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第069話 ピョラインとムプイム

 ピョラインとムプイムは、運動が得意でないのが一目でわかるランニングフォームで、カルバリの市街地を駆け抜けていた。


 ピョラインは上体を左右に大きく揺らせてしまっているし、その横のムプイムは髪の毛が上下に跳ねてしまうほど非効率な走り姿だった。


 だが、そんな妙な走り方ながらも、彼女らは体内魔力操作が並みの魔導師以上に上達しているため、住民の避難が済んでいる地区をものすごい速さで通り抜けて行く。


 魔導研究院を出てから休むことなく走り続けているが、ピョラインもムプイムも息を切らせている様子は無かった。


「まったくまったく、合流する場所が結構遠いよねぇ」


「ん。研究院に行く敵、迂回したから、さらに」


 南東で交戦している友軍までは、もう少しばかり距離がある。


 魔導研究院の入っている超総合庁舎サーペン塔に進行しているロボリの部隊を避けたがため、彼女らの道程は大回りとなってしまっているのだ。


 時間的にミシルパとウォーペアッザは、北側の軍と合流し戦闘に加わっている頃合いかもしれないなと、ピョラインは頭の片隅でふと考える。そして、自分もこれから戦線に加わるのだという実感がこみ上げた。


「戦争、戦争かぁ。平和な農業魔法の研究に明け暮れるはずだったのに、人に攻撃しなきゃいけなくなるなんてねぇ。いやだいやだ」


 呟いたピョラインだったが、自分の言葉に思い至るところが浮かび、ムプイムの横顔をちらりと見やった。


「ムプイムちゃんはさ、故郷というか先祖というか、自分のルーツである地方の国と戦うことになるけど大丈夫?」


 前に視線を戻したピョラインは、心にわいた疑問を口にする。


「ん、問題ない」


 ムプイムは、即座に答えて「魔導研究院が居場所。奪おうとする者、容赦なし!」と続け、ふんふんと息まいた。


「そっかそっか。頼もしいねぇ」


 笑顔で返すピョラインだったが、内心で(そうだよね。居場所を護るためなんだから、嫌がってる場合じゃなかったよねぇ)とムプイムの言葉に少しばかり背中を押された気持ちになるのだった。


 そんな会話を交わしながら猛スピードで爆走していると、ピョラインとムプイムのゲージへ同時に連絡が入る。


 ミシルパからの物で「ロボリ兵の中に紛れている隊長格の者達が、空間支配の精霊魔法を行使している」との情報提供であった。


「――って感じみたいだね。隊長を排除したら、味方の攻撃が可能になったのかぁ。『南側の敵軍が同じ状況とは限らないけども、情報として共有す』だってさぁ。感謝感謝」


 ゲージを確認しつつ、ピョラインは相も変わらぬのほほんとした口調でミシルパからのメッセージを読み上げた。


「ん、敵の隊長、倒してみる」


 ムプイムが親指を立てると、二人はこくりと頷き合った。


「そんでそんで、合流予定の建物は、ここかいなっと」


「間違いなし」


 急制動がごとく、ピョラインとムプイムはある建物の前でびたりと停止する。


 気付けば、戦いの喧騒が聞こえており、戦場が目の前であることが肌でも感じられる程になっていた。


「四階だったよね」


「ん」


 ピョラインが建物を見上げて確認すると、ムプイムも上を見ながら肯定の意を返した。


「ではでは、面倒だからここから上がっちゃおうかぁ」


 そう言うと、ピョラインは得意の魔法を一瞬で展開した。


 階の昇り降りが面倒だからと、魔導研究院内で移動するのに使っている滑り台の魔法だ。


「ご相伴、あずかる」


 すっと四階まで伸ばされた魔法の滑り台に、ムプイムも慣れた様子で腹から倒れ込む。すると、二人はズルズルと重力に逆らって滑らかに登って行った。


 四階の窓は閉ざされており、ピョラインとムプイムは顔だけ出して中を覗く。敵に占拠されている可能性も考慮して、慎重を期したのだ。


 室内には、カルバリ魔導師団の魔導師や、エルダジッタ部隊のローブを羽織った者らの動き回る背中があった。


「合流場所で間違いないねぇ」


「味方発見」


 小声で確認しあうと、ピョラインは窓をノックする。


「どわぁ!!」


 音に気付いたエルダジッタの指揮官が振り向き、大きなリアクションで驚きの声を上げた。


 夜を背景に、二つの少女の頭部が、ぬらりとした表情を浮かべて窓から覗いていたのだから仕方ない。


 ピョラインとムプイムは、驚かれたことに大変満足した顔をして、解錠してもらった窓から入っていくのだった。

次回投稿は5月10日(日曜日)の夜に予定しています。

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