EP・14 異形襲来
昼休みを終え、午後の授業が始まる。数学はあまり得意じゃない。とはいえちゃんと受けないとな…
ただ、数学の亀井先生、当ててくるんだよなぁ…
正直あまり発表はしたくないんだけど…
亀井先生はよくいるタイプの先生だ。つまり、
『よし、今日は二月四日だから、足して六、何となく割りたいから三で割って二番、と見せかけての十五番‼︎』
という先生だ。
「よーし、じゃあ今日は…そうだな、せっかく転校してきたし、四十番、天羽。答えてくれ〜」
げっ、まさかの指名…天羽さん可哀想に…と思いながら隣を見る。
ん…?
天羽さん…寝てないか?うとうとしてるだけ…?
どっちにしろまずいな、亀井先生そういうの怒るタイプではないけど…
「おーい、天羽〜?」
やばいやばい、起こさないと…
「天羽さん、起きて…?」
小声とともに先生に見えないように小突く。
「ふぁ?」
うとうとしていた天羽さんが目を擦りながらこっちを見る。
「天羽さん、これ、先生に言って‼︎」
「ん…?わかった」
天羽さんに答えを書いたメモを渡す。
「え〜と、この範囲の解は二個?」
「よーし、天羽、正解だ!」
ホッとしつつ座った天羽さんに声をかける。
「天羽さん、大丈夫?」
「ありがと〜、助かったよ。」
「それはいいけど、大丈夫?体調悪いなら保健室に…」
「あ、ううん、それは平気。ありがとね、気をつける!」
***
そのまま授業を終え、今日最後の授業、異能訓練に向かう。
天羽さん含め、女子は着替え場所が別の為、校庭で合流する。
異能訓練は担任が担うので、御玉先生の所に集合し、今日の内容を聞いていた時だった。
御玉先生が急に厳しい表情をする。
その瞬間、急に周りの空気が冷えた。他の生徒も異変を感じたらしく周りを見回している。
と、異能『神殺し』が刀として実体化した。
異能が勝手に実体化した…まさかこの寒気、いや殺気の正体は…異形…⁉︎
どこから…?刀の反応では細かい位置の割り出しができない…
いや、違う、そのレベルまで接近されている…⁉︎
だとしたらまずい、どこだ⁉︎
周りを見渡しても異形らしきものは視認できない…
「皆さん、下がって、校舎まで戻ります。周囲の警戒を…」
御玉先生が言いかけた瞬間だった、生徒たちの一部の立つ地面が揺れとともに大きく盛り上がる。
そこには天羽さんも立っていた。
盛り上がり始めたタイミングで、状況を察した天羽さんが他の生徒を押し除けたらしく、今は天羽さんのみがどんどん盛り上がる地面の上。
まずいな、神殺しが反応した以上、おそらくあれは異形によるものだ。
天羽さんの元に駆け寄る。彼女に向けて叫ぶ。
「天羽さん‼︎早く避けて‼︎」
その声に気づいた天羽さんが慌てる様子もなく。
微笑みながら、静止するように、手を振って。
口の形だけで言葉を返してくる。
『き、ちゃ、だ、め、だ、よ』
ああ、そんな顔で笑わないでくれ…それに……
―――もう、目の前で、命が、僕の手からこぼれるのは嫌なんだ‼︎
天羽さんの元に駆け寄り、そのまま抱きつくように体当たりする。
盛り上がり続ける地面から天羽さんを遠ざけた。
はずだった、僕は気づかなかった。
その時、地中から巨大な爪のようなものがちょうど土を押し除け、飛び出してきたことに。
「カハッ………」
腹に鈍い衝撃が走る。
痛みから頭が回らない、体に浮遊感がある。
「ウグッ……」
何か固いものにぶつかった。
なんだ…?校舎…?ずいぶん飛ばされ…たか…?
はや…く…戻ら……ない…と………
ここで僕の思考は途切れた。
《御玉視点》
何だ、この悪寒は?
生徒に今日の授業の内容説明をしていた時だ。
急に周りの温度が下がったのかと思うほどに、背筋に寒気が走る。
まさかとは思うが…異形…?
いや、仮にもここは、世界でも指折りの防御機構がある学院だ。そうそう破れるものではない。
が、私とて生徒の命を預かる身。自分の推測を過信する程、甘い考えを持つつもりは無い。
「皆さん、下がって、校舎まで戻ります。周囲の警戒を…」
そう言いかけた時、一部の生徒から悲鳴が上がった。
どうした、向こうか…?
声の聞こえた方向を向く。
すると生徒の立つ下の地面が随分盛り上がっている。
その真上には周りの生徒を押し除けたのか、天羽さんのみが立っている。
まずいな、どうにもおかしい。あの盛り上がり方…何かで突き上げてくるような…
どこかで……ああいう攻撃をする異形を見たような…?
いや、待てそんなことを考えている場合ではない。
ふと、先ほどの方を見やると、天羽さんの立っているところに神裂君が向かおうとしている。
まて、そうか、思い出した‼︎
あの土の盛り上がり方は、信じられないが、恐らく土竜型異形のもの‼︎
だが、だとするとまずい、私の思考が遅れたせいだ。天羽さんのみならず、神裂君まで巻き込むことに…
迷っている場合ではない、どうにか二人をあの位置から移動させねば。
一足先に天羽さんの元に辿り着いた神裂君が天羽さんを突き飛ばすようにして退けた、そのまま神裂君も避け切れる。
そう思った、走るスピードを落としてしまった。
甘かった、彼が盛り上がる地面の真上あたりに差し掛かったところで地面から大きな爪のようなものが勢いよく飛び出す。
勢いのついた“ソレ“は彼の腹部へ吸い込まれていき…
鈍い音と共に彼を校舎側に吹き飛ばした。
生徒から悲鳴が上がる、校舎の壁に打ち付けられた神裂君はそのまま動かない。
ああ、私のせいだ。
あの時走るのをやめなければ、いや、走っていても間に合わなかった、そもそも私の判断が遅れたのが原因だ。
「全員、下がれ。」
全生徒に聞こえるよう大声で伝える、幸い突き飛ばされた天羽さんは大きな怪我も無いようで、吹き飛ばされた神裂君のもとへ駆け寄っている。
他の生徒も皆、無事だ。
だが、
「これより、異形の処分を開始する、誰も手出しは無用。監督不行届の俺の責任だからな。あと、神裂君を保健室へ」
「わ、わかりました。」
動揺した感じの天羽さんの声が返ってくる。
それと同時に、腰の四本の短剣を引き抜き、異形の四方の地面に飛ばす。
「『神刀結界陣・桜花』」
異形を囲うように正方形の結界が生成される。
さて、主武器とできるのは今日の授業で使おうとしていた木刀だけだ。
先ほどの結界刀のような俺自身で打った刀はもう手持ちに無い。
「それだけで充分だ、『刀剣強化・一』」
そう呟き、握った木刀に力を込める。
私の異能『剣神』、様々な刀が打て、扱う刀剣の能力を引き出す。刀剣を扱うものの至上とも言える異能。昔は嫌いだったこの異能だが今は感謝だな。
「おかげで、一瞬にして、貴様を屠れる。」
木刀を居合術の様に構え、踏み込みながら振り抜く。
強化された木刀が、結界から出ようともがく異形を結界ごと切り裂く。
その上半分を結界諸共吹き飛ばす。
俺の生徒を襲ったことをせいぜいあの世で悔いるんだな。
「グギィエーーーーー‼︎」
なき別れになり、吹き飛ばされたのは下半身だったらしく、断末魔をあげる。
消滅したのを確認してから結界刀を回収する。
よし、あとは神裂君が無事であれば良いが…
生徒たちの待機している方に戻る。
「皆さん、大丈夫でしたか?すいません、私が気づかないばかりに…」
生徒からすれば、安全だと思っていた学院内に異形が入り込んだのだ。その恐怖は計り知れないだろう。
そもそも、対異形戦闘の訓練カリキュラムは、最高学年の四年生からだ。
戦い方すらわからない相手との戦闘行為は対人訓練以上の怖さがある。
大丈夫だろうか、トラウマになっていないだろうか。
そんなことを思っていたのだが…
「先生、すげーな!」
中山君からそんな声が聞こえる。と、次の瞬間にはたくさんの生徒が口ぐちに感謝を伝えてくれる。
「え、皆さん怖かったりとかは…?」
そう聞くと一斉に「え?」と言う表情をされてしまう。
「確かに、怖かったですけど…実際、神裂が結構な勢いで吹っ飛ばされたし…ただ、先生がついててくれるわけですし、そこまででも…なあ?みんな?」
「むしろ、先生の方が怖かったですよ?急に声低くなるし、木刀なのに異形を切った上吹き飛ばしてるし。」
「舞赤さん、手厳しい…」
クラス全体が少し和んだ。とはいえ怪我人が出ているのは事実だ。
「と、ともかく、トラウマとかになってなくてよかったです、では教室に戻りましょう。舞赤さん、中山君、私はこのあと神裂君の様子を見にいきますので、帰りのホームルームお願いしますね。」
「「はい、わかりました‼︎」」
二人が返事と共に他の生徒たちを教室に誘導してくれる。
その後ろ姿を見送りながら、つい涙をこぼしてしまう。あの子達は強い。そんな子達が、あれほど信頼してくれるとは。
異形の大規模掃討戦が終わってから、教師になって本当に良かったと思う。
あの時にはたくさんの命を取りこぼしてしまった。
俺は…いや私は、これ以上未来ある命を取りこぼすつもりは無い。




