第9話 アラフィフ介護士 魔石に驚く。
魔石を手に入れた経緯には、俺のスキルが深く関わっていた。
ゴブリンの耳を切り落とし、いわゆる「収納魔法」がかかった小物入れに収めていたキョウカさんの後をついていた時、ふと自分の手足が返り血で真っ赤に染まっているのに気がついた。
気味が悪くて何とか拭き取りたかったが、手元には何もない。どうするか悩んだ末、ふと思い出したのが介護スキルの一つ「清拭」だった。
軽い気持ちでそれを発動してみると、確かに手の血は綺麗さっぱり消えたのだが、代わりに赤い小石のような塊が数粒、手のひらに残った。
何だこりゃ?とキョウカさんに尋ねると、「え~?な~に~?」と中腰のまま振り返り、大きなヒップがまず反応したかのように見えた。
キョウカさんは手の中をのぞき込むと「やだ、ちょっと来て!」と俺の手を引き、コッズさんの元へ連れて行った。柔らかい手にしては、驚くほどの力だった。
車椅子で俺たちを見ていたコッズさんは、ただならぬ雰囲気に戸惑いながらも事情を聞き、小石をじっと見つめる。手に取り、目の前で何度も近づけたり遠ざけたりした後、
「こりゃあ、すごい!間違いなく魔石じゃ!小粒だけど、純度が桁違いじゃぞ!」と目を丸くして言った。
出所を聞かれたら面倒だと思い、ゴブリンの遺体のそばにあったと誤魔化す。
だが気になって、魔石について詳しく聞いてみた。
魔石は、それ単体では力を持たないが、加工することで魔術師なら魔力、戦士なら攻撃力、その他身体能力全般を底上げできるという。魔力と呪文を組み合わせれば、さまざまな動力源としても応用可能らしい。
人工的に生成はできず、ごく限られた鉱山や魔物の体内でしか採取できない貴重品で、価値も非常に高い。
俺の世界で言えば、ダイヤやプラチナに匹敵するだろう。
ギルドに提出すると、受付嬢は目を見開き、慌てて奥へ。しばらくして髭面の貫禄ある男が「どこで手に入れた!?」と飛び出してきた。どうやらギルド長らしい。
周囲の冒険者たちも興奮し、「金はいくらでも出すから売ってくれ!」と騒ぎ出し、中には「剣で話をつけるか」なんて物騒な声まで上がった。
最終的にはギルド長が「皆に公平な機会を」とその場をおさめ、ギルド全体の財産として買い取る形に落ち着いた。
その金額は、この世界なら1、2年は働かずに暮らせるほどだった。
その一件で、俺の能力がこの世界にとってとんでもない影響力を持つ可能性があると実感した。
気軽に使っていいものじゃない。
エール酒を飲みながら、そんなことをぼんやり考えていた時だった。
「エール酒、足りてる?あまり進んでないようだけど?」とキョウカさんが俺の顔を覗き込んできた。
「あ、いや、ちゃんと飲んでる。ただ……金は手に入ったけど、この先どうするべきか迷ってて」
それが、正直な今の気持ちだった。
元の世界では四十代後半。こっちの世界じゃ若者の体を持ってるとはいえ、自分の居場所をまだ掴めずにいる。
「記憶が戻らない状態でお金だけあっても、どうすればいいかわからないものね……」
キョウカさんも視線を落とし、考え込むようにジョッキを置いた。
しばらくの沈黙の後、
「そうだ!」
顔を上げた瞬間、勢いよく彼女の爆乳が「ぶるん!」と震えた。
「あなた、私のいる養老院に来なさいよ!」
思いついたアイデアが最高と言わんばかりの笑顔と声。
「コッズさんを動かした技、他の修道女たちにも教えてあげて!女性だけでお年寄りの世話をするのは本当に大変なの。あんな技術、誰にも教えないなんて損よ。あれこそ宝よ!」
興奮気味に一気にまくし立てる彼女の声とともに、目の前で揺れ続ける爆乳のせいで、話しているのがそっちに見えてしまった。
「それに、あなたゴブリン相手にあれだけ戦えたんだから、記憶が戻れば冒険者としても再出発できるわよ!」
まったく、信じられない。人生初の戦闘で、あんなに戦えたなんて。
でも、たしかに……それもいいかもしれない。
遠ざけていた介護技術が、こうして自分を助けてくれるなんて、思ってもいなかった。
「じゃあ、お世話になります」
俺は素直に頭を下げた。
「決まりっ!」
キョウカさんは笑顔でジョッキを高く掲げる。
「今日はトシゾウ――じゃなかった、トシ君の門出を祝う宴よ!まだまだこれからよ~!」
明日は確実に二日酔いだな……。




