EP・10 痛みを超えて
《神裂視点》
僕の人生最悪の日は、唐突に、無慈悲に訪れた。
その日は僕の誕生日。両親がお祝いの準備をしてくれていた時だった。
轟音が鳴り響き、同時に家の半分ほどが消し飛ぶ。父はそれに巻き込まれ、死んだ。
何が起きたのか、何も理解できない、真っ白の頭で咄嗟に思い出した。
……そうだ、母さん、母さんはどこ?
…そうか、キッチン、さっきまで料理してたんだ、キッチン方面は損壊が少ないからきっと…
縋る思いでキッチンに続く所の暖簾をくぐる。僕自身が母を殺すとも知らず。
「母さん‼︎」
やっとの思いで母に駆け寄ろうとした。その時だ。
崩れ、空の見える部分から雨のように、人間の指ほどもある太さの針が降る。
これに気づいていたら、あるい母に駆け寄ろうとしなければ、母の体を、あの雨が、紅く濡らすことも無かったのだろう。
飛来する針から僕を庇い、その身に多量の針を受け、倒れる母。
「凪…こっちにきて……」
「母さん、母さん⁉」
「凪………、よく聞きなさい、これから、どれだけ辛く、苦しいことがあっても……自分の運命を呪わないで…仲間を、友達をつくって、楽しく…生きて…」
どんどん冷たくなっていく母に抱かれ、この言葉を聞きながら悟る。
ああ、もう母にも、父にも会えないのだと。幸せな時間は戻らないのだと。
僕が叫んでいたのか、怪物の叫び声かわからない。
頭に響く叫び声が静まった頃、もう一度僕が周りを見た時には、襲ってきた異形の切り刻まれた死骸と煌々と輝く刀一振りが残るのみだった。
***
しばらくして、救助隊が救援に来る。唯一生き残った僕は救出され、政府が異形により、身寄りをなくした子ども向けに運営する生活支援施設に入った。
そんな施設でも、救出時に返り血で塗れていた子など他にいるはずもなく。
僕は人との関わりを避け続けた。
しばらくして、事件の詳細を伝えられる。
両親は共に死亡。母は穴だらけ、父の遺体は行方不明。その原因が怪物、もとい異形。
その異形を殺したのが君の異能だ、と告げられた時点で気持ち悪くなった僕は職員の制止を振り解きトイレに駆け込み吐く。
なぜ、あんな化け物が、こんな殺す為の異能があるのかわからない。人類の異能使用者はその数を増やし、異形の掃討を目標にしている。
まともには思えなかった。少なくとも僕は異能も、異形も忘れて、何事もなく生活がしたかった。
そんな中、施設にいた子で唯一、僕に何も気にせず接してくれた天心という少女がいた。
「君、面白い子だね。いいよ、僕が助けてあげる。」
最初にそう声を掛けられ、施設にいる頃には行動を共にしていた。そんな彼女は記憶操作の異能を持つそうで、施設を出る前に記憶を封印してもらう事にした。
悲しい記憶を拒んでも、心は晴れなかった。
だが、それでも、学校に通い、普通に生活できた。そう思っていた。
違う、普通に生活できるはずがない。誰もが異能を持つ世界で、異能を拒絶し、見て見ぬ振りなどできなかった。
それでも僕は、拒絶を選んだのだ。
明けない悲しみの代わりに。




