第7話 アラフィフ介護士 爆乳メイドを驚かせる。
メイドさんの顔を見て、ようやく窮地を脱した実感が湧いた。
ふと視線を下げると、俺が出した杖が霞のように薄れていく。
どうやら、この世界の戦闘で生み出した武器には時間制限があるらしい。
「ケガしてない? 立てる?」
覗き込むように顔を寄せながら、メイドさん――情報ウィンドウに表示された名は「キョウカ(26)」という――が手を差し出してくる。
和風の名前がこのファンタジー世界ではやけに浮いている。
そしてその姿は、まさに美魔女。
俺の世界の感覚でいえば、かなりの美女だ。
「……あ、大丈夫です」
その手を取って立ち上がると、血の気が引いたはずの顔が熱を持っていることに気づく。
返り血で彼女の手を汚したかもしれない。
改めて向き直ると、キョウカさんは180cmは超えてそうだった。
俺より背が高く、見下ろされる形になる。必然、目線が胸元に――いや、意図的じゃない。
大きい……。
某有名漫画の女スパイ並みに整ったスタイル。あれは武器だ。いや、むしろロングソード以上かもしれない。
「大丈夫? なんか顔赤いよ?」
キョウカさんが不思議そうに首をかしげた。ヤバい、完全にガキじゃないか俺。
「いや、大丈夫です。本当に」
「ありがとう。あなた強いのね。ゴブリンの数……あれを誰かをかばいながら倒せるなんて一寸難しかったわ」
頭を下げる彼女から、ふわりと甘い匂いが漂ってきた。
人工香料ではない、自然な甘さ――蜂蜜に近い香り。
……などと考えていると、「おーい、ワシ、いつまでこうしておるんじゃ? 腹が減ったぞ」と間の抜けた声がした。
そちらを見ると、「コッズ(65)」の表示。腰を打ったのか、体育座りの姿勢で地面に座り込んでいる。
「あっ、ちょっと待って!」
キョウカさんが駆け寄り、俺もその後ろを追う。
彼女が小道の奥から押してきたのは――車いすだ。ただ、俺の世界で使っていたものとは違う。
木製の椅子に車輪を付けただけのような簡素な造りで車輪も木の板に分厚い布を巻いたものだった。
「これがないと遠くまで歩けないのに……無理するから。自分の年齢、考えなさいよ」
ブツブツ言いながらも手慣れた様子で世話を焼くキョウカさん。
俺の世界なら、転倒させただけで報告書ものだが、この世界では扱いがだいぶ緩いらしい。
「足、痛くないわね? まずは立たないと……あー、重いわねぇ……」
キョウカさんが脇を抱えて持ち上げようとしていたが、あれでは双方に負担がかかる。
見かねて声をかけた。
「あの、俺、代わりましょうか?」
「あなたが? 大丈夫? 重いよ、この人」
「まずかったらすぐ言います」
交代し、車いすを近くに寄せてもらう。
コッズさんに「今からそっちに動きますね」と声をかけ、準備に入る。
不安そうなキョウカさん。無理もない、今会ったばかりの男に大切な人を託すのだから。
幸い、コッズさんの足は無事そうだったので、膝を曲げて座ってもらい、俺はその横に正座。膝の下に片足、腰の下にもう一方の足を入れ、体を密着させる形で潜り込む。
背中と膝を抱えて「一回動きますね」と声をかけ、ぐっと引き上げ、俺の両膝に一度載せる形で持ち上げる。
見た目よりも重かったが、耐えられないほどではない。片膝を立てて支えながら、もう片手で車いすを引き寄せ、抱きかかえるようにして座らせた。
この世界の車いすはフットレストが動かないので、最後の調整は慎重に。
「腰、痛くないですか?」
尋ねようとした瞬間、コッズさんが興奮気味に叫ぶ。
「お前さん、たいしたもんじゃ! こんなに楽に座れたのは初めてじゃよ!」
その言葉以上に驚いていたのはキョウカさんだった。
「すごい! あんな不思議な方法、初めて見た! 私、力には自信あるけど、コッズさんを動かすの、毎回必死だったのに! 私より小柄なのに、どこにそんな力が? 素手で戦ってたから? それとも魔法!?」
顔をぐいっと近づけ、早口で畳みかけてくる。
「それに……私より若いのにすごい!」
――若い? 俺が?
キョウカさんは26で俺は40代も後半。
老け顔にも定評のあるおっさんだ。
まさかと思い、左目に表示された自身の情報を開くと……年齢は「19」。
アイコンに映っていたのは、学生時代の俺の姿だった。
……ああ、そういえば、あの神様が「肉体も若返らせた」と言っていたな。
まるで、体は子供、頭脳は――って、どこの推理漫画だよ。




