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第101話 軍師の決断

「例の作戦を実行に移したい」


 土方さんとスキピオを呼んでそう告げた。


「例の作戦っつーと、あれかイリス? 前に言ってた……」


「ああ、土方さん。このくだらないいくさを終わらせる。必殺の策だよ」


「ふん」


「ふぅむ……」


 僕の断定した言葉に、土方さんは鼻を鳴らし、スキピオは考え込むようにして黙った。


 僕の策。

 それは簡単な策だが、それを達成するためにはいくつかの難点解決が必要不可欠だった。そのいくつかが、昨日今日の戦いでクリアされるという、ちょっと皮肉な内容になったのでここぞとばかりに提案してみたのだ。


「一度、整理するか」


 そう言ってスキピオは机にある余分なものを払い落とす。残ったのは地図といくつかの木製の人形。その人形を的確に並べていく。


「今、我々がいるのはここ。4万ほどだ。そして敵はこのローカーク門で……3万くらいとしておくか」


 もう4万しかいないというべきか、まだ4万もいるとみるべきか。本当に多くの人が亡くなったものだ。


「負傷兵は後方に下げる。皇帝もだな」


「うん。もうこうなったらちょっと邪魔だね」


「言うねぇ、イリス」


「あ、いや。そういう意味じゃ……いや、あるけど。むしろここにいられて狙われるのは困るし」


「ああ、そうだな。敵の大将首を取る。これ以上ない逆転の一手だ。大将には引っ込んでてもらおう」


 土方さんがうんうんと感慨深そうに何度も頷く。新選組にそういう場面ってあったっけ? ま、いっか。


「ふむ。そしてここ、旧帝都にはゼドラの太守がいる」


 スキピオがローカーク門の向こう。旧帝都の位置に木の人形を置いた。


「つまりそいつを叩けば俺たちの勝ちってことだな、スキピオのおっさん」


「おっさんじゃないっつーにヒジカタ。だがそのためにはこのローカーク門が邪魔だ。大将級が負傷したといっても、あれだけの大きな門を盾にされれば、突破するのにかなりの犠牲が出る」


「そして怪我明けの呂布が出てきて壊滅って寸法だね」


 そう。これがゼドラ軍が優位な理由。

 たとえ野戦で負けたとしても、巨大な門を壁としてこちらを疲弊させ撃退できる。

 こちらには攻城兵器はあるみたいだけど、帝国一の城門とも言える巨大な壁にどれだけ通用するかは分からない。


 なら別方向から攻めればいいのか。

 旧帝都に至るまでにはここローカーク門の他に西と南にも似たようなものがあるという。だがもちろん西はゼドラ国に繋がるわけだからゼドラ軍が抑えているわけだし、仮に南に移動しようとしても、そのためには大きく回り込まないといけない。

 対するゼドラ軍は帝都の内側を移動するだけでいいから敵の方が先に到着する。しかも結局あっちも門があるのだから、守備兵がいれば突破は困難だろう。


 そうなると残るは1つ。

 北のイェロ河を遡って旧帝都の北から上陸する方法、つまり僕たちが特別派遣研修生として帝都に向かうのと同じルートを通ること。

 ルート的には最短で防備を固めようにも水際の全域をカバーできるほど敵に兵力があるわけじゃないから、これはかなり有力な侵攻方法だったりする。


 ただしこちらも問題はある。

 まず輸送の問題。川を遡るということは船が必要ということで、こちらの全軍を渡すほどの大船団はない。つまりある程度、兵数を絞っていかないとダメということ。

 ただ敵地のど真ん中に上陸する以上、あまりに少数だと囲まれて袋叩きにされて終わりだ。


 そして何より一番の問題が、制水権が敵側にあるということ。先日も戦った通り、クース国の水軍が通行を妨げていたわけで、それを突破するには兵力も、何より練度が足りなすぎた。

 その2点からこちらの進路も断念すべき。


 ――はずだった。


 過去形なのはその前提が覆ったからだ。


 その理由は当然、


「クースが寝返ったから、か」


「そう、土方さん。クース軍が壊滅して、その生き残りはこちらに味方してくれるって。だから制水権はこちらにある。クース軍を先頭に、川を遡って一気に旧帝都を突く」


「お前、正気か? ゼドラの頭がいるってことは、それなりに兵力もあるっつーことだ。1千や2千行っても意味はねぇぞ」


「けど、制水権を得ている状態なら、そこに敵がいるだけで相手は困るはず。旧帝都を落とせなくても、ローカーク門から兵を出すようになれば」


「ローカーク門の守備が薄くなる、か。お主、なかなか策士だのぅ」


 スキピオに褒められるとなんだかこそばゆい感じがするな。


「そう。ゼドラ軍がやや劣勢で、クース軍がこちらに味方に付いて、川から別動隊を出せるこの状況こそが一番チャンスなんだ」


「…………ふむ。だが、誰が行く?」


「おい、スキピオのおっさん。そんなの決まってるだろ。こいつは言い出したら頑固だからな」


「ああ、当然言い出しっぺの僕が行く。旧帝都の周辺は少しは詳しいし、機動力もある。それに、向こう側にはちょっと伝手つてがあってね」


「なるほど間諜を放っていたのか。ふむぅ。どう思う、ヒジカタ?」


「俺も行きたいところだが、岳飛から任された軍の指揮がある」


「お主が行けとは言わんわ。……ふむ」


 スキピオは顎に手を当てて考え込む。


 珍しく思い悩んでいるように思えるけど、敵地のど真ん中に出るという危険極まりない策に難色を示しているんだろう。それに昨日のように、彼の決断でまた誰かの命が失われるのを気にしているのかもしれない。

 そういう時に自らが動ければ楽だ。判断も責任も自分にあるから、それで何が起こっても自業自得になる。

 けどこの判断の後にはスキピオは何もできない。僕に全てを任せるしかない。だから悩む。逆に言えば、それこそが軍師としての責任というべきか。


 やがてスキピオは顔を上げると僕を見て、


「やってみるか……いや、やってくれるか。イリス」


 不安なのだろう。懇願するようにスキピオはそう問いかけてきた。


 だから僕は力強くうなずく。安心させるように。そして言う。


「任せて」



切野蓮の残り寿命80日。

 ※軍神と軍師スキルの発動により、25日のマイナス。

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