第38話 アラフィフ介護士 あらぬ罪を疑われる
左目のウィンドウで屋敷の内部構造を確認し、それに沿って移動しながら、気づいた点をメモに書き込んでいく。
ありがたいことに、使用人用や来客用と思われる部屋の多くが一階に集中しており、うまくすれば想定以上の人数を受け入れられそうだった。奥にあった厨房も、見た限りでは破損は少ない。
さらに奥へ進むと、中央に台座だけが置かれた部屋に行き着いた。中に入り台座を調べると、何らかの記号が刻まれており、壁を突き破って屋内に伸びた蔦が太い幹のようにそこまで到達していた。
「ここ、魔石を使ってたんですね」とスミット。
「魔石って、魔力と呪文を組み合わせればいろいろ出来るの。お湯を沸かしたり、照明に使ったりね」
俺の顔に疑問が浮かんだのを察したのか、キョウカさんが補足してくれる。
「この台座の大きさなら、魔石の量もかなりね」とローザさん。
「よくもこれだけの大きさを用意した物です・・・・」とスミットも感心していた。
二階の部屋も似たような配置だったが、今は一階さえ使えれば問題ない。俺は広間で他のメンバーと合流し、お互いに確認した部屋の情報を共有した。
車座になり、それぞれ調べた部屋の位置や広さ、用途について話し合っていると「あ、あの、トシ君……。わ、私は構わないんだけど……まだお仕事中だから、あとで、好きなだけ……ね」
隣にいたキョウカさんが顔を赤らめ、モジモジと恥ずかしそうに話しかけてきた。
「は……?」
訳がわからず聞き返すと、彼女は「も、もう、やだぁ……!」と顔を両手で隠しながら俺の背中をポカポカ叩いてくる。
広間中の視線が一斉に俺に向けられた。痛い。
「トシ!」
今度は反対側にいたローザさんが怖い顔で俺を睨みつけてくる。
「触るなら堂々と触りなさい!」
……え?怒るポイントそこ?
ていうか、そもそも何の話だ?
訳も分からずキョウカさんとローザさんの顔を交互に見れば、前者はひたすら恥ずかしそうに顔を伏せ、後者は「まったく……言えば好きなだけ触らせてあげるのに」と小声でぼやいている。
このカオスな空気に耐えかねたのか、ドールマンが「勘弁してくれよぉ!!」と頭を抱える。
スミットは「余裕なのは結構ですが、仕事をお忘れなく」と冷たい目。
「不潔です!」とイアンは顔を背け、クインシーは「最っ低……!」と呆れた目で睨んでくる。
グラントに至っては無言ながら、明らかに「殺意」に満ちた視線を俺に向けていた。
ようやく俺も事態を把握する。
「お前ら、ちょっと待て! 俺は見取り図に書き込みしながら説明してたんだぞ! 両手ふさがってたんだぞ! そもそもこんな明るい時間に……え?」
そこまで捲し立てた所で俺は異常に気が付いた。
屋敷に到着したのは午前中だった。今もそんなに時間は経っていないはずなのに——広間が薄暗い。
二階の大きなバルコニーからは、光が半分ほどしか入ってきていない。よく見るとバルコニーの半分が蔦で覆われていた。
「ここの蔦って……こんな短時間で伸びるのか?」
自分でも間抜けな質問だと思いつつ、周囲に目を向けると、皆も異変に気づいた様子で窓に視線を送っていた。
「……おい、なんだこれ?」
ドールマンが広間の壁を見てつぶやく。
室内に、まるで波のようにうねる蔦が広がっていた。いつの間にか壁を覆い、数本がキョウカさんとローザさんの背後に忍び寄っていた。
「二人とも後ろ!」
俺の叫びに、二人は即座に反応。
さっきまで照れていたキョウカさんが一転、厳しい顔で抜き打ちに蔦を斬り落とす。ローザさんも杖を振るい、迫る蔦を叩き払って横っ飛びで距離を取った。
「どうやら、歓迎されてないみたいね」とローザさんが周囲を警戒する。
ふと見ると、俺たちが入ってきた入り口が蔦に覆われつつあった。このままでは閉じ込められる!
そのとき、「みんな下がって!」とスミットの冷静な声が響く。
彼は一歩前に出ると、短く詠唱。杖を突き出すと、火球が細長く変形し、ミサイルのように蔦の壁へと放たれた。
火球は一直線に飛び、入口を塞ごうとしていた蔦を爆破・焼却した。見事な破壊力。
「私が学んだ応用の一つですよ。なかなかの威力でしょ」と、スミットは誇らしげだった。
だが驚くべきことに、蔦は再びじわじわと伸び、入口を塞ごうとしていた。
「俺に続け!」
ドールマンが盾を構えて飛び出す。
巨大な蔦の壁に、盾を前面に構えて突撃。体ごと打ち込むようにして突破口を開いた。
俺たちもその隙を逃さず、続いて屋外への脱出に成功する。




