EP・17 夜風に包まれて
《天羽視点》
教室での一件のせいでついついぎこちないまま帰ってきてしまった。
困ったな…まぁ保健室で使った『再生ノ秘術』について話さなくて済んだからいいかな。
気づいてないみたいだし、わざわざ死にかけていたと伝える事もあるまい。
「さて、今日のご飯なんにしよう?」
帰ってきたのはいいが…昨日…というか今日の昼も神裂君にご馳走になっちゃったし、今回はなんかしら作らないとな。
どうしたものかな、よし、素人でも作れるものなんか調べてみよう!
そう思い、レシピを検索してみる。
「ふ〜ん、カレーね。」
カレーか、量も作れるだろうし、作っといて神裂君にあげようかな?
肉じゃがもらいまくってるしね。
あ、でも流石にカレー粉は無いか?いくらのルナ様でもねぇ……いや、あるんかい。なんで?
幾ら何でも任務の期間にカレー作るとは思わないでしょ…ルナ様?
まあいっか、作ってみよ。
慣れているわけでは無いので、手際は褒められるようなものでは無いかもだが、順調に野菜を切っていく。
肉を切り終え、鍋に移す。
火にかけると肉の焼けるいい薫りがする。
「結構いい感じかな?美味しそう…」
そのままに野菜を移し、軽く火を通した後、水を加える。
さて、この後は…?
カレー粉か、よし、これ入れてと…
最後にしっかりかき混ぜて火を消す。これで終わりのはずなんだけど…
「これでいいのかな…?」
よく考えてみると私カレー食べたことあったかな?
ま、いいや、さっきからカレーから漂うスパイスの香りが鼻をついて食欲が抑えきれない。
と、そこで一つ思いつく。
「よーし、こないだの仕返ししちゃおっと。」
スマホで、できあがったカレーの鍋の写真を撮り、神裂君のLINE宛に送りつけておく。
『神裂君、今日はカレーだよ〜‼︎』
写真と共に送ったメッセージに返信がくる。
相変わらず返信早いな、御飯時だしすぐには返ってこないかと思ってたのに。
そう思いながらも、すぐに返してくれるのは嬉しいのでメッセージを確認する。
『グッ、飯テロか…⁉︎』
『フハハ、その通りよ。前回のお返しじゃい‼︎』
『くっ、やられたぜ、今日こっちがコンビニ弁当なのをいいことに…』
『あれ、そうだったの?すいませんなぁ』
『ぐぬぬ…』
前回は見事にしてやられたから、やりかえせてよかった〜。
笑いを堪えながら皿にカレーを取って机に置く。
さて、食べよっと。
「いただきま〜す。」
初めて自分で作ったカレーを頬張り、驚く。
「おいひい〜」
ふふ、我ながら初めてで上手くできたものだ。ちょっと野菜が硬い気もするが。
「ま、まぁ気のせいだよね?」
野菜大きく切りすぎたかな…そんなことを考えながら食べ進める。
ふふ、これなら神裂君にも喜んでもら…って何考えてんだ、あくまで昨日と今日の昼のお礼、お礼だもん。
ふるふると頭を振る。最近どうにも神裂君のことを考えてしまう。
彼とこれ以上仲良くなったら、彼を、彼のいるこの世界を、私は殺せなくなってしまうだろう。
もちろん『喇叭』を使わずに済むならそれが一番だ。
でも、それはすなわち、彼を私達天界側の戦争に巻き込み、場合によっては「殺人」を強制する事だ。
自分より他人を優先する、いつも他人の心配ばかり。
そんな神裂君を、戦争に巻き込みたくなんかない。でもその道を選んだら、私はいずれ彼を殺すことになる。
「どうしたらいいんだろ…」
ついついため息を吐いてしまう。
カレーを食べ終えて、一息ついても悩みの暗雲は晴れない。
とはいえ、悩んでいても仕方ない。お風呂入ろっと。湯船にお湯貯めるのは面倒なのでシャワーだけでいいか。
脱衣所に着替えを持って行き、パパッと今着ている部屋着を脱ぐ。
そう言えば昨日は神裂君の家から戻ってすぐに寝ちゃったんだっけ、あれ、じゃあ今日の私、ニオイとか大丈夫だったかな…?
気にしても仕方ないとわかっていてもつい気になってしまう。
「し、仕方ないもんね、昨日は心傷領域使って疲れてたし?」
言い訳するように呟くものの、それをトリガーに膝枕してもらった記憶などなどが思い出され悶絶する羽目になった。
「うぅ恥ずかし…」
さっさと風呂に入ってしまおうと浴室に入り、扉を閉め、シャワーを出す。
少し熱いくらいの湯を浴びながら、『隠理ノ法』で見た目だけは普通の、『喇叭』を宿した腕を手でなぞる。
「『喇叭』なんて無かったら良かったのに。」
叶わない願いを口にしても虚しいだけ、そう思うことは何度もあった。
こんな呪われた力なんて無ければ、普通の女の子みたいに生活できたのかな。
なんて、何度も思ってきた。
「ダメだな、私。天界は今も戦時下、そんな状況で私がこんなでは、送り出してくれた天界に、ルナ様に顔向けできないよ。」
頭を洗い、体を洗い、風呂を上がっても気持ちは晴れない。
ふと、ベランダに目が止まる。何かを感じたわけでもない。
風呂上がりだし、夜風に当たろうかな。そう思い、ベランダに出る。
今日は満月だったのか、綺麗な月が夜空に浮かんでいる。涼しい夜風に私の髪がなびく。
「あれ、天羽さん?」
「えっ?神裂君?」
まさか呼びかける声があると思わず声が裏返った。
「うん、てなると、天羽さんも月見?」
「え、ううん、単に少し風にあたろうかと思って。そう言う神裂君はお月見なんだよね?」
「うん、別に特別な日とかでは無いんだけどね。昔、満月の日によく家族で月見をしててね。懐かしくて久しぶりに見ようと思ってさ。」
会話するうちにぎこちなさも収まり、不思議と安らぎに包まれる。
「そっか、ねぇ神裂君。一個聞いてもいい?」
「なにかな?」
この際だから、ずっと気になっている事を聞いてみる。
「……キミは、私が無理やり記憶をこじ開け、異能を元の姿に戻した、いや戻させた事を、恨んではないの?」
一瞬の沈黙。
やっぱり聞かない方が良かったかな…
前に進む覚悟をしたって、すぐに気持ちに整理がつくような事はないだろう。
逡巡していた時、神裂君から意外な言葉を伝えられる。
「いや、恨んでなんかないよ。」
「え…?」
「別に恨む要素ないと思うよ…?それにさ、今こうして月を見れているのは、天羽さんのおかげだよ。」
「そうなの…?」
「うん、これまではさ、正直家族での思い出だろうと関係無く、見たくなかったんだ。僕自身、昔の事は確かに思い出したくなかったんだと思う。」
「だったらどうして?」
「でも、同時に、思い出したくもあったんだと思うんだよ。親に起きた悲劇を忘れ、忘れたという事実に目を背けて見る月はどうも寂しげだった。まぁ、だから見たくなかったんだ。自分を重ねてしまうから。」
「それは…」
「だけど、記憶を思い出して、前に進む決意をして。改めて月を見ようと思った今日。家族でよく見た、温かい月がそこにあった。」
「そっか…でもそれは恨まない理由には…」
「恨むわけないよ、僕の記憶だけじゃなく、思い出まで取り戻してくれたんだから。」
力強く言い切る神裂君の言葉に、後悔や恨みの念は一片も感じられない。
「そっか、ありがとう。ごめんね、わざわざ聞いちゃって。」
「気にしないで、天羽さんは僕を救ってくれたんだし。それに…」
「それに…?」
「この状態じゃなきゃ、月が綺麗ですね、なんて言えないしね。」
笑いながら言う彼を見つつ問い返す。
「……?確かに綺麗だけど、それがどうかした?」
あれ、なんか神裂君が悶絶してる。なんで?
「あー、いや大丈夫、通じてないならいいや。」
「そうなの?よくわかんないけど…」
「あはは…」
なぜか力なく笑う神裂君を見てもまったくわからない、どゆこと??
と、そんなことを考えていると。
「へっぶしゅ‼︎」
くしゃみが…パジャマで夜風に当たり続けるのはよくないか。
「ちょ、天羽さん大丈夫?」
「平気平気、少し夜風に当たり過ぎたかも、そろそろ戻るね。」
「うん、風邪ひかないようにね。」
「大丈夫だよ、ありがとう。」
お礼を言い、部屋に戻る。
神裂君をどうすればいいか。
その問題は全く片付いていない。
だけど、話す前の暗雲は晴れ、不思議と、心はぬくもりに満ちていた。
それと同時に、ふと疑問に思い、神裂君が冗談めかして言っていた事の意味が気になり調べてみる。
「…………ふ~ん。」
その後、風邪以外で熱が上がったなんて事は無い。断じて無い。
それに伴い、冗談だとわかっていても眠れなかったとかも無い…無いもん‼︎




