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第107話 イリス旋風

 日が高くなっても、僕たちは移動を続けた。

 帝都を守る敵を撃破したことから、各段と動きやすさは増した。


 何より、各地で補給が受けられたのが大きい。

 旧帝国の村や町が僕たちに好意的になったのだ。


 それは僕たちがゼドラ軍2万を半日で完全に撃破したのが大きく、それは瞬時にして帝都周辺に事実として広まっていた。


 というのも僕が千代女に、


「帝都周辺を回って噂を流してくれ。アカシャ帝国の解放軍が2万のゼドラ軍を一撃で粉砕。増援が続々と来て、将来的に10万に達するって」


「承知!」


 という感じで噂を流させたからというのもある。

 もちろん10万もの兵力があるはずがない。けどそれを誰か1人でも真に受ければ真実になりうる。それで敵が少しでも及び腰になってくれれば万々歳だ。


 そんな感じで、ローカーク門からこちら。帝都周辺は一気にアカシャ帝国寄りの領域に変貌した。

 ローカーク門に向かう補給部隊の情報とかも自然に入って来るようになったし、そもそものゼドラ軍のまとまっている位置や、武具や食料を保管している食料基地の情報も入って来るから、断然こちらが有利だ。


 若干めんどくさいのが、「うちの村に来てゼドラ軍を追い払って」というもので、それが各地からかなりの量が届いている。

 彼らとしては死活問題で同情したくもなるけど、こちらからすれば余計な戦闘は控えたいというもの。そもそもが、その連中は帝都にいるゼドラ軍を追い払えば末端の兵も撃退できる。根を絶って葉を枯らすってやつだ。

 かといってその要望を簡単に蹴ってしまえば、せっかく協力してくれている旧帝都民の印象が悪くなる。チャンスを見て、という風に誤魔化してあしらうしかなかった。


 とりあえず目下の標的は敵の補給部隊と食料基地。

 それを狙い撃ちする。


 これについてはほぼ問題なかった。

 敵の進路と兵力が分かっていて、さらに優秀な人材がいないものだから待ち伏せし放題、奪い放題だった。

 3日ほどであげた戦果は、食料にして1万人の軍が3か月は籠城できる量、武器は2万人分のものを奪った。それらは帝都の各地に分配していき、武器は自分たちの古いものと取り換えた後は志願兵たちに配っていった。

 そんなことをしていけば、志願兵はどんどんと増えて2万人に達するほどになったほどだ。


 こうなればゼドラ国はうかつに手を出せない。

 その大半が素人兵といえど、その中核には2万のゼドラ軍を破った僕らがいる。しかも常に移動していて、旧帝都の地元の人たちの協力がなければ常に移動している僕らを補足できない。無闇に出撃すれば、奇襲を受けて大損害を受けるというくらいは、ゼドラの残った連中にも分かっているのだろう。

 本国からさらに援軍を呼び集めているという話が出ているが、それでもゼドラ本国から帝都への道はすでに敵地も同然。援軍が帝都に入ったとしても、立ち枯れるのを早めるだけだ。


 こうなればゼドラ軍の全軍撤退はもはや秒読み。

 あるいはゼドラの太守が降伏して、ゼドラ国が亡びるところまで可能性は全然ありえる。


 それは僕だけの感覚じゃなく、他の皆にも共有されているようで。


「イリスちゃん、凄いね! 皆がイリスちゃんを褒めてるよ!」


「イリス。なんか旧帝国民が盛り上がってる。ゼドラを倒せって。イリス、英雄になってる」


「イリス。ちょっと会津にいって薩長追い払わない? え、無理?」


 そうみんなに褒められ、おだてられ、持ち上げられて。


 どこか有頂天になっている感じもあった。

 浮かれすぎて舞い上がっている感じもあった。


 それでも戦いは何が起こるか分からない。

 完全に気を緩めていたつもりは僕はない。

 ゼドラ国の滅亡は視野にあるとはいえ、まだ確定された事象じゃないし、一歩間違えれば復活する自力はあるのだ。たとえば帝都に呼び寄せた大軍で一気にローラー作戦をやられればひとたまりもない。

 だからまだまだ予断はできない状態だと分かっていた。


 ――はずなのに。


 僕は甘く見ていたのか。


 僕は考えてなかったのか。


 なぜあの2人が動かないのか。


 なぜあの2人が黙っているのか。


 白起。

 そして呂布。


 僕は実感する。


 今更ながらに。

 改めて。


 その2人の圧倒的な力を。



切野蓮の残り寿命70日。

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