第8話 アラフィフ介護士 爆乳メイドに歓迎される
「カンパーイ!」
この世界にも「乾杯」はあるらしい。
エール酒が注がれた陶器のジョッキを、テーブルに並んだ豪快な料理――もちろん“骨付き肉の塊”もある――の上でキョウカさんと軽く打ち合わせた。
さすが異世界、期待は裏切らない。
「さあ、飲んで食べて! 今日は私のおごりよ!」
キョウカさんはご機嫌だ。ここはファルスの街にある冒険者ギルド直営の酒場。
壁のランタンと天井のシャンデリアが柔らかな光を落とす店内では、冒険者たちが成功を祝い、仲間と語らい、新たな仕事の相談をしている。
皆、剣を腰に下げ、日本史では見かけない鉄製の鎧や革のシャツを身にまとっていた。カウンター横の掲示板には見慣れない文字で依頼書がずらりと貼られていたが、転生の特典か、俺には自然と読めた。
ジョッキを傾けながら、今日一日の出来事が頭をよぎる。
森で目覚め、いきなりゴブリンとバトル。
コッズさんを車いすに移乗させたら爆乳メイド――キョウカさん――にやたら驚かれて……。
初日からイベント盛りだくさん過ぎる。
道中で少しずつ話を聞いた。俺の記憶は曖昧なフリをして「気づいたら森にいた」「名前しか思い出せない」とだけ伝えた。名前は新しい人生用に歴史上の人物から取って「トシゾウ」と名乗ることにした。
その説明もキョウカさんは「ああ、魔物の転移魔法にでも当たったのね」とあっさり納得してしまった。どうやらこの世界では、魔物の攻撃で異世界や別の時代に飛ばされることがあり、記憶の混乱も珍しくないらしい。
この世界には“魔物”が普通に存在し、軍隊とは別に、それらに対応する冒険者たちが活動している。能力や依頼の難易度次第では、冒険者は一代で資産家になったり、領主や政治の場にまで進出することもあるとか。
キョウカさんも元は名のある冒険者だったらしい。だが、強くなりすぎて逆に怖がられ、気がつけば婚期を逃してしまったという。
嘘だろ……? 俺の世界なら声かけられまくるレベルなのに。
「強すぎて怖がられちゃったのよね……。あと、まあ色々と……」
それ以上は、さすがに初対面で聞けなかった。
美人で戦えてメイド姿って……もったいない。
いろいろ考えつつも、寂しそうに語る彼女を見て、自然に言葉が出た。
「キョウカさん、きれいですよ。記憶ない俺が言うのもアレですけど、戦ってる姿は、まるで女神が舞ってるようでした」
……歯が浮くとは、こういうことを言うんだな。
「若い子がおばさんからかうんじゃないの……でも、ありがとう」
「若いもんはええのう。そういう話は二人きりのときにするもんじゃ」
車いすを押すコッズさんの声に、顔がますます熱くなる。
話題を変えようと、ふと気になった二人の関係を尋ねた。
「この人、私がいる養老院でお世話してるのよ」
話によると、約30年前に魔族との大戦があり、コッズさんは冒険者としてそれに参加。多くの仲間や家族を失い、放浪の末、余生を過ごすためこの地にやってきたという。
冒険者ギルドには、引退した冒険者を保護する制度があり、修道院が運営する養老院に紹介されたらしい。そこで出会ったのがキョウカさんだった。
キョウカさん自身もこの地に流れ着き、警護役として養老院に関わるようになったという。
初対面で「メイドさん」と思った服装は、実は修道女の制服。
この世界の神様、俺の世界から転生してきたんじゃ……と邪推してしまうほど趣味が似ている。
「動きづらいのよ、この服……」
ぶつぶつ文句を言っていたが、俺には完全にツボだった。
この日は、コッズさんの頼みで森に出かけた帰り道――俺との出会いに繋がったらしい。
その後、コッズさんを養老院へ送り届け、ファルスの街に向かった。そして今、こうして酒場にいる。
「色々あったけど、ゴブリン退治の報酬、あんなにもらえるとは思ってなかったわ」
あの戦闘の後、ゴブリンの頭領が被っていた兜や、数体から切り取った片耳を証拠としてギルドに提出。調査の結果、「祝福の森」に大量のゴブリンの遺体が見つかり、街への襲撃を未然に防いだと認定されたことで、特例として報奨金が支払われた。
「それに……魔石が拾えたのも、ラッキーだったわよね」
キョウカさんが少し頬を染めながら言った。
――本当に、転生初日からいろいろありすぎる。




