↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導師少女の研究院生活  作者: 直 一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/84

第083話 真実の耳と拒絶の響き

 己の制御下から、あまりにも簡単にほのかを奪われてしまったため、アジェライードは困惑の表情を浮かべていた。


 それが当然のことであったかのように、精霊魔法のみならず呪術によるフィードバックすらも起きていない。あまつさえ、アジェライードに抵抗する余地すら与えなかったのだ。


「……何をされた?」


 術式の消失した感触が残っている手をゆっくりと握りしめ、精霊の飛び去った方向を睨む。


 視線の先には、シャポーに助け起こされている三郎の姿があった。


(人族――それもクレタスの者――に、私を上回る精霊魔法の使い手がいるはずはない)


 アジェライードの視線は、魔導師の少女を護るように現れた者達へと向けられる。


「エルート族に解除されたか」


 アジェライードは、確信を滲ませた声で呟いた。


 白光する炎の壁を隔ててはいたが、エルート族の二人が上位精霊による精霊魔法を行使していたのを目にしていたからだ。


 現在も、出現させた上位精霊を顕現させ続けている所から、エルート族の中でも相当の手練れと考えられる。


「彼をあなどる声の響きが聴こえましたが、与名の盟友を舐めてはいけません。ほのかさんが戻って行った相手だと、頭では理解出来ているのでしょう」


 諭すようなシトスの声が、アジェライードの耳に届く。


「与名の盟友だと? 上位精霊を従える人族がいるわけがなかろう。人族に崇高と言わしめる種族も、敵ともなればあざむく言葉を吐くのだな」


 アジェライードは、睨みつける表情のまま言い返した。


「精霊を従えるという感覚が、そもそも間違いですね。それに、ほのかさんは上位精霊ではなく『始原精霊』ですよ。そして、我々エルート族は嘘を嫌います」


 シトスは、落ち着き払った調子で、間違いをひとつひとつ正す。


 子供の間違いを指摘するかの物言いに、アジェライードは苛立ちを覚えた。


戯言ざれごとを! 炎の上位精霊であることは、使役したゆえ知っている!」


 アジェライードは、冷静さを取り繕いつつも語気を強めた。


 呪術で縛っていたとはいえ、彼の精霊魔術師としての能力によって、ほのかに攻撃の命令を下していたのだ。支配下に置いていた精霊の属性を間違えるはずがない。


「あなたに引き出せたのが、ほのかさんの炎の力のみであったというだけです。いえ、炎の力しか使えなかったと言うのが正しいかもしれませんね」


「精霊ごときを使えなかった、だと?」


 ほのかに対し、能力が足りていなかったと告げたシトスの言葉に、アジェライードは己の中にある黒い感情を声に乗せてしまった。


 シトスは、眉をぴくりと寄せ、アジェライードの姿を見つめた。


「……敵だけではなく、精霊や味方、そのうえ貴方自身に対しても、憎悪――いえ拒絶に近い感情を?」


 複雑な感情を探るようなシトスの呟きに、アジェライードが我に返って冷静さを取り戻す。


(真実の耳か、厄介な)


 真実の耳とは、エルート族が持つ特殊な聴力を指して言う。


 彼らは、相手の微かな声色の変化や息遣いから、まるで心を読むかのように、感情や会話に含まれる偽りの響きを聞き分けることが出来るのだ。


 その能力から、エルート族は真実を見抜く種族だと人族の間で認識されており、嘘偽りを嫌う崇高な種族だとも言われている。


 シトスはエルート族の中にあって、特に優れた聴力を持ち合わせていた。


 これ以上、心底を晒すわけにはいかないと、アジェライードはシトスとのやり取りを大気の精霊魔法を使って遮断する。最終的に、許し難いと考えている全てを「消し去ろうとしている」など、現時点で悟られてはならないからだ。


 アジェライードは、攻撃を指示するため背後に控える別働隊を確認した。


 麾下きかの兵として選んだ者達だが、エルート族の戦士を前にして動揺の色を濃くしていた。


(我がロボリ含め東方の君主制国家群が、強い精霊信仰を持つゆえの弊害か)


 東の国々では、卓越した精霊の使い手であるエルート族を、尊敬すべき種族と見なしている節がある。精霊魔法を人族に伝えたのはエルート族だ、との認識を持っている国もあるほどだ。


 虚実を聞き分ける崇高な種族が、上位精霊を伴って立ちふさがっているのだから、別働隊の者達に不安を覚えさせたとしても仕方ないといえよう。


「エルート族であろうと、怨敵おんてきクレタスに懐柔かいじゅうされた者にすぎぬ」


 アジェライードは、別働隊の者達の動揺を吹き飛ばすように声を張る。


 己の役割を思い出したのか、兵等は表情を引き締めてアジェライードの次の命令を待つ。


「包囲戦! 精霊を召喚し敵の防御を崩せ」


 さすが直属の部隊というところか、隊列を乱すまでに至っていなかった別働隊は、トゥーム達三人を大きく囲うように移動すると精霊を押し出して攻撃を開始した。


 ほのかを再び呪詛で縛るため、アジェライードは生贄として奪ってきた命を、呪術によって黒い靄へと練り上げる。


(クレタスで起きた内乱の際、教会とエルート族が協力関係にあったとの情報は事実ということか)


 アジェライードは、修道の槍を構えているトゥームに視線を移し、心の中で呟くのだった。

次回投稿は9月6日(日曜日)の夜に予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。