第2章 その1
例の大木に登った俺は印を確認後、写真を撮ると何とはなしにそこからの風景を眺める。
子供の頃は友達ともっと上まで競って登ったものだ。夕焼けの街を見下ろすのが楽しかった。しかし今目の前に広がるのは、ミニチュアみたいな街の姿だった。
今年19歳になった。
何だか歳月の重みを感じた気がした。
右手の中の石をもて遊ぶ。
大木の元に落ちていた石だ。昨日刻印に使ったもので確定だろう。いきなり≪実体≫に戻った時に落としたのだ。
高さ約三メートルの枝の上。陰になっていて思いのほか涼しい。葉っぱの青々しい匂い。興奮しヒートアップした脳が冷却されていく感覚。
ふと青ちゅ〜さんを思い出す。今年40らしいおじさん。あの人はメジコンが大好きだし、≪幽体離脱≫のような経験もあるかもしれない。帰ったら聞いてみるか。
そういえば青ちゅ〜さんはよくタバコを吸っていたな。大木の上、涼しさと緑の香りの中吸うタバコは美味そうだ。
正直、タバコも酒もやったことがない。つでに女も。現法では18で大人だが、20歳にならないと出来ないことも結構ある。
我ながら、モラトリアムのような中途半端な年齢だ。
さて、帰って一休みしながら考察だ。
帰宅し荷物を放り投げると、ベッドに大の字に寝転んだ。
伸びと欠伸をしながら天井を見つめる。まるで、知らない天井のようだった。
≪幽体離脱≫は実在する――。
つまり少女レテも実在するのだろう。地元の子だろうか。≪転移≫出来るから地元とも限らないが。
いや、そもそもレテも≪転移≫可能なのだろうか。
あの≪幽体離脱≫の世界。精神世界のようなそれを≪幽界≫と呼ぶことにしよう。
物被法則が現実を支配しているように、≪幽界≫にもある程度の法則、ルールがあると俺は考えている。
実際、≪幽体離脱≫の本やら動画やらに出てくる体験談には、ある種のパターンのようなものがある。
例えば金縛り。≪幽体離脱≫の直前によく見られ、幻聴や振動などを伴うことも多い。事実俺の体験はまさにその通りだった。
急に≪実体≫に戻された話も聞いたことがないわけではない。
ただ全くの他人に出会うケースはレアなように思う。亡き家族や神や仏、オカルト界でよく出てくる小さなおじさんなどもあるといえばあるのだが。
取り敢えず関連動画でも漁って、自分と比較でもするか。何か見えてくるものや思い付きがあるかもしれない。
だがしかし、一番の気がかりというか心配は別にある。
俺はまた≪幽体離脱≫出来るのか――?




