EP・18 異能部見学
《神裂視点》
翌日、学校に行くと、なぜかクラス全体から視線を感じた。なんで…?
なんというか…クラス全体から憐れみや、驚きといった視線が注がれている気がする…?
天羽さんと朝、喋っている時にも、昨日は割り込んできた中山君がくる気配もない。
疑問を感じつつも、御玉先生が昨日の異形に関する説明をしてくれるので、それを聞く。
「皆さん、連絡です。昨日の一件があった事から、学院の結界レベルが引き上げられました。また、異形の掘った穴に関しては、別の結界で封じてあります。あと……」
歯切れ悪くそこで言葉を切り、先生がこちらを見る。
何かしたっけ、僕?そんな事を思っている内に先生は視線を全体に戻す。
「神裂君についてですが、本人からも症状は聞いているので伝えておきます。怪我等については全く問題ないそうなので、無茶はさせないで欲しいですが、普段通り接して上げてください。」
先生がそう言ったタイミングでクラス全体の空気が弛緩したように感じた。
なるほど、朝からの異様な視線はそういう事か。
納得がいったのは良いが…
御玉先生が以上、と言ってホームルームを終えた途端、クラスの面々から質問攻めをくらう。
そもそも人との会話に慣れてないのだ、質問の受け答えだけでいっぱいいっぱいになってしまう。
気づけば、さっきまで隣の席にいた天羽さんはいつの間にか姿を消しているし…
困り果てながらもどうにか答えを返し、教室がだいぶ落ち着いたところで、さっさと移動教室の準備をし、教室から退散する。
「ほんとにヤメテ……」
疲れ果てながら移動先の理科室に向かう、こういうの苦手なんだけど…
「お疲れだね、神裂君?」
この声は…
「天羽さん…見てたなら助けて欲しかったんだけど……」
「う〜ん、それでも良かったけど、それこそもっとすごい噂になるんじゃない?」
うっ、それもそうか…急に注目された奴を、転校生が手を引いて逃げる。
まあ確かに恋愛物でなら、ベタすぎるネタだしな…
変に解釈されようものならどんな噂が流れるかわかったもんじゃない。
「はぁ、なんだってこんな事に…」
「まぁまぁ、元気出して。理科室着いたよ?」
「そうだね…」
胃がキリキリする…ほんとやだ…
そんなことを思いながらも、授業は始まる。
その後、昼休みや授業間の休憩時間などで似たような状況に陥り、見事なくらいに地獄のような一日になったのである。
***
放課後になり、人のだいぶ減った教室。やっと静かになったので一息つく。
「ほんっっっとに疲れた…」
「神裂君、お疲れ様。」
「若干、面白がってるよね?」
「そ、そんな事ないよ〜?」
「嘘でしょ?」
「そんな、何を証拠に?」
いや天羽さん、そんなニヤニヤしながら言われても全くもって説得力ないぞ?
そんな会話をしていたところに、中山君が話しかけてくる。
「取り込み中のところ悪いんだが、二人ともちょっといいか?」
天羽さんと顔を見合わせ、振り返り聞く。
「あ、うん。えっと、何かな?」
まさか、今更昨日の事聞くんじゃないだろうな…
そんな思いがついつい顔に出ていたのか、中山君が苦笑しつつ否定する。
「あー、すまんすまん。昨日の事じゃねぇから安心してくれ。」
その言葉にホッとしつつ、要件を聞こうと先を促す。
「それじゃあ、何事?」
「ああ、前に異能部に入らないかって聞いたろ?」
「それがどうかしたの?」
天羽さんも身を乗り出し話に混ざる。
「ああ、せっかくだから、見学にきてもらおうと思ってさ。」
「なるほどね、天羽さんも来る?」
「あ…うん、もちろん‼︎」
少し歯切れが悪かったような気もするが天羽さんも肯定する。
「よし、じゃあ二人とも、ついてきてくれ。」
そう言って立ち上がる中山君に続き、立ち上がりつつ聞く。
「そういえば、異能部って活動場所どこなの?」
「それは着いてからのお楽しみってやつ?」
「そ、そう……」
天羽さんと顔を見合わせながら声を潜めて聞く。
「ああは言ってるけど、どうなんだろうね?」
「あはは、神裂君、そんな事言わない。」
そうは言っても、最近できたばかりの部だし、そんなしっかりした設備が有るとは思えないけど…
そんな事を考えながら先導する中山君に着いて行きしばらく立つと、学院校舎から少し離れたところにある別棟に着く。
「ここが…?」
さすがにああ言っていた天羽さんも若干引き気味だ。
「おうさ、と言ってもここの別棟自体はもう使われてねぇんだがよ。」
「やっぱりか。」
「神裂君、知ってたの?」
「いや、そうじゃないんだけど、本棟の方では異能部の部室を見かけなかったからね。」
「なるほどね、だったら先に行ってくれれば良いのに。」
「いや、それは中山君に悪いかと…」
「おーい、二人とも。早くこーい。」
そんな事を話しているうちにいつの間にか中に入っていた中山君に呼ばれる。
「中山君、ここ立ち入り禁止になってなかった?」
「いや、使用禁止ってだけだ。とはいえ、本命はここじゃねぇぞ。さて、ここでクイズだ、別棟には何があるでしょう?」
「ん〜、わかんないや、神裂君は?」
「そうだね…確か移設される前には図書館があったような…?」
「正解だ、よく知ってるな、神裂。」
「うん、前に現在の図書室に学院の歴史を調べに行った事があってね。課題じゃなかったっけ?」
「結構前の歴史の課題か、よく覚えてたな。神裂、ファインプレーだ。」
「神裂君、さすが‼︎」
「あはは、褒めても何も出ないけどね。それはそうと、その旧図書館をどうするの?まさかそこが部室、なんてことも無いんだろうに。」
「ま、そう言わず待ってな。」
そういうと中山君はブツブツ呟きながら旧図書館の中を歩き回っている。
「えっと、この本がここで、この棚だから…これか‼︎」
そう言い、中山君がなんて事ない普通の本を手にとる。
と、同時にその本が収まっていた本棚がズズッと重たい音を立てて横に動く。
「す、すごい…」
天羽さんがそう呟くのが聞こえる。
「まさか、エレベーターとはね、流石に驚いたよ…」
「だろだろ、着いてからのお楽しみってのはこういう事よ。」
すっごい得意げだな…が、確かに気持ちはわかる。少し古い、扉が鉄格子のタイプのエレベーターだ。移設後の図書館もそうだが、旧図書館も建築様式が古めなので、ロマンの塊みたいなものである。
「これはまた随分な仕掛けだね、そもそも本棚で隠されてるとか、秘密基地感あっていいね。」
「だよな〜、神裂、わかってるねぇ。」
そんなこんなでしばらく中山君とロマンについて熱く語り合ってしまう。
その後、話し終え、ようやくエレベーターに乗ったときに、蚊帳の外だった天羽さんから脇腹への肘打ちを食らったのは言うまでもない。
***
エレベーターに乗り、下へ降りる。地下体育館のような物があるのだろう。
そう思っていると、随分深くまで下がった感覚とともに草木の香りが鼻をつく。
いや、待て。草木?
エレベーターが止まる。
それと同時に、エレベーターの鉄格子の隙間から夕焼けのような光がさしてくる。
鉄格子が開き、目の前の景色が露わになり、絶句する。
乗ってきたエレベーターが壁面に埋め込まれているらしく、エレベーター側には壁がそそり立つのみだが、驚くべきはその反対側の景色だ。
「な、なんだこれ…」
「な、何これ…」
天羽さんと揃って同じことを口にする。
そりゃそうだろう。
目の前に広がる広大な森、そこを切り開く様に一本の道が通っている。要するに、目にする光景全てが大自然なのだから。
「やっぱ、そうなるよな〜」
中山君が、しみじみといった感じで頷いている。
「中山君、これは一体どういう事?」
「確かに、そもそもここ、地下なんだよね?なんで空が…」
「おお、待て待て。俺も詳しいことは知らんのよ、質問は顧問に頼むよ。」
急に僕達二人の質問の矛先を向けられ、焦った様子の中山君が言う。
「それは良いけど、そういえば顧問の先生は誰なの?」
「会えば分かる。二人とも良く知ってる人だと思うぜ。質問はそこまで取っといてくれ。」
「分かった。」
天羽さんも首肯を返し、中山君が歩き出す。先ほどから気になっていた一本道だ。
それについて行くとすぐに視界が開ける。
周りは森で囲われている広場?の様だ。いくつか道が伸びている。
道の始まりの所にある標識を見る限り、なんらかの施設があるらしいが、はっきりは見えない。
「ほぁ…すごい、ここは切り開かれてる?」
天羽さんの呟きが聞こえる。
と、同時にどこかの通路から戻ってきたのか、大人二人、学生ぐらいの背格好が一人、が現れる。
「おや、珍しいですね。新入部員さんですか?」
「あ?んだよ、患者が増えるだけじゃねぇか、めんどくせぇ。」
「ちょ、入鹿先生、部員少なくて困っているんですから、そんなこと言わないでくださいよ…」
「けっ、やーだね、ただでさえ俺今日頭痛ぇってのに。」
「入鹿先生、自業自得ですよ。」
「なんでおま…先生は大丈夫なんだよ?」
「おや、私の方が強いだけですよ。逆に入鹿先生が弱いだけです。実際昨日ベロンベロンでしたよ。」
「言いやがったなぁ〜⁉︎」
なんか痴話喧嘩みたいなのしてる…
おそらく天羽さんも同じ事を思ったのだろう。小声で耳打ちしてくる。
「なんか…意外だね…」
「うん、入鹿先生はともかく、御玉先生まで…」
「仲良しなんだね?」
そう言われるとそう見えなくもない。いや、そういう事にしておこう。
にしても、もう一人は舞赤さん…だよな?先生の喧嘩に挟まれて困り果ててるな…
「あの〜先生方…そろそろ…良いですかね?」
半ば呆れ気味の中山君が声をかける。
「え、えぇ、すいません。取り乱しましたね。」
「あ?あぁ、わり。」
こちらにがっつり喧嘩を見られていた二人が恥ずかしそうに答え、こちらに向き直る。
「えっと、それで、そこの二人は新入部員ですか?天羽さんと神裂君ですね。」
「おっ、オメェらか。」
ニヤッとした入鹿先生の視線から逃げるように僕の後ろに天羽さんが隠れながら言う。
「あの先生怖い…」
「な、なんで…?」
「なんでも‼︎」
よくわからないが昨日の今日で随分苦手意識があるらしいな…一体何されたんだ…?
でも、そうなると御玉先生達が顧問なのか?
と、二人の先生と舞赤さんと話していた中山君が振り返る。
「よし、二人ともこっち来てくれ。」
「わかった。」
「うん。」
中山君に呼ばれ、先生達の方に行こうとした…のだが。
「あの…天羽さん、服掴みながら背中に隠れないで、歩けない…」
「や!」
仕方がないのでずりずりと半ば引きずる様に先生達に近づく。
「お、やってるやってる。」
となぜかニヤニヤしている入鹿先生。
「入鹿先生、やめなさい。」
それをたしなめる御玉先生。
呆れる舞赤、中山ペア
なんか見慣れてきたな…
そんな事を思いながら、改めて先生たちに聞く。
「それで…結局異能部の顧問は先生方二人でいいんですか?それと、この空間はいったい…?」
「ふむ、その説明をする前に一つ。中山君から聞きましたが、今日は見学という事で大丈夫ですね?」
御玉先生に問い返され、天羽さんと共に頷く。
「ふむ、それではサクッと説明しちゃいましょうか。その後、実戦形式の指導試合の見学としましょうか。」
そう言って御玉先生は説明を始める。
「えー、ではまず顧問についてですね。顧問はさっき言ってくれた通り、私と入鹿先生が担当します。入鹿先生は戦闘指南の他、治療にも当たってくれます。」
「けっ、めんどくせぇから怪我すんなよ?あー気持ち悪い…」
紹介された入鹿先生が気だるげに言う、のだが…
青い顔して口元抑えてるけど…大丈夫なのか…?この先生本当に養護教諭だよね?
「はぁ、ともかく、顧問は我々二人ですね。で、次にこの空間についてですね。簡単に言ってしまえば、結界に近いですかね?」
「結界…ですか?」
天羽さんが困惑した表情で聞く。
それも当然だ、地下空間が丸ごと結界なんてことあり得るのか?そもそもそのレベルの結界を人間が創り出し、維持できるのかという点も疑問だ。
「ふむ、信じられないかもしれませんが、本当にこの空間は私と入鹿先生の異能で生成されてるんですよ。まず、私の『剣神』で打ち鍛えられた刀には特殊な力を持つ、妖刀と呼ばれるものが有ります。」
「妖刀…ですか。」
未だ怪訝そうな天羽さんが反復する。
「はい、そして、過去に私の打った刀の一つ、『[[rb: 八離幻界鏡刀>やつばなれげんかいきょうとう ]]』。そしてもう一刀、『[[rb: 滅地ノ太刀> めっちのたち]]』。詳細は省きますが、端的に言えば、空間の複製、転写を行う刀と空間を切り取り、消滅させる力を持った二刀でこの空間を作り出しました。」
聞くだけでもとてつもない力だ。そんな刀を打てるのか…『剣神』は一体どれだけの…
そう思っていたのは天羽さんも同じだったらしく神妙な面持ちで話を聞いていた。
と、そこに口を挟む者が一人。
「おい、御玉…先生。俺の異能のことも忘れないでくれよ?」
すごい、入鹿先生、ついさっきまで気持ち悪そうにしてたのにもう立ち直ってる…
異能で治療したのかな…?
「そうですね、そちらも話しておきますか。私の打った妖刀は先述した異質な力を持ちますが、成し得ないことが一つあるんです。」
「そうなんですか?それこそ、万能な異能な気がしてましたが…」
気になってつい質問してしまう。
「神裂君、いい質問です。確かにああして地形を書き換えたりできる訳ですが、唯一できない事。それは、生命の複製です。」
「生命の複製…?」
「はい、神裂君。要するに私は地形を書き換えても、そこに生きる動植物まで生み出せはしないんです。」
「そこで、俺の異能『海神』の出番ってわけだ。俺の異能は逆に生命を司る異能だからな。この空間には植物しか生み出してないが、動植物を作り出せるぜ。まぁ条件はいくつかあるけどな。」
「つまり、この空間の森とかは全部入鹿先生が…?」
未だ背中から離れてくれない天羽さんがおずおずと聞く。
「あぁ、そうなるな。一度生み出してしまえば後は普通の生き物と同じ方法で生きるし。動物も同じだ。」
「へ、へぇ……」
そんな会話の後、入鹿先生が天羽さんに問いかける。
「おい、天羽だったよな?なんか生き物欲しいのか?」
「え、いや…別に…」
「なんでもいいぞ?そうだな…ネコとかか?」
ニヤッとした顔で入鹿先生が言う。
「ひゃっ、な、なんでです…?」
またもおずおずと聞く天羽さん。
「ん、なんとなくそっちかと思ってな。逆の方か?あ、言っとくが人間の複製はできないからな?」
「そっちって……逆って……それに別に人の複製なんて頼みませんよっ‼︎」
なぜか真っ赤になりながら、早口で否定する天羽さんを見て入鹿先生がニヤニヤしているけど…
それになんでだろ、ネコの逆ならイヌじゃないのか…?
別人の複製だって、自我があるならわざわざ創っても仕方ないだろうに。
と、そのタイミングで御玉先生が口を挟む。
「入鹿先生、そこまでにしましょうか?さて、とりあえず疑問は解決できたでしょうし、まずは施設の見学から、行って見ましょうか?」
「はい、よろしくお願いします。」
「………」
天羽さんもコクコク頷きながらやっと離れてくれたので御玉先生について歩き始める。
その後ろで中山君達がホッとしたような、疲れたような顔してる…
多分入鹿先生だよな、原因……
入鹿先生はついて来ないということで安心したのか天羽さんも少しリラックスしたらしい。
「天羽さん、大丈夫だった?」
「なっ、何がかな?」
「いや、入鹿先生に話しかけられてたからさ?」
「別に私ネコじゃないからね⁉︎むしろタ……」
最後の方はうまく聞き取れなかったが、天羽さんが猫じゃないのは火を見るより明らかではないか⁇
疑問を感じはすれどこれ以上掘り下げるのは危ない、と本能が告げる…気がしたのでやめ、御玉先生の施設紹介に集中する。
訓練用の広場、狭い場所での訓練用の森林。更衣室、練習用の武器、訓練用人型模型や的、それを保管する倉庫、救急治療を行う為の小屋、滋養強壮効果のある温泉…温泉⁉︎
同じ事を思ったのだろう、天羽さんが質問する。
「先生、なんでこんな所に温泉が…?」
「滋養強壮効果があるので、万が一訓練で重傷を追っても大丈夫なようにですね。傷の治療速度が飛躍的に早まります。ちなみにこの温泉の元となった場所はとある山の最奥に位置するので、普通では入れない名湯ですよ。」
名湯、と聞いて天羽さんが目を輝かせている。風呂好きなのかな?
「へぇ……」
興味深そうに温泉を見ている天羽さんの肩をつつき、正気に戻す。
「ひゃっ、あ、ごめん…神裂君、ありがと!」
「うん、どういたしまして、そういえば先生、施設はこれで全部ですか?」
「うん、これで全施設の説明終了かな。上の旧図書館は設備の老朽化の観点から、覗くのはあまりお勧めできないし、新しい図書館には移されなかった、禁書と呼ばれる物もあるからね。何かをイジったりしないように。」
「禁書、ですか?どういったものがあるんですか?」
禁じられている以上、首を突っ込まない方が良いかも知れないが、気になる…
「う〜ん、一口にこういう奴、とは言えないかな。ただ、物によっては昔、生徒によって学校に持ち込まれて、没収された物とかもあるらしい。とはいえ、残念ながら教員にも詳細は伝えられていなくてね。」
なるほど…と言っても大体そういうのって男子が持ち込んでると相場が決まってる様な気がするけど…
中には本当に危ない物も有るだろうし、気を付けるに越した事はないか。
「それでは広場に戻りましょうかね。このあとは入鹿先生に実技の方、やってもらいましょう。」
「「はい、お願いします!」」
天羽さんと口を揃えて返事をし、御玉先生の後に続く。
温泉を見てからテンション高めだった天羽さんの顔が、入鹿先生の名を聞いて引きつってはいたが。
***
広場に戻るとすでに着替えを済ませた舞赤さん、中山君、そして普段通りの格好で気怠げな入鹿先生がいる。
「おい、御玉ァ‼︎なんで実技指導が俺なんだよ⁉︎」
な、なんか入鹿先生荒れてるな…
そんな事を考えているこちらの心中を察してか、舞赤さんが声をかけてくれる。
「ごめんなさいね、天羽さん、神裂さん。その…入鹿先生、あの性格ですから。ただ良い先生…ではあるので、ぜひ見学して行ってください。」
「は、はい…」
なんか…若干いい先生と言うの躊躇ったよね…?
と、ちょうど御玉先生が入鹿先生をなだめ終えたらしく、ぶすっとした入鹿先生が声をかけて来た。
「ほれ、舞赤、中山、やるぞ?」
「「はい、お願いします。」」
そう言って三人が広場の中央に向かう。あれ、ここでやるの?
そう思い、入鹿先生をなだめ終えた御玉先生が隣に来るので聞いてみる。
「先生、訓練場は使わないんですか?」
「あー、そうですね。本来ならそうなんですが、相手が入鹿先生ですからね。」
どういうことだろう?と、そこでまさかの天羽さんから補足説明が入る。
「神裂君、多分へーき。あの先生、養護教諭にしては、強すぎるし。」
「どういうこと?どうして分かるの?」
「えっと…私、目が良いからさ?」
誤魔化すようにはにかみながら、自身の目を指差し、見せてくれる。その目は黒色だったのだが、一瞬青く光ったような気がした。
決して目が良いだけとは思えないが、まあ天使の力?というやつかも知れない。
でもだとしたら、入鹿先生強いのか…正直普段からあんなんじゃ全くイメージがわかないけど…
「それでは、練習試合を始めます。双方、構え‼︎」
その言葉と共に、向かい合って構え合う入鹿先生と、舞赤、中山ペア。
「始めっ‼︎」
御玉先生の開始の合図と共に、入鹿先生の姿が消える。と、思った次には舞赤さんと中山君の二人が地に伏し、それを見下ろす形で入鹿先生が立っていた。
「ね、神裂君、言った通りでしょ。あの先生苦手だけど、強さだけは認められるよ。」
「言う通りだね…動きが全く見えなかった…そして確かにあれほど実力差があれば、周りへの被害無しで戦うこともできるか。」
道理で、わざわざ訓練場にも行かない訳だ。
驚愕しているこちらを他所に、入鹿先生が中山君達を見ている。
「おーい、お前ら情けないぞ〜。こんなんでへばるなよ〜。」
「そ、そりゃないですよ先生。がっつり本気出してましたよね?」
「そうですよ、仁の言う通り最初から全力でしたよね?全く見えませんでしたし、意識を保つのが限界です。大人気ないですよ。」
「あ?あれが全力な訳あるか。昔はあんな緩い技、当たらない様な奴がゴロゴロしてたぜ。」
「ほらほら、入鹿先生、そんな意地悪を言わない。二人ともだいぶ強くなりましたよ。入鹿先生が加減を知らないだけなので、気にしないでくださいね。」
そんな事を言いながら、御玉先生が中山君達にアドバイスをしている。
その様子を側から眺めつつ、天羽さんに話しかける。
「なんか、楽しそうだね。みんな笑い合えて、入鹿先生もあんなんだけど、なんだかんだ生徒思いみたいだし。」
「ね、楽しそう。入鹿先生が良い人かは論議がいる気もするけどね。」
お互い笑いながら、今もわちゃわちゃしている異能部の面々に近づく。
その後、先生や中山君達と話し、入部については一旦保留ということで、仮入部ということにして貰う。
中山君達はこのまま稽古を続けるらしいので、僕と天羽さんはこのまま帰宅する事になった。
見送り等については、この二人なら心配ないだろうという事でエレベーターの使い方を教わり、天羽さんとともに上の旧図書館に戻ってくる
「なんか…すごかったね。」
天羽さんが話しかけてくる。
「そうだね、なんか疲れたけど、ああいう活動が出来るのも楽しいだろうし、結構入りたくなってきたかも。」
「そっか……いいね。きっと楽しいよ。」
なんか…天羽さんの表情が一瞬曇ったかな?
「天羽さん、どうかした?」
「えっ、あ、ううん。なんでもない…そうだ!折角だしこの図書館、探検していかない?」
何か隠している様な気もするけど…早口だし…
「なんか隠してない?それに…まあ立ち入り禁止ではないから、校則違反ではないだろうけど…」
「べ、別になにも隠してないよ⁉︎さ、さあ、完全に暗くなる前にレッツゴー‼︎」
本人が話したくないなら仕方ないかな。そう思ってもついつい気にしてしまう。
どうにも何か隠されているような…考えてしまうが、仕方ないとも思ってしまう。
そもそも僕とは違い、天使という存在の彼女の悩みを理解できるのかは疑問だ。
でも何かあるのなら相談して欲しいのだけど…
追求は諦め、旧図書館の奥にズンズン入っていく天羽さんを追いかける。
旧図書館に何があるのかについては、僕も気になるしね。




