第39話 アラフィフ介護士 特撮番組を思い出す①
「なんなんだよ……あれは」
誰にともなく呟きながら、俺はその場に座り込んだ。
左目のウィンドウを呼び出し、魔物の反応を確認するが——反応はない。
(どういうことだ? あれは魔物じゃないのか!?)
内心で叫ぶと、ウィンドウの声も困惑していた。
(分かりません。あの規模ならすぐ察知できるはずなのに……)
「誰かが操ってる? でも人影はないんでしょ?」
クインシーが膝に手をつき、息を整えながら口にする。
「こんな人里離れた場所で、あんな怪異を操る意味がありませんよ」
スミットが杖を支えにしながら応じた。魔法の発動と全力疾走で、彼の顔色は少し悪い。
「悪いけど、まだ終わってないみたい」
キョウカさんが警戒の声を上げる。その顔に疲労の色はなかった。剣を構えた姿は、すでに戦闘体勢だ。
「まったく……ただの下見がこんな騒ぎになるなんて」
ローザさんも周囲を見渡しながら、杖を握りしめる。
俺がその視線を追うと、屋敷の周囲の蔦がうねりながら門へと伸び、敷地全体を囲うように広がっていた。
「これって……僕たち、閉じ込められたってこと?」
グラントが不安げに言葉を続けようとした瞬間、背後の地面から蔦が蛇のように飛びかかった。
「危ないっ!」
俺は咄嗟に駆け寄り、手にした鉈でそれを切り払った。
「全員、固まれ!」
ドールマンの号令に、皆が素早く背中合わせに集まり、円陣を組む。
屋敷中の蔦が波のようにうねりながら迫ってくる。見渡す限り、緑の濁流がこちらへ伸びていた。
「こんな魔物、聞いたことない!」
クインシーが叫ぶが、ウィンドウに反応がない以上、魔物とは分類されないのだろう。
「知らなくても、目の前にいる。そして確実に私たちを襲って来ているのは現実です」
スミットが淡々と現実を述べるが、その顔は青ざめていた。
「次から次へと……」
ローザさんは冷静な声で呟いたが、突破口の見えない状況に苛立ちが滲んでいる。
俺の脳裏に、前世で観た特撮番組の記憶がよみがえった。巨大植物が蔦や根を操って人を襲う——本体は花や樹木で、それらを操っていた。
「キョウカさん」
隣で剣を構える彼女に声をかけると、
「ごめん、今は余裕ないかも」
目を離さず即答された。
「この手の魔物って、蔦に意思があるんじゃなくて、操ってる本体がいるんじゃ?」
そう問いかけると——
「それよ!」
ローザさんが反応した。
「いちいち相手してたらきりがない。本体を潰すしかないわね」
「でも、その本体ってどこに?」
キョウカさんが少し苛立った声を上げる。
その答えを出したのはスミットだった。
「この屋敷の裏です!」
その言葉に反応し、俺とキョウカさんが同時に走り出す。他のメンバーも事情は分からぬまま後を追った。
キョウカさんは進行方向に伸びてくる蔦を、次々と剣で切り払って進む。俺たちはそのスピードに何とかついていくのがやっとだった。
進むほどに蔦の密度は増し、屋敷裏にたどり着いたとき、そこはまるで卵の殻を半分かぶせたような蔦のドームに覆われていた。
キョウカさんが剣を突き立て、何度も切り払うが、断ち切ったそばから新たな蔦が伸びて壁を補強していく。
「きりがないわね……」
キョウカさんがため息をついたその瞬間——
「そこから離れてっ!!」
クインシーの叫び声が後方から響いた。




