうか。くそ、最悪だ。ここに来て飛将降臨とか。
てか確か張遼と関羽と戦って怪我してなかったか? 化け物かよ。
とはいえ弱点も見える。ざっと見、呂布が率いているのは数百騎レベル。多くて1千ほど。やはり少数精鋭。ならばやりようはある。
呂布が来る。
勝とうとしなくていい。全力でもって相手の攻撃を防ぎきる!
「全軍、防御の陣を!」
「ふはは! 無駄なことを!」
方天画戟が来る。受けた。手が痺れて、ふとすれば赤煌をとり落としそうになる。落とせば致命的。ギリギリ軍神の力で攻撃をしのいでいる状態で武器を手放すなんてありえない。
だから歯を食いしばって、軍神の力を全開で耐える。笑いながら攻撃を繰り返す呂布の猛攻を。必死に。決死に。
僕は呂布に勝てない。
けどこの場。この状況においては、呂布を相手に勝てる。
呂布自身じゃない。呂布の率いる部隊に対して。
「撃てっ!!」
来た!
八重だ。鉄砲隊が間に合った。
激しい銃声と共にバタバタと馬から人が落ちる。馬が倒れる。
「ちっ、鉄砲か」
呂布が舌打ちして一歩下がる。そのついでとばかりに方天画戟の横なぎが来て、追撃は不可能。
「今日はこのへんにしておいてやる」
「いいのかい、ここで僕を殺さなくて」
吐き出したくなるような緊張感に、お腹に力を入れて答える。
安い挑発だ。けど、こうして強気でいかないと相手をつけあがらせる。
たった1千弱しかない呂布を、ここで討ち取るのはあるいは可能かもしれない。けど、味方の混乱した状態、何より志願兵が案の定というべきかまったく役に立っていないこと、それから僕の残り時間を考えるとここは去ってもらった方がありがたい。
「強がりはよせ」
「強がりじゃないさ。白起直々に僕を殺そうとした。その僕を放って逃げていいのかい?」
「……ふん、そう言って俺を引きずり込もうとしても無駄だ」
おいおい。こいつ本当に呂布か? 冷静すぎる。呂布なら挑発に乗るはずだろ。
いや、挑発に乗られたら困るんだって! 少し落ち着け、僕。
「第一、白起の事情など知るか。お前とは万全の状態でやりあいたい。こんなところでお前を討ってもつまらんな」
あー、そういう系か。林冲とかウェルキンゲトリクスと同じ戦闘狂ってことか。うん。一番似合ってるといえば似合ってる。
「だから俺がお前を見逃してやるんだ。決戦の場。そこで待っている」
「決戦の場?」
「決まってる。帝都だ。そこでお前らを待つ」
帝都。やはり白起はそこに退いて決着をつけようというのか。
帝都なら、こうやって後ろに回り込んでかき回すなんてことはできない。後ろにはもうゼドラ本国しかない。なによりローカーク門は出入り口が前か後ろかの2か所しかないが、帝都は4方向から出撃可能。
さらに言えば、僕らがローカーク門を突破したことで、今度は僕らが遠征軍となり背後を脅かされることになる。北の港を使ってツァン国領内から回り込んでもよし、南の門を大きく迂回するもよし。
つまり帝都を攻略するにあたってそれほど時間はかけられない。そしてそれは軍と軍の壮絶なぶつかり合いになる。
呂布が決戦の場というのもあながち間違っていない。
「じゃあな、イリス。俺が殺すまで、死ぬなよ」
それは漫画とかだとよくあるセリフだけど、呂布がそれを言うのは、またそれを実際に受けるのは何もかも違う。
それは激励の皮をかぶった呂布なりの挑戦状。いや、死刑宣告。
去っていく呂布らを追撃しようと盛る兵たちを抑えつつ、僕はすぐさま土方さんたちへ伝令を向けつつ、白起の軍がここを狙うことがないよう、陣の移動を決定した。
切野蓮の残り寿命65日。
※軍神と軍師スキルの発動により、2日のマイナス。




